タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

(ネタ)公法系第1問(憲法)法科大学院制度の合憲性を論ぜよ。

法学者は,文科省等と協議し,法曹養成ルートについて,法科大学院ルート及び予備試験ルートを除く司法試験への参加を禁止した。
予備試験は,合格率3%と厳しく制限されている。
その結果,法曹養成ルートには,法曹志願者は,原則としてロースクールを利用しなければ入れないこととなり,法学者と大学関係者にとっては,ロースクール運営と補助金が大きな収入源となった。

司法試験については,当初,資格試験の本質に即した一発試験制が採られていたが,その後,規制緩和の流れに逆行するように,前述のような一定条件を満たさなければ参入を認めない制度に移行した。
適性試験受験者は,法科大学院の課す過大な経済的,費用的負担のため,当初の10分の1にまで落ち込んでおり,回復のきざしすら見えない。

法科大学院制度を疑問視する動きに対し,ロースクール関係者は,法科大学院制度の廃止により,教員たる法学者の収入が減少して過酷な生活を強いられることに加え,司法試験の理念も知らない心が貧困な者が弁護士になることで発生する弁護過誤事件によって依頼者の利益が脅かされるとともに,公共的な教育機関たる大学の健全な発達が阻害されるとして,法科大学院制度の存続を訴えて反対集会を開くなどの反対運動を行うとともに,文科省等に対し制度を維持するよう求めた。

法科大学院制度自体が不当な制限であり違憲と考えるCは,法務省に対し,ロースクール修了も予備試験合格もしないまま,司法試験受験の申請を行ったが,要件を満たさないとして不許可となった。

〔設問〕
あなたがCの訴訟代理人となった場合,あなたは,どのような憲法上の主張を行うか。
また,被告側の反論を想定した上で,あなた自身の見解を述べなさい。

〔解答例〕

法科大学院制度は,職業選択の自由憲法(以下,略す)22条1項)を侵害し,違憲である,と原告は主張する。

職業は,それにより生計を維持し,また人格を形成するものであり重要であり,職業選択の自由は22条1項により保障される。

法曹は,司法権の行使や国民の重要な権利に関与する重要な職業であり,法曹を選択する自由は重要である。

また,法科大学院制度により司法試験受験資格を要件とすることは,許可制に類似した事前の一律の規制であり,制約の態様は強度である。

もっとも,法曹は国民の権利に大きな影響を及ぼすから,国民の権利保護のため,一定の制約を課す必要も否定できない。

そこで,法科大学院制度の目的が重要であり,目的と手段との間に実質的な関連性があるか,さらに目的達成可能なより制限的でない選べうる手段があるかを考慮して,その合理性,合憲性を判断すべきである。

本件についてこれを見るに,法科大学院制度の目的は,法曹の役割が劇的に変化して弁護士の需要が激増することが予想され,これに対応して質量ともに豊かな法曹を育成することである。

しかし,弁護士の需要は激増するどころか,過払いバブル以降,事件数は減少しており,弁護士の需要が増加しているという立法事実はそもそも存在しない。

よって,目的の重要性は認められない。

仮に,目的の重要性が肯定されたとしても,法科大学院制度という手段と目的との間に関連性はない。

すなわち,法科大学院制度の過大な経済的,費用的負担のために,適性試験出願者は当初の10分の1にまで激減しており,これは母数の減少を意味する。
それにもかかわらず,2000人〜1800人という大量の弁護士を生み出しているのであるから,競争は極端に緩和しており,弁護士の質は旧司法試験の時代と比べて低下していると思われる。
これでは,量についてはともかく,質については旧司法試験時代より落としてしまっているから,能力ある法曹を育成するという目的との関連性が見出し得ない。

(参考)
弁護士の質を低下させる法科大学院 - タダスケの日記
http://d.hatena.ne.jp/tadasukeneko/20130211/1360547603

仮に,手段との関連性がかろうじて認められたとしても,過剰規制である。

すなわち,法科大学院の教育効果は5年で消失してしまう程度のものであるから,職業選択の自由に対置される対立利益の価値は著しく小さい。
その程度の効果であれば,たとえば弁護士に定期的に研修を義務付けるなどのより制限的でない手段でも達成可能である。

また,学校による授業形式を維持するとしても,オンライン授業などICTを使った方法であれば,同じ授業を時間,場所の制約なく多数の学生に受講させることができるので,コストを削減でき,学費の低減にも反映できるであろう。

(参考)
法科大学院におけるオンライン授業実施の模索が始まる - タダスケの日記
http://d.hatena.ne.jp/tadasukeneko/20150821/1440162664

さらに,そもそも法科大学院が存在するために法曹志願者が激減し,競争緩和による質の低下が生じているという仕組みがあるのであるから,法科大学院を廃止して,旧司法試験のような一発試験に戻すなどすれば,法曹志願者は回復し,競争促進による質の向上が見込めので目的を達成しやすくなるし,法曹志願者に対する負担も軽くなる。

このように,質の高い法曹養成という目的達成のために,より制限的でない手段が多数あるのであるから,法科大学院制度の合理性は認められない。

よって,法科大学院制度は職業選択の自由を侵害し違憲である。

これに対して,法科大学院の教育の質を強化する,または,法科大学院の教育効果を社会に宣伝するなどして,法科大学院制度の維持を図るべきという反論が考えられる。

しかし,法科大学院制度の維持は最終的な目的ではなく,目的はあくまで合理的な法曹養成制度の確立と,そこから能力ある法曹を輩出することであるから,法科大学院制度も目的達成のための一手段にすぎず,批判的に検討されなければならないことは言うまでもない。

そこで,法科大学院制度を設立して10年もたった現在の状況を見ると,原告の言う通り,その合理性は認め得ないと言わざるをえない。

よって,私見としても,法科大学院制度は職業選択の自由を侵害し違憲であると考える。

以上

元ネタ

平成26年司法試験問題
論文式試験問題集[公法系科目第1問](一部抜粋)

(前略)

そこで,A県公安委員会は,A県,B市等と協議し,自然保護地域内の道路について,道路交通法
に基づき,路線バス及びタクシーを除く車両の通行を禁止した。その結果,自然保護地域には,観光
客は,徒歩,あるいは,市営の路線バスかタクシーを利用しなければ入れないこととなり,B市のタ
クシー事業者にとっては,B駅と自然保護地域との間の運行が大きな収入源となった。

タクシー事業については,当初,需給バランスに基づいて政府が事業者の参入を規制する免許制が
採られていたが,その後,規制緩和の流れを受けて安全性等の一定条件を満たせば参入を認める許可
制に移行した。しかし,再び,特定の地域に関してではあるが,参入規制等を強化する法律が制定さ
れている。これに加えて,202*年には道路運送法が改正され,地方分権推進策の一環として,タ
クシー事業に関する各種規制が都道府県条例により行えることとされ,その許可権限が,国土交通大
臣から各都道府県知事に移譲された。

Cタクシー会社(以下「C社」という。)は,A県から遠く離れた都市で低運賃を売り物に成功を
収めたが,その後,タクシーの利用客自体が大幅に減少し,業績が悪化した。そこで,C社は,新た
な事業地として,一大観光地であるB市の自然保護地域に注目した。というのも,B駅に首都圏に直
結する特急列車の乗り入れが新たに決まり,観光客の増加が見込め,B駅から低運賃で運行すること
で,より多くの観光客の獲得を期待できるからである。

C社の新規参入の動きに対し,B市のタクシー事業者の団体は,C社の新規参入により,B市内の
タクシー事業者の収入が減少して過酷な運転業務を強いられることに加え,自然保護地域内の道路
の運転に不慣れなタクシー運転者による交通事故の発生によって輸送の安全が脅かされるとともに,
公共交通機関たるタクシー事業の健全な発達が阻害されるとして,C社の参入阻止を訴えて反対集
会を開くなどの反対運動を行うとともに,A県やB市に対し適切な対応を採るよう求めた。

一方,C社は,マス・メディアを通じて,自社が進出すれば,従来よりも低運賃のタクシーで自然
保護地域を往復することができ,首都圏からの日帰り旅行も容易になり,観光振興に寄与すると訴え
た。

(後略)
http://www.moj.go.jp/content/000123136.pdf

法務省:平成26年司法試験問題
http://www.moj.go.jp/jinji/shihoushiken/jinji08_00100.html