タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

処刑(熊本大法科大学院、募集停止を検討)

未来の地球。司法制度改革は失敗し,法曹志願者は激減していた。
しかし,失敗を認めようとしないロースクール推進派は,司法試験で一定の成果が出せなかった地方校を悪者と決めつけ,補助金を減額し,赤い星へと送りこむことにした。
赤い星は,法曹志願者となりそうな若者が枯渇しかけた死の星である。
また別の地方校が,パラシュートで死の星へと下ろされてくる。
この学校も,前の学校と同じように銀色の球体を持参している。
この球体こそ、地方校を処刑する恐るべき処刑マシーンである。

赤い星は,補助金が減額されており、ロースクールとしてこの先生きのこるためには,学費を獲得しなければならないが、入学者から貴重な学費をあつめてくれるのがこの球体である。
一つだけついているボタンを押すと、入学者数に応じて,球体に格納されているオンラインシステムによって学費が預金口座に振り込まれ、その学費を得ることができる。
このボタンは,毎年1度だけ押すことができる。
もっとも,入学者数が2ケタを切ると,内部にセットされた小型原爆が爆発する仕組みになっている。

入学者が減る傾向は,変わる兆しすら見せない。

何年目にボタンを押すと入学者数が2ケタを切り爆発するのか。それは誰にも分からない。
次年度に爆発する場合もあれば、運良く何年も爆発しない場合もある。

つまりいつ執行されるかわからない処刑を、経営難と天秤にかけながら、ロースクールはボタンを押す。
運がよければ学費が得られるし、運が悪ければボン!だ。学費か死か。ロースクールが存続する限り責めは続く。

経営難に苦しみ,爆発の恐怖に怯えながら,ついに主人公は絶叫する。
そして長い絶叫の後に,ようやく気付いた。同じことではないか。

補助金を増額され,存続を目指している定評あるロースクールと同じなのだ。
法曹志願者が9割減少し,にも関わらず2000人前後もの合格者を毎年輩出すれば,弁護士の質の著しい低下は免れない。
そして弁護士の経済的価値の低下に加え,質の低下した弁護士により弁護士職が国民からの信頼を失えば,優秀な若者の法曹離れは一層進むだろう。
若者から見放されたロースクール制度も,崩壊が避けられまい。
そうなれば,定評校も軒並み廃校となる。

一校の経営難は小さく,分かりやすいが,一国の司法制度の瓦解は,大がかりで分かりにくい。
潰れるのがいつか,定評校との違いはそれだけだった。なぜ,今までこのことに気づかなかったのだろう。

将来を考えたとき,目の前が,不意に輝きでみちたように思った。

主人公は,銀の球体を放り投げ,自主廃校を検討し始めた。
定評校に,少しだけ仕返しできたような気がした。

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翌日,報道各紙は,熊本大(熊本市)が、法科大学院の学生募集を2016年度から停止することを検討していると報道した。