タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

依然として合格率7割〜8割を目指すワーキング・グループ

以下は,ワーキング・グループの議事録に出ていた数字です。

入学定員 3,000人
修了率 不明
合格率 7割〜8割
司法試験合格者数 2,000人

仮に修了率が100%だと,合格率は6割6分6厘になるので,退学者が少し出て,修了者が少し減ると,ちょうど合格率7割〜8割になるのでしょう。

しかし,現在でも,法科大学院は教育を頑張っていると思うのですが,それでも合格率は3割弱です。

これが,今後の努力だけで,合格率7割〜8割と倍増以上になるのでしょうか。
非常に疑問です。

合格率の低かった「非定評校」が潰れて,合格率の高い「定評校」の多くが,この先生き残るとすれば,少しは合格率がアップするかもしれません。
しかし,それでは到底追いつかない数字だと思います。

ちなみに,現時点でロートップの一橋の合格率が,6割前後です。

また,私は,ローの教育力などは,合格率に大した影響はなく,一番大きいのは,学生の資質,地頭だと思っています。
言い方を換えると,ローに行かなくても,能力のある人間は,予備校を利用するなどして自力で司法試験合格レベルの実力を身につけられると思います。

(旧司法試験時代が,そうでしたし,今は予備試験によって,こうした状況が再現されています。)

そうだとすると,弁護士の経済的価値の低下により,資質ある人間も法曹を忌避するようになっていますから,仮にキレイに合格率の高い「定評校」だけが生き残ることになっても,それは単に「器」だけの問題であり,中身である学生の質が維持できなければ,合格率のアップもそれほど望めないということになりえます。

このように,まともに考えれば,合格率7割〜8割という数字は,到底現実的な数字ではないので,もしこれを本気で目指すとすれば,懸念されるのは,さらなる弁護士の質の大幅な低下です。

要するに,今までは受からなかったようなレベルの司法試験の受験者であっても,合格させてしまえ,ということです。

生き残ったのは「定評校」ばかりである,つまり多くの学生に対して教育が十分になされている,よって学生の質は確保されているから,みんな合格させてしまって問題ない(その質の高さが,司法試験の成績に表れないのは説明困難だが),という理屈も,無理やりに言えないこともないかもしれません。

新規参入者の質が大幅に低下することは,(弁護士)業界にとっても望ましいことではないでしょう。

ロー制度が弁護士を,司法をダメにする,そうした時代が10年後にはやってくるのかもしれません。


法科大学院特別委員会(第57回) 議事録

【笠井委員】
 質問させていただきます。
 一つ目は、2ページの下の方に現在の入学定員を3,000人程度を当面の目途として見直しを促進すると書いてありますが、3,000人とされた根拠についてのワーキング・グループの議論状況をお教えいただきたいということと、「当面」というのはどのような期間を考えておられるのか。その根拠・合理性等について、お教えいただければというのが1点目です。よろしくお願いします。

【土井委員】
 具体的な考慮要素としては、そこに1から4まで掲げていることを考えております。
 冒頭に書かれていますように、現在の司法試験合格者数は大体2,000人前後で推移しているのでございますが、司法試験委員会において、法曹になろうとする者の必要な学識・能力を適正に判断されておられるということをまず前提にし、法科大学院入学者数を前提に、大体現在どれぐらいの修了率であるのかを考え、さらに、約7割から8割が司法試験に合格できるよう充実した教育を行うことが求められるということを想定しますと、大体の数字の目途が出てくるだろうという判断で3,000人と結論付けたわけでございます。

 「当面の目途として」と書かれておりますのは、これは関係の閣僚会議の決定でもございますように、直接、司法試験の年間合格者数というわけではないかもしれませんが、今後求められる法曹人口について検討が行われることになっております。いつどのような形で出されるのかは、まだ明確ではございませんが、それが打ち出されれば、その後はそれを前提にして議論を進めていくことになろうかと思いますので、それまでの間、当面はこの方向でという趣旨でございます。

(中略)

【椎橋委員】
 2ページのところです。組織見直しの方向性は、基本的には私はよく考えられた方策であると思いますが、数値の記述について、2の(1)の3番目の丸の丸1の箇所で法科大学院修了者数の相当程度が司法試験に合格できるような充実した教育を行うことが求められているということで、相当数、例えば約七、八割というように、土井委員の報告でも、この点についてはっきりと約七、八割という数も言われているんですけど、この数を出すのは必要なのかどうか

 というのは、今までも合格の数値目標のことでいろいろ批判されました。数値目標が達成できないと、法科大学院生や志望者に大きな失望感を与えて、それがマスコミの格好の餌食になるというか、そういうことがありました。例えば入学定員を3,000人として、司法試験の受験資格を5年に5回ということになった場合には、累積受験生がそれだけ多くなるわけですから、合格者数が2,000人程度と考えた場合には、合格率約七、八割というのは達成できないんじゃないかと。それを考えると、こういうような数を出すのはどうかなと、そういう感じを持ちました。

【井上座長】
 今のところですけれども、「求められている」という言葉でくくられているので、これは、ワーキング・グループの考え方というよりは、閣僚会議、さらにはその前提とする検討会議のまとめの中で、そのようなことが言われているということだと思います

その大本は、司法制度改革審議会の報告書でした。そこでも、こういうことが盛り込まれていたわけで、その趣旨は、それぐらいの充実した教育を行う必要があるということであったのですが、その数字だけ独り歩きしてしまったというのは、椎橋委員がおっしゃったとおりです。したがって、求められていることは求められているのだろうと思うのですが、その趣旨は今申したようなものなのではないかと思いますけれども、土井委員いかがですか。

【土井委員】
 正確には、充実した教育を行うことが求められていることという形になってはおります。

 ただ、これらのことは従来からも言われてきたことでございまして、ここに掲げられている数字が単年度合格率なのか、累積合格率なのかということは従来から議論のあるところではございますが、例えば累積合格率を前提にいたしますと、5年3回が5年5回になっても、数字的には変化はしないことが想定されますので、それを前提にしていただければ大体、従来の議論の延長かなと理解しております。

【椎橋委員】
 ただ、数字が独り歩きするということはよくあるものですから懸念を申し上げました。趣旨は、よく分かりました。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/012/gijiroku/1343323.htm