タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

「法科大学院は今どうなっているの?志願者1万人割る」産経ニュース

少し前の記事ですが,以下のようなロースクールの記事がありました。

【教育動向】法科大学院は今どうなっているの? 志願者1万人割る - 産経ニュース
http://www.sankei.com/life/news/160620/lif1606200021-n1.html

内容に大きな間違いはないように思いましたが,感じたことをいくつか書いてみたいと思います。

ロースクールの人気の低下の原因は,司法試験合格率の低迷か?

なぜ、これほどまでに法科大学院の人気が低下してしまったのでしょうか。
それは、法科大学院修了者の司法試験合格率が低迷しているからです

確かに,司法試験合格率が低いということは,頑張っても法曹資格を得られない可能性が高いということですから,法曹志願者にとって,ロースクールへ進学しようというモチベーションが低下する要因と1つではあるでしょう。

しかし,20年前の旧司法試験の時代に,仮に合格率が20%だとしたらどうなるか,想像してみましょう。
試験会場に,法曹志願者が殺到するのではないでしょうか。

つまり,司法試験合格率のみで絶対的に人気が決定されるわけではなく,その他の要因とも関連するということです。
具体的には,
ロースクールの大きな経済的,時間的負担があるのに)合格率が20%では,ロースクールに進学する気になれない
という前提が隠されているわけです。

旧司法試験の例で言えば,
経済的,時間的負担がローと比べたらかなり小さいから)合格率が20%もあれば,法曹を目指す気になる
ということになります。

累積合格率7割は十分リスキーでは

創設当初から現在まで、法科大学院修了者の司法試験の累積合格率は、50.3%にとどまっています。
(中略)
文科省は、これからも法科大学院を再編して、全体で司法試験の累積合格率を「おおむね7割程度」まで引き上げる意向です

これも合格率の話題ですが,今はロー修了後5年間受験資格があるので,累積合格率7割ということは,3割の修了者が5年間受験し続けても合格できない状況が想定されています。
(もっとも,実際には,途中で受験の継続を断念する人もいると思いますが,話を簡単にするためにひとまず考慮しないことにします)

学部を22歳で卒業してストレートでロースクールに入学したとすると,5年後は27歳くらいでしょうか。
ロースクールの学費はもちろん,27歳までに就業していたとしたら得られたはずの逸失利益など,その経済的負担は莫大なものになります。
3割という,ごく例外とまで言えないような一定割合の修了者が,こうした負担を被りつつ,法曹資格を得られない,ということになります。

また,ロースクールを卒業できない,途中で退学するリスクもあります。
留年して,1年またはそれ以上長くロースクールに在籍し,学費を納めなければならない事態もありえます。

「累積合格率」の計算の母数は「ロー修了者」であったと思いますが,「ロー修了者」になることができないリスク,ストレートに修了できずに余計な費用がかかるリスクもあるのです。

まだ入学していない法曹志願者にとっては,これらのリスクも考慮しなければならないので,「累積合格率7割」が仮に達成されたとしても,自身が法曹資格を得られる可能性は7割よりシビアと考える必要があります。

ロースクール入学試験を改革しなければならないのでは

文科省の施策によって,仮に法曹志願者数が回復したとします。
そうした場合,どこで法曹志願者を選抜するかが問題になると思います。

つまり,文科省の方針によると,司法試験合格率は高い水準を維持したいと思われます。

そうであれば,法曹養成課程の中のどの段階で,法曹志願者を選抜するかというと,必然的に,ロー入学時以外にないと思います。

模式的に書くと,以下のようになります。


法曹志願者★★★★★

法曹養成課程(ロースクール,司法試験,修習)

弁護士★

この中の「法曹養成課程」の中で,どのように★を減らしていくか,です。



法曹志願者★★★★★

ロースクール★★★

司法試験合格者★

弁護士★

現状ではこのように,ロースクール(★★★)から司法試験合格者(★)に行くところで選抜がなされ,この合格率が低いことを一部の人たちが問題視しています。


では,合格率を高く維持するとすると,ロースクールと司法試験合格者の人数のギャップが小さくなります。

法曹志願者★★★★★

ロースクール

司法試験合格者★

弁護士★

そうすると,必然的に,法曹志願者とロースクールの人数のギャップが大きくなり,すなわち,ロースクールの入学試験で実質的に法曹になるための選抜が行われる,ということになります。

そこで,ロースクールの入学試験は,法曹を選抜するために適したものか,と考えると,現状ではあまり法律と関係のない試験がされているようです。
(既修と未修でまた異なると思いますが)
しかし,実質的に法曹を選抜する試験になるのですから,法律家の素養のない者を弾き(ここを通過すると高い確率で法曹になってしまう),逆に素養のある者を的確に拾い上げるような試験にしていかなければなりません。
制度設計を見直すということになるでしょう。

司法試験合格率の向上を主張している人たちは,そこまで考えているのだろうか,ということを感じました。

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