タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

「予備試験組が不公平とならぬよう割合を配慮すれば合格者が増え、実績ある法科大学院 から崩れることとなり、法曹養成牽引の主要なエンジンが損なわれる。 」

資料が公開されていました。

第8回法曹養成制度改革顧問会議(平成26年5月23日開催)
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/hoso_kaikaku/dai8/index.html


【資料6−1】 法曹人口・司法試験合格者数に関する緊急提言(平成26年4月9日自由民主党 政務調査会司法制度調査会・法曹養成制度小委員会合同会議)
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/hoso_kaikaku/dai8/siryou6-1.pdf

まともな人間が合理的に考えれば,まあこうなるだろうな,という内容でした。

しかし、同取りまとめを踏まえて同年 9 月にスタートした法曹養成制度改革推進会議等における議論の進捗状況に鑑みれば、こうした危機意識に沿った議論がなされているとは必ずしも言いがたい。

また、在るべき法曹人口について政府は内閣官房法曹養成制度改革推進室が行う法曹人口調査の結果を待って判断するとしているが、この調査には今後1年以上も時間がかかり、調査結果を待ってさらに議論を重ねるということでは遅きに失することが明白である。

このような徒に時を重ねる対応では、わが国の法曹養成制度及び司法制度は早晩危機に瀕すと言っても過言ではない。

全編,まっとうな法科大学院制度批判でしたので,どこを引用するか迷いましたが,これまであまり触れられてなかった有識者会議への批判の部分を引用してみました。



【資料10−3】 中教審法科大学院特別委委員会(第61回)における委員からの予備試験に関する主な御意見等(文部科学省
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/hoso_kaikaku/dai8/siryou10-3.pdf

予備試験の受験年齢を上げるべき。経済的事情への配慮であれば、本来、奨学金で対処可能。
適性試験を経ていないなど、予備試験と法科大学院の位置付けの違いをはっきりと示すべき。

奨学金って,借金ですから,学生ローンと呼ぶべきですよね。
また,適性試験を経たことをステータスにするなんて,感覚がずれてるんじゃないでしょうか。

規制改革に関する閣議決定での合格者の均衡については、議論の前提たる法科大学院が十分に機能しておらず、そのような状況での割合の比較はナンセンス。
予備試験がその趣旨に適っているかは疑わしいが、いずれにせよ根治療法と対処療法の併用が望ましい。

予備試験組が不公平とならぬよう割合を配慮すれば合格者が増え、実績ある法科大学院から崩れることとなり、法曹養成牽引の主要なエンジンが損なわれる

タイトルは,ここから引用しました。

ここまで予備試験に危機感を抱くなら,法科大学院設立のときに,こんなに時間と費用がかかる制度がうまくいくのか,危機感を抱かなかったのでしょうか。

確かに予備試験合格者は潜在的に優秀な人が多いと感じるが、法科大学院を経由するか否かで10年後20年後の日本の法曹がどう変わるのかを考えるべき。

これには思わず笑ってしまいました。
5年で教育効果が薄れて受験資格を失うことと,この人はどのように整合性をとっているのでしょうか。

伊藤塾へのアンケート

【資料11−2】 「司法試験受験予備校に対する質問事項」に対する回答事項(伊藤塾
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/hoso_kaikaku/dai8/siryou11-2.pdf

10 法科大学院と受験予備校との関係をどのようにお考えですか。

法科大学院と予備校の関係は、以下のように考えています。

社会に貢献する法曹を輩出するための、役割分担の関係。
・基本となる法律の解釈および事実認定は法科大学院入学前に予備校で学び、法科大学院入学後は、一歩進んだ解釈や具体的事例に応じた事実認定のトレーニングを積むべきであると考える。
弊社が考える「法律解釈の基礎」とは、「法律の趣旨から理解することにより、定型的・一義的にではなく、判例の解釈を基準としつつも、弾力的・論理的に「自分の言葉で」表現することができること」、「事実認定の基礎」とは、「判断の対象とすべき具体的な事実の抽出・選別をおこない、評価を加え、日常的・社会通念的に妥当な判断を下すことができること」である。

法科大学院卒業後、答練などで時間内に自分の力だけで答案を書き上げるトレーニングを行い、司法試験受験に備える。

背中がムズムズするような文章でした。
ロースクールをばっさり斬るわけにもいかないでしょうし,建前としてはこういうしかないでしょうけれど。

11 予備試験について,現状のままでは本来の制度趣旨を損なうおそれがあるとして,制度的な制約・変更を講じる必要があるとの意見も聞かれますが,これについてどのようにお考えですか。

予備試験制度について、制約・変更については以下のように考えています。

法曹養成制度にこそ日本国憲法の根本価値である個人の尊厳を貫くべきであると考える。

人格的生存に不可欠な「学びの自由」は人権の中でもとりわけ重要であり、国家が法科大学院進学、予備試験いずれを経て司法試験受験に至るかについてまで介入すべきではない。

かかる学びの自由を重んじ個人の選択に委ねることこそが、法曹志願者の拡大ひいては多様な人材の登用という法曹養成制度の趣旨にかなうものと考える。

予備試験の弊害を論ずることよりも、今一度、多様性の確保という法曹養成制度の最も大切な目的に立ち返るべきであると考える。

一方,ここはさすが伊藤真というべきか,真正面から反論して気骨を見せていました。


辰巳へのアンケート

【資料11−3】 【司法試験受験予備校に対する質問事項】回答書(辰巳法律研究所
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/hoso_kaikaku/dai8/siryou11-3.pdf

10法科大学院と受験予備校との関係について

法科大学院の授業では、法曹として必要な判例理論を中心とする基本的な知識・理解の確認を行い、受験予備校は短答演習や論文答案練習などの受験に特化した学習の機会を提供致しております。
法科大学院生は、それぞれ別の目的にしたがって通うものであり、両者とも必要な機関であると認識しているものと思われます。

こちらも無難な優等生的な回答です。
表面的,形式的な点に触れるに留めていました。

11予備試験の制度的な制約・変更について

予備試験は、経済的な理由により法科大学院課程を経ることができない者にも法曹となる道を例外的に与えるというのが本来の趣旨とされていますが、現実には、大学の学部生や法科大学院進学者が多く受験しており、本来の制度趣旨を損なっているという意見もございます。

ただこの問題は、予備試験ルートVS法科大学院ルートというように一面的に捉えるべきではなく、如何にして、多くの若く有意な人材や社会経験を経た人材が、司法試験に挑戦できる機会を増やすかという視点で考えるべきだと思います。法曹養成制度全体の複雑さ、経済的・時間的負担から、法曹界に進むことを諦める人材が増えている現状に鑑み、もう一度法曹養成制度について考えるべき時点になっていると思われます。

予備試験の制約が是か非か,直接には答えていない曖昧な表現ですが,どうやら制約には反対の立場のようです。