タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

「法科大学院受験者の減少と予備試験の存在と の間にはあまり相関関係はないのではないか」(平成26年司法試験予備試験口述試験受験者に対するアンケート調査結果)

相変わらず、ロースクールと予備試験を二項対立としてとりあげた朝日新聞の記事ですが、これとは異なる意見もあるようです。

法科大学院、淘汰の波 学費高く、人気は予備試験へ 朝日新聞デジタル
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11614853.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11614853

法曹養成制度改革顧問会議の資料の中の、「平成26年司法試験予備試験口述試験受験者に対するアンケート調査結果」にその意見はありました。

第15回 法曹養成制度改革顧問会議(平成27年1月27日開催)
【資料7−1】 平成26年司法試験予備試験口述試験受験者に対するアンケート調査結果
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/hoso_kaikaku/dai15/index.html

平成26年司法試験予備試験口述試験受験者に対するアンケート調査結果

○ 予備試験の受験資格に年齢制限を加える動きがあるが,間違っていると思う。

大学在学中に予備試験を受験する人は,ほとんどの場合法科大学院を併行して受験している
別に法科大学院の教育が駄目だからという理由で予備試験を受験しているわけではなく,いずれ受験するであろう司法試験を見すえて実力を試すという意味で受験されている人が多いと思う。

つまり法科大学院受験者の減少と予備試験の存在との間にはあまり相関関係はないのではないか

単に法曹を志す人が減っているだけだ
予備試験の受験資格に年齢制限をかければ,更に法曹志望者が減ると思う。(大学生)

http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/hoso_kaikaku/dai15/siryou07-1.pdf

予備試験者のグループと、ロースクール受験者のグループは同一

大学生の予備試験者は、ロースクールも受験している。
つまり、予備試験者のグループと、ロースクール受験者のグループは、同一だ、ということです。

言い方を変えると、若い法曹志願者層は、予備試験もロースクールも受ける、ということでしょう。

確かに、今の予備試験の低い合格率では、予備試験専願で行くのはリスクが高すぎるかもしれません。
既習者コースであれば2年ですから、変に予備試験で足踏みするくらいなら、(学費の経済的負担は別とすれば)2年で卒業して受験資格を得ることができてしまいます。

予備試験とロースクールを併願し、仮にロースクールへ入学することになっても、1年のときから予備試験を受けると、こうした人は「予備試験を受験するロースクール生」にカウントされます。

こう考えると、予備試験がロースクール入学者を奪っている、という理解は、かなり事実と異なることになります。

予備試験とロースクールを併願する大学生

こうした視点で冒頭の朝日新聞の記事をよく見ると、3人の大学生のうち、ロースクール希望の1人を除く2人は、予備試験とロースクールを併願するようであり、こうした理解に合致します。

慶応大法学部2年の男子学生(20)は昨年11月に参加したが、進学より予備試験の合格を優先する。「時間もお金も少なくて済む」という理由だ。

(中略)

 関東学院大法学部3年の久野さとみさん(21)も進学と予備試験の両にらみだ。「(進学時期に)父親が定年を迎える」と、学費を気にする。法科大学院で学びたいが、入学しても1年目から予備試験を狙う。

ところで、最後のロースクール希望の大学生ですが、その理由である「仲間づくり、人脈づくり」はローの教育内容と関係ないような気がしますが……
司法修習を長くしても、「仲間づくり、人脈づくり」は達成できるでしょう。

地の文でローの教育内容に期待するようなことが書かれていますが、絵に描いたような紋切り型の表現であり、記者の創作ではないかと疑いたくなります。

 国際基督教大教養学部3年の萩野実央(みお)さん(21)は法科大学院を重視する。「仲間ができるし、人脈づくりができる」と、予備試験は考えていない。
最先端の法律実務に触れ、幅広い法的思考力を培うことを期待する

もし、予備試験に年齢制限を設けて、若い人たちロースクールを強制したとすると、予備試験合格を第1希望としながら法律の勉強を始めて、そのままロースクールへ流れていた層が、むしろ入り口で法曹以外の道へ進む可能性があります。

そうなれば、ロースクールの入学者はますます減るでしょう。

進む弁護士の経済的価値の低下

予備試験がロースクールに悪影響を与えていないとすると、なぜ法曹離れが進んでいるのか。

いろいろな理由はあると思いますが、弁護士の経済的価値の低下、平たく言えば弁護士になったときに収入が期待できなくなった、ということが大きいような気がします

日弁連に、ひまわり求人求職ナビというサイトがあり、ここでは弁護士事務所が求人情報を掲載して求職希望者を募集したり、修習生がプロフィールを掲載して弁護士事務所からのオファーを待つことができます。

ひまわり求人求職ナビ - 日本弁護士連合会
https://www.bengoshikai.jp/kyujin/link.php

ここで、修習生は、希望する年収を掲載することもできます。

ログインするにはパスワードが必要ですし、個人情報ですので、詳細を書くことは控えますが、ここ数年で顕著な変化があり驚いています。

2〜3年前であれば、500万〜600万くらいがボリュームゾーンであり、400万以下もないことはありませんでしたが、数は少なかったものです。

現在は、300万、400万、500万〜600万が、ざっくりですが、同じくらいの割合になっているでしょうか。

数年間、1日のほとんどの時間を勉強に費やし、高い学費を支払い、20%台の合格率の試験を突破して、無給の修習で強制的に数百万の借金を負わされて、その後の待遇が年収300万なら、そのような職業にどうして優秀な若者が集まるなどということがあり得ようか(反語表現)。

おまけ、給費制復活運動

「金持ちしか法曹になれない」制度でいいのか?「無給の司法修習」改善もとめて集会|弁護士ドットコムニュース
http://www.bengo4.com/topics/2709/

記事全体のトーンとして、給費制復活をかなりプッシュしている印象を受けました。

しかし、切り口として、個人の経済の問題とすると一般の方の心に響きにくいような気がしました。
『「金持ちしか法曹になれない」制度でいいのか?』とありますが、極端な話、それで何が困るの?という反応もありうるような気がします。
給費制の頃から、例えば若者が100人いれば、100人が法曹となることを検討する、というような職業ではなかったと思います。

もっと真正面から、経済的な負担が大きすぎると優秀な若者が法曹を目指さなくなって、法曹の質が低下して長期的に見て国民全体に大きな損失になる、と言った方がいいように思います。

もっとも、このように言うと、現行制度で弁護士になった自らが、緩い競争で弁護士になっており質が低いと受け取られかねないので、勇気はいるでしょう。
ただ、ロースクール修了生は、高度の専門的な法律知識、幅広い教養、職業倫理とともに「豊かな人間性」も備えているはずなので、この点は問題ないはずですが、どうでしょうか。
ひとえに、彼らが受けたロースクールの教育力にかかっていますが、司法制度改革の理念を体現したロースクールならきっと大丈夫でしょう。
タイタニック号(大船)に乗ったような気持ちで見守りたいと思います。

司法制度改革推進法

第二条 司法制度改革は、国民がより容易に利用できるとともに、公正かつ適正な手続の下、より迅速、適 切かつ実効的にその使命を果たすことができる司法制度を構築し、高度の専門的な法律知識、幅広い教養、豊かな人間性及び職業倫理を備えた多数の法曹の養成及び確保その他の司法制度を支える体制の充実強化を図り、並びに国民の司法制度への関与の拡充等を通じて司法に対する国民の理解の増進及び信頼の向上を目指し、もってより自由かつ公正な社会の形成に資することを基本として行われるものとする。
http://www.kantei.go.jp/jp/sihouseido/hourei/1116suisinhou.html