司法試験合格者が2000人に「抑えられている」原因として,弁護士の都合,ひいては法曹三者の都合と語られることがありますが,それは本当でしょうか。
司法試験合格者が2000人に「抑えられている」原因は,法曹三者の都合か?
結論から言えば,これは事実ではありません。都市伝説の類でしょう。
合格者が2000人になっている理由は,以下の議事録の中で語られています。
法曹養成制度検討会議第14回(平成25年6月6日開催)
http://www.moj.go.jp/housei/shihouseido/housei10_00031.html
議事録[PDF:293KB]
http://www.moj.go.jp/content/000112645.pdf
p9
○井上委員
これまでも何度か申し上げてきましたけれども,今の司法試験のシステムというのは,政策的に何人と決めて,それに合わせて合格者を決めるという性質のものではありません。
受験者の学力といいますか,試験の成績を司法試験委員会のほうで判定して決めている。
その結果として2,000人なら2,000人という数字になっているということなので,その仕組みを変えない限り,それを何千にするということを言うわけにはいかない性質のものだと思います。
井上委員によりますと,学力,試験の成績により,結果として2000人となっている,とのことです。
ところがこれに対しては,萩原委員からは以下の発言がありました。
p10
○萩原委員
井上委員の御意見に対してですけれども,井上委員からは前回も確か同じようなことで御発言いただいたと思いますけれども,振り返ってみると合格者が500人,600人のレベルから,目標を3,000人に決めたときに,これは徐々に今の2,100人のところに向かって増えていっているわけです。
年々歳々。増えていくときは,ある一定の質を確保するといいながら,あれだけ急激に増えていくということは質以外にやはり全体で増やそうという政策意図が働いて,増えてきているものだろうと考えます。
「3000人のはずが2000人に抑えられている」どころか,従来の500人〜600人のレベルから政策的に2000人まで増やされてきたそうです。
言っていることが正反対です。
びっくりですね。
これに対して,井上委員は,以下の発言において「いや,司法試験委員会は実質的な学力判定をしている。2000人に増えたのは法科大学院の教育の成果だ」と粘ります。
p10
○井上委員
あまりここでバトルのようにになってもいけませんので簡潔にお答えしますと,その理屈でいくと,計画的に3,000人合格を目指そうという方針があったわけですから,それに沿って,既に3,000人に限りなく近い数の合格者が出ているはずだと思うのです。
しかし,そうはなっていないということは,やはり司法試験委員会において実質的な学力判定をしていることの証左だといえるのではないかと思われます。加えて,旧試験とは違って現行の司法試験は,法科大学院の教育を前提にしてつくられておりますので,その教育の成果が司法試験の結果に反映して,2,000人余りの数まで合格者数が延びてきたといえるのではないか。現在の制度の下でもですね。
しかしここで,見るに見かねたかのように,丸島委員から,「合格ラインというのは,一定の幅の中で操作できる。できるだけ多くの人数を合格させるように操作した結果が,2000人という数字だ」という反論がされて,ここでの議論は集結します。
p10
○丸島委員
今の点についてあまり繰り返して深入りするつもりはないですけれども,司法試験委員会が一定の合格基準に基づいて合格者を決める。これは原則の考え方としてはそうだろうと思います。
しかし他方で,この間,新たな制度に基づいて,3,000人という政策目標を目指して,毎年数値目標を設定してきた。合格ラインというのは,250点は合格だが,249点では駄目だというほどに線引きが明確なものではありませんから,一定の幅の中で質を見てこの辺りならいいだろうということでやっておられるのだろうと思います。そうすると一定の政策目標に基づき,このぐらいの合格者数を目指すべき,例えば二千名余の合格者を目指せというときは,一定の質の幅の中でできるだけ精一杯目標数に近い数のところで合格ラインを設定しておられたというのが実態なのではないかと私は思いますし,社会的にもそのように見られていたのではないでしょうか。
これをまとめると,
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- 司法試験委員会が学力判定することで,結果的に合格者数は決定される。
- 合格ラインを許容される範囲内で操作して,言い換えると合格判定の基準を甘くして,なるべく合格者を多くしてきた。それが2000人という数字だ。
ということらしいです。
合格者数を「抑えてきた」どころか,「頑張って増やしてきた」というのが実態である,ということですし,「抑えてきた」事実がない以上,その原因として「弁護士の都合」や「法曹三者の都合」という事情があるということもありません。
法曹三者の地位
ちなみに「法曹三者」は,圧力をかけて合格者数を恣意的に抑制するどころか,むしろかやの外に置かれてきたようです。
同じ会議の中で,和田委員の以下の発言がありました。
p22
○和田委員
法曹養成制度を検討する場合に,もちろん法曹三者以外の方の視点も必要で大変貴重であるとは思いますけれども,例えば司法試験の試験科目にしても,法曹実務家を養成する場面での各科目の持つ意味はどういうものなのかという話になりますと,法曹三者でないと実際上議論が十分できないように思います。私は,決して法曹三者が偉いとか偉くないとかいうつもりは全くありません。
そうではなくて,法曹養成という事の性質上,実情をよく知っている法曹三者が当事者となって初めて実情を踏まえた十分な議論ができるように思うだけです。
もし,失礼に感じる方がいらっしゃるとすれば申し訳ないと思うんですけれども,率直に言って,法曹三者が当事者とならなかったということが,この検討会議を含めこれまでの会議の限界であったように感じます。したがって,今後の検討体制の在り方としては,この取りまとめの24ページにありますような「法曹三者等の意見を必要に応じて求めることができる体制」というのではなくて,むしろ法曹三者自身が当事者となった検討体制を設けるべきである,と私は考えます。
以上です。
参考サイト
気まぐれで,たまたま偶然に,今ふと思いついて,「法曹三者の都合」で検索したところ,意外なことに,思いがけず以下のようなサイトにヒットしてしまいました。
いやあ,大変に驚いてしまいました。
ロースクールと法曹の未来を創る会
ところが、閣議決定までされて司法試験合格者の数は、法曹三者の都合で大幅に抑えられ、その結果、ロースクールを卒業したにもかかわらず、法曹資格を得られない者が多数生じるという状況が生じました。ロースクールがかかる困難の多くは、ここに由来します。
http://www.lawyer-mirai.com/mirai.html
以上の検討からすると,こちらのサイトの認識は誤りということになりそうです。
また,念のためネット上で調べたところ,適法な引用にあたるケースでしたので,ここに一部を引用させていただきました。
誠にありがとうございました。
ホームページで他の記事を引用するときの著作権問題
http://www.showtem.com/st67