タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

定評校維持のために奮闘する井上委員,法曹養成制度検討会議第13回(平成25年5月30日開催)

議事録がアップされていました。

法曹養成制度検討会議第13回(平成25年5月30日開催)
http://www.moj.go.jp/content/000112269.pdf


井上委員が2回発言されていますが,この人はクレバーな人だと,あらためて感じました。

定評校の維持のために,非定評校と予備試験を仮想敵として,的確に牽制球を投げています。

非定評校潰し

まずは,非定評校に標的を定めて,「法的措置」の話があいまいなままにうやむやとならないように,きちっと議題に上げて具体化させる努力をしています。

○井上委員
2点,申し上げたいと思います。
1点目は,新たに法的措置を設けることとするとなっている点についてですけれども,
ここで言う「法的措置」とは具体的にどのようなものであるのかということについては,
本会議でのこれまでの議論でも幾つかの考えられる措置についての言及があったものの,
共通の認識が得られるまでに至っているとは思えません

2点目は,2つ目の○の米印の部分ですけれども,最終的には直近合格率で7割,8割となることを目指すと書かれているのですが,
大きな目標としては私などもそういうふうになれば良いなとは思います。

ただ,これがその後に書かれてある法的措置の発動基準との関係で見ますと,
そこで言う「法的措置」の内容が具体的にいかなるものを意味するかにもよりますけれども,
現実的に考えて一種のいわば権力発動による措置が必要となり,
また,正当化されるのは,やはり最低ライン,あるいはかなり低いラインをすら下回っている法科大学院に対して発動されるということになるだろうと思われますので,
直近の合格率が7割,8割ということと,そのラインとの間にはかなり隔たりがあると,
現実的に言ってそういうことになるだろうと思います。

これに対して,即座に的確な反論を行ったのが和田委員。

○和田委員
この法的措置の問題も,私の考えとは前提が違うんですけれども,
一言意見を述べさせていただければと思います。

この法的措置というのは,座長試案の米印のところからも窺われますように,
法曹志願者の減少の主な原因は司法試験の合格率の低さにあるという考え方をとった上で,
合格率の分母に当たる司法試験受験者数を減らせば合格率が高まり,
それによって法曹志願者の減少を阻止する対策になる,
あるいは法曹志願者を増加させる方策になるという考慮もあるように思います。

しかし,私はそういう考え方ではうまくいかないのではないかと思います。

その理由ですけれども,現状は法曹志願者の激減によって,既に定員割れとなっている法科大学院が非常に多いわけですね。

文科省の説明資料にもありましたように,今年度は93%の法科大学院で定員割れとなっているわけですし,
今年度における法科大学院全体の定員充足率は63%に過ぎないわけです。

そうすると,仮に法的措置を用いたとしても,しかもそれも早くても2年後からだというのであれば,
一部を統廃合させたり定員の一部を削減させたりするぐらいでは,現実の全く不十分な後追いとなるに過ぎず,
志願者の減少に追いつかないように思います。

そうすると,司法試験の合格率の分子に当たる合格者数を減らさないということを前提にした場合に,
法曹志願者の減少で法科大学院入学者も減り,合格率の分母に当たる司法試験受験者も減って,
司法試験合格率は高まるということになります。

そうすると,これは,「司法試験の合格率を上げて,その結果として法曹志願者を増加させる」というのではなくて,
むしろ「法曹志願者が減少して,その結果として司法試験の合格率が上がる」という皮肉な結果が生じるだけであるように思います

結局は,弁護士の職業としての魅力を増すとか,あるいは法科大学院や司法修習における借金の問題を改善するなどとかを考えないで,
法的措置の制度を作ったとしても,私は,法曹志願者の減少の対策,あるいは法曹志願者を増やす方策としては有効ではないのではないか,というふうに思います。

以上です。

ロー賛成派が,見かけの合格率が上がるので,内心では,法曹志願者が減っても構わないというか,ある意味では好都合と考えているらしい,ということは,私もこの会議をヲチしているうちに,薄々感じており,過去のエントリーではネタにしたこともありました。

ダディーの教え

「逆に考えるんだ。“法曹志願者が減っちゃってもいいさ(全体の入学者が減って非定評校が自滅してくれれば,潰す手間が減るし,受験者数が減れば見かけの合格率高くなるからね)”と考えるんだ」(定評校の学者)
http://d.hatena.ne.jp/tadasukeneko/20130518/1368871367

予備試験潰し

○井上委員
2点目は,試案に盛り込まれていない部分ですけれども,予備試験について
何らかの方向を出すのは時期尚早だとされているわけですが,事態は非常に急速に,
かつ広範囲で進行し深刻化しているのは紛れもない事実
ですので,
様子を見ながら検討するということで結構ですけれども,これも法的措置の検討などと平仄を合わせて,
今後2年間で何らかの措置が必要かどうか,必要だとすればどうするかということを検討し,
結論を出すということとしていただきたいと思います。

第2発言では,予備試験を標的として,予備試験潰しの措置の具体化も,促しています。

私の印象では,ロー賛成派は,予備試験がまだ2回しか実施されておらず,これから「滞留者」が発生するので,確実に予備試験組の司法試験合格率は下がることが予想されるから,様子を見よう,と,割と楽観視というか,様子を伺っていると思っていました。

予備試験に対する具体的な攻撃をしているのを見たのは,初めてかもしれません。
(「心の貧困」ウンヌンは,単なる抽象的な誹謗なので)

予備試験に人が流れることによって「事態は非常に急速に,かつ広範囲で進行し深刻化」するのは,あくまで定評校を含むロースクールにすぎません。

そんなものを心配するくらいなら,ロースクールが日本の司法制度を崩壊させており,その「事態は非常に急速に,かつ広範囲で進行し深刻化」していることを憂慮してほしいものであります。