「そんなふうに考えていた時期が俺にもありました」by井上委員
表題の,
「法曹人口がどれくらいであるのが適切かは,本来,社会の需要やマーケットとの関係で決まる」
とは,以下の,2002年発行の「司法制度改革」(佐藤幸次,竹下守夫,井上正仁)という書籍の205ページで述べられている,井上委員の発言です。
昔は,まともなことも言っていたのですね・・・
- 作者: 佐藤幸治,井上正仁,竹下守夫
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2002/10
- メディア: 単行本
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それが今や,マーケット(=就職難)を考慮すべきではない,弁護士生産工場たる法科大学院の事情を考えろ,と,消費者の視線ではなく生産者の都合で考えろ,と意見が変遷しています。
この10年の間に守るものができて,純粋な道理だけではなく,多方面の利益を考えなくてはならなくなったためなのでしょうか。
↓
法曹養成制度検討会議第11回(平成25年3月27日開催)
議事録p16
○井上委員もう一つ,就職難等を理由に下方修正すべきであるという御意見がありましたけれども,
それを先行させ,その数に合わせて定員を見直せという議論は不適切ではないかと思います。というのも,3,000人という目標が掲げられたのを前提として,各法科大学院とも現在の定員設定をしたはずなので,
その各校の定員設定がそのような前提からしても合理的なものであったかどうかは疑問とする余地があるとしても,
その目標値をいきなり切り下げて,法科大学院の方がそれに合わせて定員を削減しろというのは,余り適切ではない。
3000人という数字は適当だが,需要がさらに上回るはずなので,目標値として定めただけである
該当箇所の前後の記載で面白いのは,例の数値目標の3000人という数字がなぜ定められたか,の理由です。
前提知識がなければ,
「根拠もなく3000人という,多すぎる合格者数を定めた」
と思いがちですが,実はそうではなく,
「根拠もなく3000人と定めたが,需要はこれをさらに上回る(例えば4000人,5000人など)。
3000人という数字は少ない数字であり,最低ラインとして決めただけなので根拠がなくても問題ない。
3000人を達成したら,社会の需要に応じて,その後4000人,5000人と調整していく」
ということのようです。
意味が通じる程度に,前掲書籍から内容を抜粋すると,以下のようになります。
↓
佐藤
p203
「ではなぜ3000人なのか,その根拠は何か,と問われると,それ自体としては難しい。」p204
「司法が期待どおりに動くためには,少なくともこのぐらいの数字は早急に実現しないといけないのではないか,ということなのです。」「法曹人口の国際比較の差をご覧いただきますと,いかに日本の法曹人口が少ないかということが実感されるかと思います。」
「そこで,せめて日本もフランス並みぐらいは,ということもあって,3000人という数字が出てきたように思うのです。」
「この3000人に関連して,付け加えておきたいのは,これでとどまるという趣旨ではないということです。
先ほど来「当面」という言い方をしてきましたが,3000人というのは,まず目指すべき目標数字であって,そのために法科大学院を作って,やりましょう,ということなのです。」
井上
p205
「一国の法曹人口がどれくらいであるのが適切かは,本来,社会の需要やマーケットとの関係で決まるはずのもので,
何らかの数を設定することにはなじまない性質の事柄なのですが,わが国では,これまで,あまりにも少なく抑えすぎていた。そして,そこから,今回の改革の前提とされるようないろいろな問題状況が出てきたと考えられますので,
まずはある目標値を立てて,その達成に向けて制度整備をやっていくべきだろう。
その目標値が3000人ということでありまして,
それを達成した後どうなるのかは,その段階でのマーケットの状況や法曹養成制度の整備状況などを見て考えるべき事柄だろう,ということです。
佐藤
p206
「そうですね。ですから,3000人それ自体の根拠が,どうのこうのと言うのは,あまり意味のある議論ではないということです。」
要するに,社会の法曹需要は,年間3000人の合格者を余裕をもって吸収できる。
3000人を達成したら,状況を見て,さらに合格者を増やしていく。
だから,3000人という数字は,小さい数字を暫定的に目標値として挙げたというだけで,それ自体に深い意味はないし,それでよい。
ということらしいです。
法曹需要の予測を,3000人をさらに超えると見積もっていたということですので,単に3000人と見積もっていた場合と比べて,より一層予測の外し方の程度がひどくなったように感じられます。
現実的で精密なリサーチがなかった一方,お花畑の中で夢いっぱいだった司法制度改革初期の状況が伺われます。