タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

法曹養成制度検討会議 第7回会議 議事録,平成25年1月23日

公表されています。

法曹養成制度検討会議 第7回会議 議事録
http://www.moj.go.jp/content/000107755.pdf

予備試験が議題になっています。



井上委員発言

まず,田島委員が,予備試験受験者の類型について,分析的に発言されています。

p3
○田島委員
予備試験の仕組みというのは,スタートしたばかりでまだまだ実態的には深まった状態にはなっていないのだと思います。
しかし,この2回で見てはっきりしてきているのは,とてもいいチャンスを与えていただいているなと思います。
一つは,法科大学院に行けない人たち,あるいは,行ってもそこで満足な教育を受けていないと思っている人たち,もう一つは,法科大学院を出て5年の間に3回試験を受けたのだけれども,合格できなかった人たちが5,000名近くいるのではないかと言われている状況になっています。

そういう人たちに新たに再チャレンジするチャンスを与える意味でも,予備試験という仕組みがもっともっと充実していくようになったらいいのではないかと思います。

一方で,言うならばプロセスとして教育をするという中で法科大学院は非常に大きな役割を果たしているという事実は大切にしなければいけないことだと思います。
同時に,どうしてもそこに合わなかった人たちとか,特に非常にゆっくりゆっくり成長する人たちもいるわけですから,そういう人たちのためにも,さらにこの予備試験がどうしたらもっと充実するかということを考えて進めていければと思っております。
以上です。

これに素早く反応したのが井上委員。

p3
○井上委員
今の御発言,そういう面があるということは否定できませんし,その限りでは私も反対ではないのですけれども,今の実態を見ますと,そういうふうには動いていないというのが事実だと思うのです

ところで,井上委員の論法(クセ?)として,冒頭で,相手の発言に一定の理を認めるような感じで受けながらも,その後は,自分の言いたいことを一方的に言い倒すことが,よくあります。
この後の,第8回会議でも見られた論法でした。

ここでは,田島委員の挙げられた予備試験受験生の話から変わって,予備試験合格者の話になり,自らの見解を滔々と述べられます。

○井上委員
資料1の179ページに今年の最終合格者の内訳が示されていますが,数が限られているので決定的なことは言えませんけれども,大学の在学生,ほとんどが法学部の在学生だと思うのですが,26名。
それに,法科大学院の学生が8名ですが,私はかなり具体的に8名の中身がわかるものですから申しますと,法学部在学中に予備試験を通って,ロースクールに進学したけれども,本試験にチャレンジして受かったという人たちです。
もう一つは無職ですが,その多くも法学部在学中に予備試験を通って,ロースクールには行かずに本試験の勉強をして受かったという人たちだといってよいと思います。これらを合わせると,最終合格者58人のうちの48人を占めていることが分かります。
もちろん違った人も含まれているとは思うのですけれども,ほとんど法学部時代に予備試験を通って,ショートカットないしバイパス的に本試験に合格した人たちです。

やたらと,予備試験合格者は,学部在学中に,現役で予備試験に合格した人が多いことを強調されています。
要するに,「ショートカットないしバイパス」だということで非難したいので,その布石なのでしょうか。

この内,
(1)学部在学生
はともかくとして,
(2)ロー在学中に本試験を通った人ついては,ロー在学中に「脱北」を図って,予備試験に通った人もいると思います。
「法学部在学中に予備試験を通っ」て本試験受験資格を得たけれども,ローに進学して,でもやっぱり「本試験にチャレンジして受かった」なんて,方針が二転三転した人なんているのでしょうか。

さらに,
(3)「法学部在学中に予備試験を通ってロースクールには行かずに本試験の勉強をして受かったという人たち」というのは,普通に考えれば,学部4年に予備試験を通って,卒1,卒2で本試験に受かった人,と読めますが,そんなピンポイントでこれに当てはまる人なんて多いのでしょうか?
卒1,卒2,または,卒業後,間をおいて予備試験を通った人も多いのではないでしょうか。
このような人は,予備試験合格時は,法学部在学中ではなかった,ということになります。

p4
○井上委員
もちろん,予備試験の本来の趣旨は尊重すべきだと思うのですが,このような実態になりつつあるわけですので,それをその趣旨に沿った形になるように改めていくべきではないか。
そうしないと,本来のそのルートによって法曹となるべき人たちがそうするのが難しくなってしまうと思うのです。

具体的には,一定の受験資格制限をかけるべきではないか。
当初の制度化のときにそういう話もあったのに,技術的に難しかったのか,そういうふうにならなかったのですが,ロースクールに行けない人ということですので,ロースクール在学生は予備試験の受験資格を認めないということと,もう一つ,バイパス化を防ぐというか,バイパスにしないという意味で一定の年齢制限をかける

年齢を何歳にするべきかはなお検討しないといけないとは思いますけれども,私はその2つを御提案申し上げたいと思います。

ロースクール在学生は予備試験の受験資格を認めない」というのは不合理だと思います。

ローの学費は,200万からかかるわけですから,ローに行っているから「経済的な事情その他でロースクールに行けない事情のある人」とは単純には言えないと思います。
つまり,ローの学費について,1円も負担できない人もいれば,1000万円の負担が可能な人もおり,さらにその中間に,例えば100万円ならなんとか負担できる人,という人もいるはずです。
そういう人は,借金するなり,生活を極限まで切りつめるなりして,ローに行っているわけですが,こういう人も,ローに行くのに経済的に難しい事情を抱えているわけですから,予備試験の趣旨に合致すると思います。

違い言い方をすれば,1000万円を借金すれば,どんな人でもローに行けますが,そういう人に関して,「ローに行けているから経済的な事情に問題はない」と言えるのか,それはおかしいのではないか,ということです。


和田委員発言

p6
○和田委員
また,第2に予備試験の受験資格を制限すれば法科大学院に入学しようとする人が増えるかと言いますと,必ずしもそうは言えないように思われます

例えば,同じ資料5の30ページの左側の2の(1)を見ていただきますと,弟2人が進学を控えていて金銭的・時間的負担から法科大学院に通うのは厳しい,という東大法学部4年生の声が引用されています。
もし予備試験の受験資格を制限して,もしこのような人が予備試験を受けられなくなったとした場合に,法科大学院に入学しようとするかというと,恐らく法曹になること自体をあきらめてしまう可能性が高いように思われます。
それによって,かえって人材が法曹の世界に集まらなくなるように思われるわけです。

第3に,既に一部指摘があるようですけれども,私は予備試験がむしろ法科大学院制度を支える機能さえ果たすように思います

既に言われてきましたように,従来,法学部を卒業しただけでは既修者コースには入学できないのが実情です。
既修者コースに入学した者の大半は,旧司法試験の合格を目指して勉強してきた人たちであったと思われます。
そして,法科大学院制度を創設したころの状況としては,法学部を中心に大学在学中あるいは大学卒業後に,旧司法試験の合格を目指して勉強する人が多かったわけですので,合格者数の少ない旧司法試験の合格に今一歩という人が既修者コースに入学するということで,既修者コースに入学する人材が確保できていたわけです。

ところが,現在ではその旧司法試験制度が終了していますので,今後は旧司法試験の合格を目指して法律の勉強をする人自体がいなくなるわけです。
そうすると,既修者コースに入学できるだけの法律の力を付ける機会となるのは,予備試験とその先にある司法試験の勉強しかないように思います。
つまり,現在,法学部で学生に対してその卒業と同時に法科大学院の既修者コースに入学できるような教育が残念ながらなされていない以上,予備試験と予備試験経由での司法試験の受験のための勉強をした人が,既修者コースの人材の重要な供給源ということにならざるを得ない,と思います。

この,第2の指摘と,第3の指摘は,やや矛盾しているようにも思われます。

第2の指摘では,(潜在的)法曹志願者が,他の進路へ行ってしまう可能性を指摘されています。
つまり,法曹志願者にとってローの人気がなく,予備試験を経由できないのであれば,その代替手段としてローを選ばないのではないか,という指摘です。

そのような状況で,予備試験を受けることができた法曹志願者が,なかなか予備試験に受からなかったときに,第2志望として,どういう道を想定するか,ということです。

この点につき,第3の指摘では,ローに行く人が少なくないという想定が示されています。

しかし,修習生が就職難であり,また予備試験合格歴が就職に強く,その結果,予備試験に合格しなければ将来の収入が安定しないということを考えると,予備試験に合格しないのであれば弁護士にならない,という人もいるのではないかと思います。
つまり,代替手段としてもローを選ばないということです。

そのような人たちの進路として具体的には,一般企業に就職したり,公務員になったりして働きながら予備試験を目指したり,司法書士など隣接法律職の資格を取ってこれを保険としながら予備試験を目指すことが想像されます。

もちろん,なかなか予備試験に受からずに,根負けしてやむなく行きたくなかったローへの進学をする人もいるでしょうが,そのような人たちの人数が「法科大学院制度を支える機能さえ果たす」程度にまでなるかどうか,というところでしょう。


ダブルスタンダード

しかし,法科大学院廃止論については,「1度作ったものを,すぐに変更するべきではない」と言いながら,予備試験については,わずか2回実施された時点で,年齢制限など受験要件の追加や,試験内容の変更が積極的に議論されるのは,ダブルスタンダードではないかと思うところです。