タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

法学部の優秀な学生は法曹養成の理念を忘れて,とにかく予備試験に流れている(法科大学院特別委員会(第69回)議事録)

公表されていました。

法科大学院特別委員会 議事要旨・議事録・配付資料:文部科学省
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/012/giji_list/index.htm

法科大学院特別委員会(第69回) 議事録:文部科学省
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/012/gijiroku/1361202.htm

【山本(弘)委員】 
 先ほど鎌田委員,それから少し前に磯村委員がおっしゃったことと関連するんですが,学部3年+法科大学院既修2年コースという法曹養成期間の短縮というのは,これは予備試験問題と切り離せないと思うんですね。

要するに偏差値の高い法学部の優秀な学生がプロセスとしての法曹養成という理念を忘れて,とにかく予備試験に流れている。
それを何とか本道に引き戻したい

そのためには,彼らの言い分として,やはり金が掛かり過ぎるということがあるので,学部3年で法科大学院既修コースに行けますよというルートを作ったらどうかという話なので,本道はやはり一部の有名法学部生が予備試験に殺到しているという現状を変えれば,この問題はほとんど雲散霧消するんだと思うんですね

法曹養成期間の短縮を検討する前の発言を受けて,いや,予備試験に流れている学生を「本道に引き戻」せば,「金が掛かり過ぎる」と言って学生がロースクールを回避する「問題はほとんど雲散霧消する」,ということのようです。

要するに,予備試験ルートを制限すれば,学生はロースクールに戻ってくるので,学生の経済的負担の軽減を狙った法曹養成期間の短縮を検討する必要もない,とのことのようです。

例の「予備試験受験者は心が貧困」発言に比べるとインパクトに欠けますが,なかなか痛い発言です。

あえて真顔で突っ込みますと,「学生が」「法曹養成という理念を忘れて」いる,とのことですが,学生は,法曹養成制度を作った人でもなんでもありませんので,理念とやらを知らない可能性があります。

知覚,記憶,表現,叙述のプロセスで言えば,知覚がないのであれば,そもそも記憶したとか,記憶したけれど忘れた,ということも起こりえません。

にもかかわらず,法学部の学生が,「プロセスとしての法曹養成という理念」を知っており,かつそれに従って行動すべきであるのに,これを忘れるという学生の落ち度がある,というような理解は傲慢でしょう。

このような発言を見ると,私は「士族の商法」という言葉を思い出してしまいます。

しぞく‐の‐しょうほう〔‐シヤウハフ〕【士族の商法

明治初期、特権を失った士族が慣れない商売に手を出して失敗したこと。急に不慣れな商売などを始めて失敗することのたとえ。
https://kotobank.jp/word/士族の商法-520200#E3.83.87.E3.82.B8.E3.82.BF.E3.83.AB.E5.A4.A7.E8.BE.9E.E6.B3.89

以下,気になった箇所を1つづつあげていきます。

法曹需要はあるのか

【磯村委員】 
 資料3−1の1ページ目のところの法曹人口の在り方を踏まえ,今後,入学定員の規模をどのように考えていくべきかという点ですけれども,従来,参考資料でも言われていたように,法曹人口としてどの程度の数を想定するかというときに,需要の方から考えるというアプローチ面と,現在どれぐらい法曹を志願している人がいるから,これぐらいの数字を考えるという、異なるアプローチの仕方があるかと思います

現在のように,定員はこれだけだけれども,実入学者はこれだけしかいない。そうすると,実入学者に合わせて定員を更に減らそうという方向にベクトルが働くとすると,これが更に,法曹人口としてこれだけの人数しか養成できないことになり、それがまた実入学者の減少を招くという方向に作用する危険性があるのではないかと思います。

入学定員の在り方を考えるというときに,やはり出発点に戻って,現在の日本の社会において,どれだけの法曹を必要としているか、その需要に応じて,それだけの法曹を法科大学院において養成する必要があるかという発想を維持しないと,志願者も養成される法曹の数もどんどん後退していくことになるのではないかという懸念があります

【大貫委員】 
先ほど磯村委員がおっしゃったように,法曹需要がどの程度あるのかという,あるべきところから出発しないと,ずるずると後退してしまうのではないかと思っています

両委員によると,志願者減少とはリンクしない形で,日本にはまだまだ確固たる法曹需要があるという理解のようです。

私の理解では,法曹需要がそれほど伸びていないにもかかわらず弁護士数を激増させたので,供給過多に陥り,弁護士の経済的価値が低下した,これにより弁護士の職業的魅力が薄れ,志願者が激減した,というものでした。

つまり,法曹需要がないから,弁護士業の報酬低下(≒就職難)という価格メカニズムが働き,「見えざる手」により供給が少なくなるように調整されている,という理解です。
このように,法曹需要の伸び悩みと,志願者減少は密接にリンクしています。
志願者が減少しているということは,法曹需要がそれほどないということの反映なのです。

それに逆行するようにロースクールが過剰な供給を継続しようとしても,供給を実際に担う人になろうとする人(志願者)は増えないと思います。


この2〜3年ぐらいで落ちているロースクール生の学力

【山本(弘)委員】 
しかしながら,この2〜3年ぐらい,特に既修の入学者を見ておりますと,法科大学院が発足した当初に比べると,学力が落ちているということは実感しておりまして,数値的にも,昨年度ですけれども,2年次から3年次への進級にGPAを掛けてかなり厳しくチェックするようになったんですが,かなりの原級留置者を出しました

原級留置2回続きますと補講ということになりますが,もちろん原級留置をすることによって,かえって学力が伸びて司法試験の合格がむしろ良くなるということがあるかもしれません。

ですから,今のところまだ分からない状況なんですが,しかし,評価を良くするために多少無理して人を採って実定員を確保しているわけですが,内実は変わってしまっているということは認識しておかなければいけないのではないかと思っています

ロースクールに入学する学生の学力が落ちているとのことです。

そうだとすれば,単純に考えれば,司法試験において同じ合格率,合格者数であれば,母集団の実力が落ちている以上,合格者の質が維持できないことになります。
どの程度か適切かは議論があるでしょうけれど,以前より合格率を下げて,合格者数を減らして,ようやく以前と同程度の合格者の質が担保できることになります。


社会人の志願者の確保

【土井委員】 
 今の入学者の質の確保の件ですけれど,先ほど室長からの御説明もありましたし,また,私も現場の感覚としましても,法科大学院制度が,非常に厳しい環境に置かれているという影響もあって,非法学部出身者,社会人の志願者の確保が難しい状況になってきております。

首都圏は比較的大企業が都心部に集中していますので,違った状況にあるかもしれませんが,それ以外で社会人の志願者を確保するのは非常に厳しい状態になってきております

現在の職と収入がある社会人の志願者を確保するには,弁護士になった後の収入の見込みが立たないと難しいと思います。

(参考)

そしてロースクールには誰もいなくなった - タダスケの日記

5人のインディアンが,ロースクール進学を家族に相談した。
家族を持っている社会人のインディアンの1人は,弁護士になっても収入が下がることが見込まれる上,その収入も今より不安定になることを理由に,家族から猛反対され,現在の勤務先に留まった。
インディアンは4人になった。
http://d.hatena.ne.jp/tadasukeneko/20131103/1383439404

「そうだ弁護士になろう」?

【上田委員】 
 ありがとうございます。今の意見に関連してなんですけれども,ここでの論点というのは,やはり法科大学院志願者の減少に歯止めを掛けて,志願者の増加を実現するということですので,そうであるとするならば,やはり法科大学院に入るときのバーを下げる必要があると考えます。バーを下げるというのは,レベルを下げるというのではなくて,できるだけ多くの人に受けてもらうというための施策をとるべきだろうというふうに思います
 その意味では,先ほど出ておりましたやはり適性試験というものの在り方というのを根本的に考える必要がもう来ているのではないかと思います。実施の正当性とか合理性とかを改めて検討し直すべきなのではないかというふうに考えております
 以上です。

【磯村委員】 
 最後に,先ほど上田委員がおっしゃった問題に戻ってくるのですけれども,適性試験の在り方等を考えるときに,適性試験が必要であるという前提で議論すること自体を見直してはどうかというのが上田委員の御発言の趣旨であったのではないかと思います

現在,地方で受けられる方は,会場がどんどん減っているので,例えば適性試験を受けるためにも高額の費用を負担する必要がある。
それに対して,現在の適性試験法科大学院の入学試験において優秀な人材を選抜するための資料としてどこまで役立っているかというと,極めて例外的に成績が悪い者を落とすということ以上の機能を持っていないのではないか。

そうすると,現在の制度設計の在り方そのものを見直すということが御提案の趣旨であったと思いますし,私はその御提案に賛成したいと考えています

適性試験を廃止して,「法科大学院に入るときのバーを下げ」よう,という提案のようです。

しかし,職業を決めるときに「適性試験がなくなったから,じゃあロースクールに行って弁護士にでもなろうか」などという思慮の浅い人間は,おそらくいないであろうと思われます。

適性試験うんぬんというのは小手先の弥縫策にすぎません。

本質的な問題は,供給過多からくる弁護士の経済的価値の下落であって,これに真正面から取り組んで実効的に解決しない限り,志願者減少は止まらないと思います。


おまけ,法科大学院の教員の育成と就職

【井上座長】 
 先ほど1点言い忘れましたけれども,後継者養成にとってはキャリアパスがはっきりしているということが非常に大事で,今,法科大学院の教員に採用されるためには,原則として5年の教育歴が必要とされているのですけれども,これは若い人が就職するのに大きな障害になっていまして,大学院で博士号を取ったばかりの人は採用してもらえないので,学部で採ってもらって,それで育ったと思ったら引き抜いてこなければならない。

学部とロースクール両方持っていて,その両者の間で人事がうまく連携したり回っている大学はいいかもしれないんですけれども,法科大学院に独立性を強く持たせているところもあって,そういうふうには人事が動かないことが多い。

そうすると,せっかく優秀な若い人がいても,就職先がなかなか見つからない。そういうことが分かるものですから,大学院などにも志望者がなかなか集まりにくくなっている

そのような実情にあり,先行きが非常に懸念されますので,例えば,法科大学院の教員資格についても一層の柔軟化を図るなどしていかなければならない。もちろん,安易にしてしまうと,教育力の乏しい人を教員に採用してしまうおそれがあるので,当初から非常に厳しく考えられてきた。その点注意が必要ですけれども,そろそろその辺も実態を踏まえて変えていった方がよいのではないかなというふうに思っています。

常にロースクールゴリ押しの井上委員ですが,こと法科大学院の教員の育成となると,明晰な分析力を披露しているのがおかしかったです。

時間的負担 法科大学院の教員に採用されるためには,原則として5年の教育歴が必要とされているのですけれども,これは若い人が就職するのに大きな障害になって」いる
就職難への配慮 「せっかく優秀な若い人がいても,就職先がなかなか見つからない。そういうことが分かるものですから,大学院などにも志望者がなかなか集まりにくくなっている」
時間的負担の解決 「例えば,法科大学院の教員資格についても一層の柔軟化を図るなどしていかなければならない」
教員の質の担保 「安易に(教員に)してしまうと,教育力の乏しい人を教員に採用してしまうおそれがあるので,当初から非常に厳しく考えられてきた」

彼が,この明晰な分析力を法曹養成制度にも活かしてくれれば,現在の法曹養成制度に関わる諸問題はすぐに解決されるような気がするのですが……