タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

法曹養成制度検討会議 第8回会議 議事録,平成25年1月30日

公表されています。

法曹養成制度検討会議 第8回会議 議事録
http://www.moj.go.jp/content/000107712.pdf

井上委員発言

まず,和田委員が,「弁護士インフレ論」を基に,至極まともな指摘をされています。

p6〜p7
○和田委員
法曹志願者の減少について補足させていただきたいと思います。

第2回に提出した意見書にも書かせていただきましたが,平成24年度は御存じのように法科大学院全体の86%である63校で定員割れとなっていて,法科大学院全体の半数に近い35校で定員の半数に満たない入学者しかいない状態となっているわけです。

例えばある国立大学は定員35人に対して入学者はわずか5人,関西の著名なある私立大学でも定員120人に対して入学者は半数以下の54人と伝えられています。
このような事態は,法曹養成制度としてまともな状態ではないと思います。

こうした法曹志願者の減少につきましては,第2回に提出した私の意見書の中で,司法修習生の就職難は弁護士の数の急増による弁護士の経済的な価値の減少を意味し,その点も法曹志願者の激減につながっている旨を書かせていただきました。

弁護士の経済的な価値と言いますと次元が低い話と思われるかも分かりませんけれども,決してそうではないと思います。
これから法曹を目指そうかどうかを考える人は,収入を得て生活するための職業としてほかの職業との比較を当然行うわけで,特に現在会社員や公務員等の職にある人は,今の職による収入や安定性との比較を当然するでありましょうし,大学生も,仕事のやりがいなどのほかに収入や安定性を考慮するのは当然だろうと思います。

恐らく大学生の親としても,法科大学院に多額の費用がかかる上,たとえ司法試験に合格しても司法修習の貸与制で借金が増え,更に弁護士になるにも大変な就職難ということで,弁護士になるまでに多額な借金を抱える一方で,弁護士になってからも余り収入が得られる保証もないということであれば,自分の子どもには勧めない,あるいは子どもを止めるということにもなるだろうと思います。

法曹を目指すかどうかということを選択する人は,そうした経済的な考慮も含めて本音で行動するわけですから,そういう本音を踏まえて検討しないと現在の極めて深刻な問題は解決しないだろうと思う次第です。
以上です。

これに過敏に反応したのが井上委員。

p7
○井上委員
和田委員が言われた面があることは否定しませんけれども,それだけだというふうに受け取られると,法曹を志望する若い人たちには気の毒だと思っています。

和田委員の指摘を,一定の理を認めるような感じで受けながら,この後はひたすら自説を展開します。

収入の面で言いますと,他の職種との比較,これはフォーラムでも弁護士会の方でも調査が行われましたが,その結果に照らして見ても,ほかの職種と比べて低いかというと社会的に見て低いとはいえません
弁護士さんの間では前より収入のレベルが下がったということなのだろうと思いますが,恐らく社会的に見るとそういうふうには評価されないのではないかと思われるというのが,まず指摘しておきたいことです。

「低いとはいえません」という弁護士の収入がどの程度なのかが不明ですが,弁護士には他の職種にない,多額の資格取得コスト(ローの学費)と,不合格リスクがあるので,これらの出費やリスクをカバーする程度,他の職種より恵まれていなければ,若者は法曹の道を選ばないでしょう。

その意味では,弁護士の収入は「社会的に見る」のではなく,和田委員の仰るように法曹志願者の目線で見る必要があるでしょう。

もう一つは,若い人はお金というよりはやりがいのある仕事を求めて法曹となろうとしている
この前の会議で,法科大学院の学生はモチベーションが低いと受け取られているかのような御発言もありましたが,そういう人たちも一部にはいるかもしれませんけれども,理想に燃え立派な法曹になり,やりがいのある仕事をしようという高いモチベーションを持って法科大学院に入ってくる人が,少なくとも私の周りでは多い。

そういう人をもっともっと受け入れたいわけです。
そのためにはいろいろな障害があって,もちろん経済的な問題もあれば就職難の問題もありますが,恐らく一番大きな桎梏は司法試験合格率です

基本的に,それはドコ情報だ,と聞きたい感じです。

また,仮にお金を重視しないとしても程度問題ということもあります。

借金ゼロで年収300万なら,やりがいがあればまだ耐えられるかもしれませんが,借金1000万で年収300万では,どうなのでしょうか,ということです。
経済的に結婚も難しいですし,人生が破壊されるでしょう。
合格してすらこれですから,三振でもしたときには目も当てられません。

特に社会人が激減しているというのは,自分の今の生活を捨てて,あるいはそれを賭けてでも法曹の道に転身しようかと思う,そのときに,一定の期間,法科大学院できちっと勉強すれば資格が取れて自分の望むような仕事ができる。
こういうトラックがはっきり見えていればもっとそういう人たちが来ると思います。

社会人に見えているトラックは,専業受験生に比べて難しい合格と,仮に合格したとしても年齢が高いことからくる就職難でしょう。
井上委員は,ギャグかネタを言っているのでしょうか。


鎌田委員発言

p17
○鎌田委員
しかも今こういう補助の状況ですから私立大学の場合には平均して年間の授業料は120万円〜150万円です。それでも恐らく全ての法科大学院は大赤字でいるわけであります。

数年間百数十万円を払って,そして3回試験を受けても未修者の場合には合格率が50%を切っている。
そして司法試験に合格しないと,返還猶予などなくて,在学中の奨学金はすぐに返させられるわけであります。
そういうところの障害の方がはるかに大きい。

法科大学院に対する補助金を削減されれば,多分授業料は更に上っていくわけであって,入り口でかなりのリスクを引き受けながら,しかも時間とお金をかけなければいけないというところの負担感の方がはるかに大きくなる。
そこよりも司法試験に合格した人たちの生活保障の方が優先度が高いというふうには,法科大学院関係者としては,全てが満たされるのならいいのですが,そこの中で優劣を付けるというときに,そちらの方を優先させて法科大学院に対する財政支援を削減していくという方向には賛成はし難いということだけは申し上げておきたいと思います。

修習生の給費制,貸与制についての議論です。
「全ての法科大学院は大赤字」だから,修習生の生活費をローに回せ,とのことです。

しかし,給費制の議論を離れて,そもそも「全ての法科大学院は大赤字」という状態で,法科大学院という制度がまともに存続するのだろうかという疑問を持ちました。

詳細はよく知りませんが,補助金で補てんされて,ようやくトントンになる経済状態なのでしょうか。
それとも,学部の利益が補てんされている状態なのでしょうか。

そんな制度が,今後10年,20年と,継続できるのか,と疑問に思います。

ロー存続を目的に,弁護士の需要に見合わない合格者数2000人を強引に維持すれば,弁護士の質の低下,就職難,収入減といった弊害があり,また,制度としてのロー制度は維持しながら,地方を中心にローがさらに何校か潰れれば,地方在住の人は,地理的にローへ通学できない人が多くなり,法曹志願者の多様性を害します。

法科大学院制度自体が無理な制度だと思いますので,この先5年,10年と弊害をまきちらしながら低空飛行を続けた挙句に,ロー廃止となるくらいなら,余力のあるうちに廃止の決断をしていただきたいと思います。

それが頭では分かっていても,もう一歩踏みきれないロー関係者の方々には,以下の言葉をお送り致します。

ロー廃止をいつやるか? 今でしょう