タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

「法科大学院を中核とする法曹養成制度」の見直しを求める決議,千葉県弁護士会2013/2/8

話題になっていました。

法科大学院を中核とする法曹養成制度」の見直しを求める決議
http://www.chiba-ben.or.jp/wp-content/uploads/2013/02/f139b6961499f3c1fabf229828746ff1.pdf

まあ,普通に考えればこうなると思うんですけどね。

「理念」しか言えないロー推進派

こう言うと,ロー推進派は,「理念,理念」と反論しますが,理念レベルで明らかにおかしい政策なんて,およそないと思いますが。

例えば,「ライバル政党を不利にするのが目的の選挙法改正」とかでしょうか。
実際にはそう考えていたとしても,表には出さない,という意味でも,およそないでしょう。

制度が始まって10年も経っているのに,未だに「理念」が主な主張の柱ということは,よほど実績が出ていないか,またはローの存続が自己目的化していて,反対派とまともに議論しようという気が薄れているか,どちらか(または両方)だと思うのですが。

有効な養成プロセスの回復

ちょっと面白かったのが,この点

p4
(10)小括
法科大学院を中核とする法曹養成制度」は十分に機能しておらず,逆に従来機能していた司法試験,司法修習,就職後のOJTといった養成プロセスを破壊してきたと言わざるを得ない。

p4
4 法曹養成制度の改革に向けて
(1)司法試験合格者の適正規模への減少
これにより,司法試験合格後の司法修習,就職後のOJTといった従来の養成プロセスも再び機能することが見込まれる。

ロー推進派は,ロースクール,司法試験,司法修習を関連させた法曹養成制度の「プロセス」を新設し,「点」よる選抜だった旧制度を抜本的に改革したかのような口ぶりで言うことがありますが,司法試験,司法修習は以前からありましたので,単にロースクールを作ったというだけのことでしょう(と前から疑問に思っていました)。

今回の千葉県弁護士会の決議の中で,「司法試験,司法修習,就職後のOJTといった養成プロセス」と,あえてかどうか,同じ「プロセス」という語を当てて説明してきたのが面白かったです。

内容については,その通りとしか言いようがありません。

【資料2−1】法科大学院制度のこれまでの成果,課題,改善方策,および今後の方向性 [PDF]
p3
1.プロセス養成の整備
○ 司法試験という「点」のみによる選抜ではなく、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての法曹養成制度を新たに整備すべき。
http://www.moj.go.jp/content/000104492.pdf

法曹養成制度検討会議第4回(平成24年11月29日開催)資料
http://www.moj.go.jp/housei/shihouseido/housei10_00008.html

時間的障壁を作るロースクール

また,さらに追加して指摘してほしいのが,この点。

p2
(3)時間的障壁
また,法科大学院に通うことができたとしても,これを修了するには大学卒業後,最短でも既修で2年間,未修で3年間という時間を要し,司法試験の受験は修了の更に翌年度になってしまう。

ここでは,大学卒業からの司法試験受験までの期間が問題とされています。

この点はその通りですが,これとは別に,ローでは受験指導が禁止され,受験対策ができない結果,ローの授業への対応と,受験対策のそれぞれに,膨大な時間を費やさなくてはならない点も問題です。

専業受験生ならともかく,社会人が,通常の勤務時間外に,(1)ローの授業対策,と(2)受験対策,を,これらの内容が重複しないためそれぞれしなくてはならないのは,大きな時間的な障壁であり,社会人が法曹を目指すことを阻害しています。

以下の図で,横軸を「年」,縦軸を「1日」とすると,横軸が長く,学生の人生の時間を長く消費させるのも問題だが,縦軸において,1日の中で,学生に多くの時間を使わせすぎるのも問題です。

1年 2年 3年
ls授業 ls授業 ls授業
試験対策 試験対策 試験対策
余剰時間 余剰時間 余剰時間

これは,ローの教育内容の問題点として,p3(6)疑問視される教育効果 とも一部かぶる話かもしれませんが。

受験資格撤廃後のロースクールの行方

それから,全6項目のうち,わざわざ1項目を使って,受験資格撤廃後のローのその後について言及しているのも,意味ありげです。

p5〜p6
5 法科大学院のその後
これらの改善策が実施されれば,法曹養成制度の中核としての法科大学院は存続し得ず,大幅なモデルチェンジは避けられない状況となる

廃校のリスクは高いが,確実なモデルチェンジを可能とする,ということですね,分かります。

元ネタ

朝日新聞デジタル
司法試験不合格のリスクは伴うが、確実なキャリアチェンジを可能にする法科大学院
http://www.asahi.com/ad/clients/daigakuin/guide/vol2.html

冗談はさておき,

(続き)
しかし,法科大学院の修了を司法試験の受験資格としなくても,優れた教育を行い,出身者の優秀さ,有用性を証明することが出来れば,司法試験合格後の就職に有利となり,入学者を集めることは可能である。
多くの法科大学院にとっては厳しい状況が予想されるが,法科大学院制度は法曹養成の一手段であり,制度としての法科大学院維持を第一となるのは本末転倒と言わざるを得ない。

殿様商売であってはいけない,自らのサービスの良さを市場にアピールしなければいけないし,それに失敗すれば淘汰されるのは当然,と,ロースクールから投げられたブーメランを見事に返しています。

当のロースクールは,修了した三振者のその後の進路の把握すら不十分で,総務省からダメ出しされていましたが,ここまで厳しいことを言っても千葉県弁護士会は,ロースクールのその後の道をわざわざ考えてくれていますので,温情があります。

法曹人口の拡大及び法曹養成制度の改革に関する政策評価総務省
【主な勧告事項6】修了者の進路の把握、就職支援の充実
平成23年4月1日現在、実地調査した38校の修了者1万5,320人の進路の内訳は、以下のとおりであり、不合格者で進路が把握できていない者は修了者の約3割 【評価書P.322〜325】
http://www.soumu.go.jp/main_content/000156306.pdf

国民の法曹養成への信頼が残っているうちのロー廃止

記事の内容自体は法曹養成とは関係ありませんが,この記事を見て,すぐにロースクールを連想しました。

資源回復計画が予想通り破たんして、青森県イカナゴが禁漁となった,2013-02-14 (木)
青森県イカナゴが減少をしたので、資源回復のために禁漁します」 ということなんだけど、以下の2点に注意してほしい。
1) 親魚量が適正水準の1/30まで減少している
2) 漁獲がほぼ成り立たない水準(県全体の生産金額が40万円) まで落ち込んでいる
ようするに、漁業が成り立たなくなって、禁漁してもしなくても、変わらないぐらい魚が減ってから、ようやく禁漁にしたのである。ノーブレーキで壁に激突してから、ブレーキを踏んでいるようなものです。これをもって、美談とするのは大間違い。むしろ、「なんでここまで減らしたのか」を考えて、再発防止をしないといけない。
http://katukawa.com/?p=5116

ロースクール関係者が自己保身に必死なのは誰の目にも明らかですが,例えば,ローの入学者が全国でも合計3ケタになるような事態になり,ローを制度として廃止してもしなくても,経営難から1校も残らず全滅する状況になってから,ロー制度廃止を決めるのではなく,まだ法曹志願者が残っているうちにローを廃止して,回復の余力があるうちに法曹養成制度が正しい方向に進んでいって欲しいところであります。