新しい情報があるわけではありませんが,あらためて考えてみました。
図的に考えてみました。
受験生に,実力順に番号を振ったとして,旧司法試験でこのような状況があったとします。
実力順 | 合否 |
---|---|
1 | 合格 |
2 | 合格 |
3 | 合格 |
4 | 合格 |
5 | 合格 |
6 | 合格 |
7 | 合格 |
8 | 合格 |
9 | 合格 |
10 | 合格 |
・・・ | 合格 |
1500 | 合格 |
1501 | 不合格 |
1500人時代を想定して,1500位までが合格するとしました。
この受験生が,新制度でどう変化するかというと,そもそも受験するかどうかで以下の状況となります。
実力順 | 受験の有無 | 受験しない理由 |
---|---|---|
1 | × | 弁護士の経済的リターンの低さにより忌避 |
2 | × | lsの学費負担により断念 |
3 | ○ | |
4 | × | lsの学費負担により断念 |
5 | ○ | |
6 | × | 弁護士の経済的リターンの低さにより忌避 |
7 | × | lsの学費負担により断念 |
8 | × | 弁護士の経済的リターンの低さにより忌避 |
9 | ○ | |
10 | × | 三振制により受験不可 |
「弁護士の経済的リターンの低さにより忌避」とは,旧制度であれば法曹の道を目指したであろうが,近年の弁護士の経済状況の悪化により,その道を忌避した人
「lsの学費負担により断念」とは,現制度においても法曹の道を目指したいが,ロースクールの学費の負担が大きいことにより,司法試験受験を断念した人
「三振制により受験不可」とは,仮定を含みますが,仮に三振制がなく,受験勉強を続けていたとしたら,この順位まで実力を高められた人
です。
なお言うまでもありませんが,本当にこのような実力順の人が受験回避,受験断念,受験資格はく奪となっているかという具体的な根拠はありません。大まかに考えて,これと似たような状況があるのではないか,というモデルです。
実際の受験者同士の相対順位も入れると以下になります。
実力順 | 相対順位 | 受験の有無 | 受験しない理由 |
---|---|---|---|
1 | × | 弁護士の経済的リターンの低さにより忌避 | |
2 | × | lsの学費負担により断念 | |
3 | 1 | ○ | |
4 | × | lsの学費負担により断念 | |
5 | 2 | ○ | |
6 | × | 弁護士の経済的リターンの低さにより忌避 | |
7 | × | lsの学費負担により断念 | |
8 | × | 弁護士の経済的リターンの低さにより忌避 | |
9 | 3 | ○ | |
10 | × | 三振制により受験不可 |
つまり,いくつかの事情により司法試験を受験しない,またはできない人が多くおり,そのために,仮に受験したら合格したはずの実力者が,受験母体から櫛の歯がかけるように抜けています。
そのため,合格最低ラインは,旧試験を想定した仮想母体の順位で言うと,現在の合格者の人数,約2000人から単純に想像される2000位より,大幅に低下していると思われます。
もっとも,新制度になったことにより法曹の道を目指した人もいるでしょうから(例,菊間千乃弁護士),公平を期すためにこのような人も入れると以下になります。
実力順 | 相対順位 | 受験の有無 | 受験しない理由 |
---|---|---|---|
1 | × | 弁護士の経済的リターンの低さにより忌避 | |
2 | × | lsの学費負担により断念 | |
3 | 1 | ○ | |
4 | × | lsの学費負担により断念 | |
5 | 2 | ○ | |
6 | × | 弁護士の経済的リターンの低さにより忌避 | |
7 | × | lsの学費負担により断念 | |
- | 3 | ◎ | 新制度による新規参入 |
8 | × | 弁護士の経済的リターンの低さにより忌避 | |
9 | 4 | ○ | |
10 | × | 三振制により受験不可 |
この状況で,合否ラインギリギリのところを考えてみると,こんな感じでしょうか。
実力順 | 相対順位 | 受験の有無 | 合否 |
---|---|---|---|
2997 | 1998 | ○ | 合格 |
2998 | 1999 | ○ | 合格 |
2999 | × | ||
3000 | 2000 | ○ | 合格 |
3001 | × | ||
3002 | 2001 | ○ | 不合格 |
3003 | 2002 | ○ | 不合格 |
3004 | 2003 | ○ | 不合格 |
(新司法試験の実際の合格者は2000人ちょうどではありませんが,話を分かりやすくするために便宜的に2000人としました。)
合格者の最低ラインでは,その実力順は,合格者数2000に加えて,受験回避,断念,不可組の人数を足した数になります。
正確には,さらに「新制度による新規参入組」で合格ラインを越えた人が,合格者のレベルを上げているので,この人数を引いた数になります。
現行制度の合格者の最低ライン = 合格者数(2000人)+ (受験回避,断念,不可組のうち合格人数) ― (新制度による新規参入組の合格者の人数)
この図では,合格最低ラインの実力順を,切りのいいところで3000位としてみましたが,これが実際にはどのような順位になっているかが問題です。
適性試験出願者が8割減っていることを考えると,もっと下の順位になるような気がしますが,これは想像の域を出ませんし,賛否両論あるでしょうから,ここはあまり追及しないことにします。
個人的な意見としては,もっともっと低い順位なのではないかと思っています。
さらに正確を期して考えると,1500位までは旧試験でも合格したので,「新試験への移行による質の低下」とは関係ないと考えて,では1500位以下(3000位まで)の合格者について,法科大学院がどれだけ実力を高めさせることができたか,ということになります。
法科大学院の教育がかなり成功しているとすれば,合格者増によっても弁護士の質は維持されるのでしょう(というか,そのために法科大学院を作ったのですが)。
もっとも,法科大学院の授業は,「実務にも受験にも役に立たない」という評価があるくらいなので,学生の実力を,自学自習した場合に比べて,下げてしまったということもありえます。
下位合格者の質の低下,また新司法試験の採点実感や,二回試験の採点実感を見るときは,旧試験における3000位の人,もしかしたらそれ以下の順位の人が合格していることを考えると,状況が理解しやすくなるのではないかと思います。