タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

予備試験は本当に法科大学院に悪影響を及ぼしているのか

ロースクールに通いながら,予備試験に合格した人の話を聞いて考えてみました。

どうも,予備試験に合格しても,ロースクールを辞めずに卒業する人が多いらしいのです。

辞めない理由は,最終的には人それぞれではあるでしょうけれど,一般的に考えられる理由を,以下のように考えてみました。

予備試験の合格発表時には,後期の学費を納入済みなので,退学しても経済的メリットがない

これは,在籍するロースクールの前期後期の期間設定にもよるかもしれませんが,学費が戻ってこないロースクールが多いようです。

退学より卒業のほうが,履歴書がキレイである

予備試験の最終合格発表が11月です。後期の試験が翌年1月だとしたら,実質的に通うのは残り僅かしかありません。
もし親に学費を払ってもらった人なら,親のためにも卒業くらいしておこうか,と考えるかもしれません。


逆に,ロースクール辞めるメリットとしては,ロースクールの時間的拘束から逃れて受験勉強に専念できる,という点が考えられます。


結局,予備試験の合格者が,ロースクールを退学しようとしまいと,ロースクールにとって経済的デメリットはないことになります。



なお,これは既修者コース2年目で合格した場合でしたが(予備試験に合格するような人は既修者コースであると考えられます),次に,1年目に合格した人のケースを考えてみます。

ロースクール1年目に合格したケース

ロースクール1年目で合格するということは,4月に入学した後,5月に択一を,7月に論文を受けたということになります。

こうしたスケジュールで難関の予備試験に合格するということは,ロースクール入学前から勉強しており,十分な実力を持っていた人ということになります。
大事な直前期に,ロースクールの授業により妨害を受けた(にも関わらず合格した)とさえ言えるでしょう。

これほどの実力者は,ロースクールに入学しなくとも,十分に予備試験に合格したでしょう。
保険として,ロースクールに入学したと思われます。

こうした人が,1年間,学費を払い,1年目終了時点で退学したとしても,ものは考えようですが,もともとロースクールに来ないでも受験資格を得られる実力者が,1年分の学費を落としてくれたと考えれば,ロースクールに損はないのではないでしょうか。


こうしてみると,ロースクール生が予備試験に合格したとしても,いずれの場合でもロースクールに経済的デメリットはないという評価が可能です。


ロースクールの教育への影響

これまでは経済的な面を見てきましたが,それ以外では,「予備試験の準備のために,ロースクール生が授業に身が入らなくなる」という影響もあるかもしれません。

しかし,予備試験は「司法試験受験資格」のみを得られるのに対し,ロースクールは,「司法試験受験資格 + 教育サービス」を提供しています。
完全な包含関係にあるわけです。

このようなケースで,ロースクール生が予備試験に流れるということは,ロースクールが提供している独自の価値,すなわち教育サービスに,人が魅力を感じていないということでしょう。

そして,教育サービスの魅力は,ロースクール関係者が努力いかんにかかるものであって,予備試験がその魅力を増減させるものではありません。

まとめ

このように,予備試験受験者の多くをロースクール生が占めている,という現状を前提にすると,予備試験がロースクールに悪影響を及ぼしているとは思えなくなってきます。

もし,予備試験の合格率が高くなり,予備試験「単願」の人が増えるようなことになれば,まさに,「予備試験の実施という魔法の杖の一振りで,大部分の法科大学院はなくなってしまう」(米倉明教授)こととなり,ロースクールに大きな影響を及ぼすのでしょうけれど,現状では,予備試験の制限が検討されているくらいですので,そうした可能性は低いと思われます。

結局のところ,「予備試験がロースクールに悪影響を及ぼしている」というのは都市伝説の類であって,推進派がロースクールの立て直しを本気で考えるのであれば,予備試験を制限すれば何とかなるといった安直な発想は捨てて,ロースクール自体の教育の質,学生から見た費用対効果を真剣に考えなければならないのではないか,と思うところであります。

参考

「予備試験出デテ法科大学院亡ブ(法科大学院雑記帳(その48)H21.2月号)
http://d.hatena.ne.jp/tadasukeneko/20121117/1353131828