タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

弁護士有資格者がいながら出退勤時間を上司が改ざんした朝日新聞社

朝日新聞では,上司が部下の「労働時間」を短く改ざんしていたそうです。

朝日新聞社、上司が部下の「労働時間」を短く改ざん 基準内に収めるため

電通社員の自殺をきっかけに、長時間労働について批判的な報道が相次ぐ。しかし、報じている側はどうなのか。朝日新聞社内でも長時間労働に関して、問題が発生していることがわかった。
部下が申請した出退勤時間を上司が改ざんし、一定の基準内に収めていた。BuzzFeed Newsが朝日新聞の社内文書を入手した。
https://www.buzzfeed.com/kotahatachi/asahi-19940?utm_term=.rkb6bdm8m#.yfK24V7B7


「社内弁護士さえいてくれたら,こんな不祥事は起こさなかったのに……」と同社経営陣は後悔の涙に暮れた……かどうかはわかりませんが,社内弁護士の必要性を示す一例とも思えます。
もっとも,調べてみると,すでに同社には法曹有資格者がいらっしゃるようです。

朝日新聞社 採用情報

管理本部法務部
佐藤弘一
法務研究科修了
http://www.asahishimbun-saiyou.com/voice/sato_koichi.html

このような立派な法曹有資格者がいるにもかかわらず,なぜこのような違法行為を止められなかったのか,ロースクール,弁護士増員,そして企業内への法曹の拡大を推進するのであれば,同社はきちんと検証する必要があるでしょう。

私の目標は、朝日新聞社の社内弁護士になることです。まだ世の中にそれほど社内弁護士が浸透していないことに加え、これまで朝日新聞社に社内弁護士が在籍したことはないため、そもそも朝日新聞社に社内弁護士が必要か、必要だとして一からどのように業務を構築していけばいいかという根本的な課題から解決していく必要はあります。とはいえ、専門的な教育で身に付けた法的素養や、法曹界におけるコネクション、そして弁護士が有する訴訟代理権は、会社の法律事務をより活性化する可能性を十分に秘めたツールであると考えています。
幸い司法試験には既に合格しているので、今後は法務部員としてのスキルを磨くことに加え、社内の様々なビジネスに関する知識を身に付けたり、他部署の方々とのコネクションをより強固にするなど、現場に根付いた業務経験を積んでいきたいです。そうすることで、単なる法律の専門家ではなく、「現場に詳しい法律のプロ」「気軽に相談できる社内の法曹」などといった存在になれればと考えています。

しかも,せっかく弁護士資格を有しているにもかかわらず ,弁護士登録にもとても慎重な姿勢を示しています。

もし弁護士資格が不要であれば,ロースクールに行く必要はありません。ロースクールと修習を合わせたの期間,法務部社員として働いた方がよほど戦力としては成長しますし,当該社員にとっても,収入が得られるし,不合格リスク等もありませんし,万々歳でしょう。

ビジネスでは,選びうる複数の選択肢のうちから,コストとリターンの関係で,最も経済的に有利な選択肢が選ばれるのです。

A 法学部卒(Bの者が入社する年令では,数年の実務経験を積んでいる)
B 法曹有資格者(ロースクールと修習期間の学費・生活費・時間の負担がある)


この両者であれば,Aの方が有利であることは明らかです。

いや,費用対効果の関係など,ビジネス経験のない学生ですら理解しています。

A 予備試験
B ロースクール


AとBで,Aの方が費用対効果が高いから,Aが選ばれて,Bが減っているのです。

A その他の職業
B 弁護士


こちらでも,Aの方が選ばれつつあります。

ロースクールを推進する意見のうち,考える力を養成しなくてはならないからロースクールが必要だ,というものを見たことがありますが,多くの学生はすでに利害得失を考える力があるから,「A その他の職業」「A 予備試験」を選ぶ人が増えているわけであって,このご時世に,漫然と「B ロースクール」を選ぶ人こそ,考える力において大丈夫なのだろうかと不安に思います。

まさか,そういう「考える力が怪しいロースクール入学者を教えることが,ロースクールの使命だ」と言うことはないと思いますので,もしロースクールを推進するなら,通常の判断能力を有する一般人が合理的に考えて選びうるような制度設計にしなくてはならないのでは,と思うところです。

それには,事件数が増えていない現状では,毎年1000人の激増は(合格者1500人 - 引退する弁護士500人),弁護士の経済的価値を下落,悪化させる致命的な失策であって,合格者の抑制とロースクール制度の見直しは,一本道の変化と思われます。

エコキャップ「運動」のごときロースクール制度

ロースクール制度を推進する意見を見ていると,「時間をかけて学生を拘束して何かをやっているから,有益なはずだ」とでもいうような思考を感じます。
「プロセスによる法曹養成だから,一発試験よりも優れている」ということを所与の前提としている論も見ます。

しかし,何かをやっていても費用対効果が悪いことはありえますし,常に選びうる選択肢をA,B,Cと複数考えて,そのコストとリターンを計算して最も有利なチョイスをしなくてはならないでしょう。

受賞論文【優秀賞】エコキャップ「運動」をやめた我がクラス | 中央大学
http://www.chuo-u.ac.jp/usr/jhs_activity/award/winentries/9th_result/result04/

法曹養成とは直接関係ありませんが,上記の記事では,要するに,

A エコキャップ「運動」をやらない
B エコキャップ「運動」をする


この2つの選択肢のうち,よく考えると「A エコキャップ「運動」をやらない」の方が合理的と判断したので,エコキャップ「運動」をやめた,ということらしいです。

ロースクール制度についても,

A ロースクール制度を廃止する。司法試験受験資格と無関係の機関とする。負担が軽くなり受験者が集まる。司法試験受験者数が増えることで,弁護士の質が向上する。合格者数を調整しやすい。
B ロースクール制度を維持する。入学者が激減する。司法試験受験者数も減り,弁護士の質が低下する。ロースクール制度維持のため,弁護士激増政策を変更しにくい。


この2つの選択肢のうち,どちらがより合理的か,理性的に考えて判断する必要があるでしょう。