タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

法曹養成制度検討会議第7回,和田委員提出資料(平成25年1月23日開催)

和田委員の提出資料として,NIBEN Frontier2012年12月号の記事の一部がアップされていました。

法曹養成制度検討会議第7回(平成25年1月23日開催)
http://www.moj.go.jp/housei/shihouseido/housei10_00012.html

和田委員提出資料
http://www.moj.go.jp/content/000106175.pdf

内容は,いちいちごもっともな話しでした。


特に興味深かったのは,この箇所。

p29
いま籍を置いている大学院を修了すれば受験資格を手にすることのできる現役法科大学院生272人が予備試験に出願していたという事実は,「司法試験の受験資格さえ得られるのであれば法科大学院から早く離脱したい」と考えている者が少なくともそれだけいたということである

現役の法科大学院の学生は,ロースクールの教育を実際に体験した,いわば「消費者」ですが,彼らから見て,ロースクールが提供した教育サービスは,司法試験の受験資格の付与を除けば,負担にペイしない,と評価されたということです。

理念にのっとった素晴らしい教育であれば,皆,学費を払ってでもローの授業を受けたくなるのが当然と思われますが,不可解な事態です(白々しい)。

また,予備試験の積極的な優位性の指摘の1つが面白かったです。

p30
③就職に有利

p31
そうした事態よりも,何より法科大学院にとって痛いのが②*1と③の理由ではないだろうか。

まず就職に関して言えば,現に大規模事務所がこぞって予備試験合格者向けの就職説明会を開催している。大事務所が予備試験合格者に食指を伸ばす理由は二つある。

一つは,若いこと(学生の場合)。もう一つは,合格率1.8%という旧司法試験並みの競争試験を突破した層であり,「優秀である(地アタマがよい)」という推定が働くことである

最高裁の指摘によれば新司法試験後の修習生の質が玉石混淆となっている昨今において,合格率1.8%のフィルタリングで選別された「若くて地アタマが良い」層は,大事務所にとっては喉から手が出るほど欲しい人材なのではないだろうか。

これは,採用側の「大事務所」からの視点ですが,法曹志願者の視点から言い換えると,「地アタマの良さ」を社会にアピールできる,ということです。

結局,大学でも,人はシグナリング効果を求めて偏差値の高い大学を志望するのです。
旧司法試験受験生も,人数の少ない「旧司法試験合格」の称号を得れば,世の中で優秀な人材であるというシグナリング効果が発生するので,地位や収入とは別に,これも魅力に感じていたはずです。

シグナリング効果
http://www.blwisdom.com/word/key/100832.html

ところが,合格者が2000人となってしまい,かなり怪しいレベルの者も新司法試験に合格するようになり,最近では,司法試験合格のシグナリング効果がすっかり弱くなりました。

こうした中で,現状ではまだ合格者の少ない予備試験が始まったので,自己の能力に自信のある者は,シグナリング効果を求めて予備試験に殺到するのは必然と思われます。
(最終的には,実利にもつながります)

一方,ロースクール側は,不合格リスクが減るので,良かれと思って合格者2000人を維持しようとしているようですが,これは弁護士資格のシグナリング効果を弱めることにつながり,弁護士全体の魅力を減らします。

さらに,予備試験の合格者が増やされてそれほど珍しくない状況になれば,ロー修了者は「予備試験に受からないから高い学費を払って受験資格を買った人」として,逆シグナリング効果まで働くようになります。

そうなれば,坂道を転げ落ちるように,ローの人気は(今以上に)下がり,ついには廃止にまで至るでしょう。( ̄ー ̄)ニヤリ

*1:②早く実務に出られるのでその分早く実務経験が積める