タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

効率の悪いロースクール制度(コスト削減案を考える)

先日,予備試験,論文試験の結果発表がありました。

平成24年司法試験予備試験論文式試験の結果

1 受 験 者 数 1,643人(うち途中欠席8人)
2 採点対象者 1,635人
3 合 格 点 230点以上
4 合 格 者 数 233人
5 採点対象者の最高点等
(1) 最高点 308.52点
(2) 最低点 67.59点
(3) 平均点 190.20点
http://www.moj.go.jp/content/000102604.pdf

昨年の論文合格者が,123人なので,大分増えました。

これで,ロースクール忌避に拍車がかかるでしょう。

・・・と当然のように法曹志願者がロースクールを嫌っていることを前提に話を書きましたが,なぜロースクールを嫌われるのかを改めて考えてみると,ロースクールに関して見たり聞いたりして思うのは,とにかく効率が悪い制度ということです。


学者や実務家の教員を雇って,大の大人の年齢の学生を同じ時間に同じ場所に集めて,そのための建物,施設も必要になって,ととにかく経済的な,また時間的なコストがかかります。

これに加えて,肝心の学習効果がイマイチです。
学生もいい大人ですので,マスに対する授業を自己の習得度に関係なく網羅的に受けるより,それと同じ時間,本を読んだ方が学習効果が高いと思います。
(本を読むより授業の方が学習効率がいい,などという学生が仮にいるとしたら,そもそも法曹になるべき知的水準に達していないと思います。)

その効率の悪さのしわよせが,合格するかしないか分からない学生たちに,高い学費負担としてのしかかっている構図だと思います。
(それと,ロースクールへの補助金としての税金投入として)

これを見ていると,頼まれてもいないのにコスト削減の代替案を考えてしまいます。一種の職業病です。

インターネット授業の導入

指定教員の講義を,ネットを介して全国で見られるようにします。
すべての授業をネット授業にしなくても,一部の講義をネットにする,また,ある講義の一部の回,例えば全12回の内6回をネットにする,など,生授業との割合を調整することもできます。

これで,教員の人件費を大幅に削減できます。

一般教養の講義で,教員が他の学校から派遣されてくるのを見ると,「そこまでしなくても」と思うのですよね。
マイナーな講義だと,教員の確保もそれなりに大変らしいです。

どうでもいいような一般教養の講義など,なくてもいいと思いますが,もしやるのであれば,ネットを使ってコスト削減を図りたいです。

また,逆に主要な司法試験科目について有名な教授の授業をネット配信することにしても,全国的な授業のレベルの維持,公平が確保できるというメリットがあります。

司法試験合格後にロースクール

現行の制度を大幅に変えなくてはならないので,現実味は薄いかもしれませんが。

そもそも論ですが,これだけ莫大な学費,補助金といった経済的コスト,また学生と教員の手間コストを投入するにも関わらず,2割程度しか法曹になる者を養成できないことが,国民的なロスだと思います。

言い換えると,8割弱の学生に対する教育コストは,どぶに捨てているわけです。

これ回避するために,司法試験合格後にロースクールを経ると弁護士資格が得られるようにするのです。

司法試験合格が,ロースクール入学要件となります。
現行制度の逆なので,頭が混乱しそうですが。

ロースクールで法曹を養成する,という推進派の建前が守れますし,ロースクールを卒業しさえすれば弁護士になれるので,学生も試験を気にすることもなく安心して授業に集中できるでしょう。
(それが役に立つかは別として・・・)
また,弁護士になれる確率が100%近いのであれば,学生も高い学費を頑張って払う気にもなるでしょう。

司法試験は,現在のそれより簡単になるでしょうが,それでも基礎的な知識,文章力をすでに習得した学生がロースクールに入学するので,高度なレポート作成を課したり,ソクラテスメソッド(笑)を使って授業をすることができるようになります。

時期的に修習とかぶるので,これとの調整が必要になりますが,推進派の言う理念,「弁護士の養成は弁護士がやる」という点には適合するでしょう。
ここは,増員賛成派の中の修習廃止論者に頑張ってほしいです。
修習が廃止されれば,弁護士が法曹養成を一手に握ることができるようになります。

予備試験後にロースクール

コスト削減からは少し話がずれますし,推進派に資する案なので本意ではないですが,横から見ていて思うので。

ロースクール推進派は,予備試験合格者が増えるのを警戒していますが,予備試験合格後にある程度,例えば1年などロースクールに通わなくてはならないことにしてはどうでしょうか。

法曹倫理など,司法試験に出ない科目の講義を中心に,一定程度の単位の修得を卒業の要件にします。

民法など主要科目については,予備試験合格により習得が証明されたことにします。

これで,予備試験組にも一定の経済的,時間的負荷をかけられるので,予備試験ルートの優位さをある程度減殺できます。

建前としても,予備試験組も「正式な法曹養成過程を一部経た」と言えるメリットがあります。

三振者には特別コース

いわゆる三振者が,初めてのロースクール入学者とまったく同じように単位を取得しなければならないというのは,理不尽極まりないと感じます。
(受験回数制限の理由として,ロースクールの学習効果が消えるなどと変なことが言われていますが)1回は卒業した学生に,一定の学習効果が残っていないはずはないでしょう。

認定試験(仮称)を設けて,三振者はこれに合格すれば再度受験資格が得られるようにするのがいいと思いますが,それほど簡単にするべきでないとすれば,1年程度ロースクールに通って一定の単位を取得すれば,受験資格が得られるようにするのがいいでしょう。
つまり,不合理な学費コストの削減です。

多数の三振者が復帰するハードルを下げることで,実際に再入学者が増えれば,ロースクールの経営的にもプラスになるかもしれませんし,実質的な三振リスクが減り,あきらめさえしなければ弁護士になれる確率が高いことになれば,志願者の減少も食い止められるかもしれません。
結局は,旧司法試験に近くなる,というだけかもしれませんが。

非効率が目的?

・・・とは書いてみたものの,実はその非効率こそが推進派の目的の一部かもしれません。

つまり,人件費など削減したくない,学者の就職口がほしい,箱ものを作りたい,いわゆる「学校」をやりたい,というのが目的という意味です。

推進派の中にも,弁護士,役人など,色々な人たちがいると思いますが,全員ではないでしょうが,一部の人たちにとっては,この非効率こそ利権であり,獲得目標なのだと思います。

インターネット授業の全国配信など,「学校」がやりたい人たちにとっては,事実上不可能と言えるほどハードルが高いものなのでしょうね。

結局は大人の事情,政治で動いているということです。