タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

「弁護士という職業の経済的な価値」2012/9/18法曹養成制度検討会議 和田委員意見より

法曹養成制度検討会議第2回(平成24年9月20日開催)
http://www.moj.go.jp/housei/shihouseido/housei10_00006.html

1 意見の趣旨
司法試験の合格者数を早期に年間1000人程度にすべきであると考える。

2 意見の理由
(2) 現状の分析
司法修習修了者の就職難は、弁護士という職業の経済的な価値が急速に
しかも大きく低下してきていることを意味している。とくに会社員や公務
員等の職にある人は、今の職による収入を失ってまで弁護士を目指そうと
は思わなくなってきており、大学生も、将来の安定した職業として選択し
なくなりつつある。弁護士という職業の経済的な価値の低下が志願者が激
減した理由の1つであることは、間違いないと思われる。
これに対して、司法試験の合格率が低いから志願者が集まらないと言わ
れることもある。しかし、では合格率を上げれば志願者が増えるかという
と、もし司法試験の合格率を上げるために合格者を増やした場合には、弁
護士という職業の経済的な価値がさらに低下して、結局志願者がさらに減
少するに至ると思われる。これは、通貨の量を需要以上に増やすと通貨の
価値が下がるというインフレと同様に、弁護士の数も増やしすぎたために
経済的な価値が下がり、他の職業との比較でなりたい職業とは思われなく
なりつつある、ということである。司法試験の合格率を上げれば志願者が
集まるという主張は、弁護士という職業の経済的価値はいかに数を増やし
ても低下しないという、経済原則を無視した考え方であるように思われる。
http://www.moj.go.jp/content/000102270.pdf

「弁護士という職業の経済的な価値」・・・

いい言葉だ・・・

これくらい,現状の問題点を分かりやすく説明する言葉もないでしょう。

また,弁護士増員派が,故意か過失かは分からないが,決して触れようとしない概念です。

【新司法試験】
社会
↓①
受験者(激減)
↓②
法科大学院
↓③25%
弁護士

増員派の主張は,
法科大学院から弁護士へのルートを広げろ,合格者を増やせ(③)。そうすれば法科大学院の志願者も増える(①)」
ということですが,
旧試験のときは,合格率3%でも多数の志願者を集めていたので,この主張は論破されています。

【旧試験】
社会
↓①
受験者(多数)
↓②
法科大学院

↓③3%
弁護士

結局は単純な話で,旧試験のときは,最終ゴールである弁護士という職業の魅力が高かったから,多くの受験者が目指したのです。
この「弁護士職の魅力」の中の重要な要素の1つが,経済的に十分な報酬が得られる点だったのでしょう。

これを新司法試験にあてはめて考えてみると,新人の年収が300万と報道されるように,弁護士の経済的報酬をボロボロにしておいたら,合格率を何%にしても(③)志願者の減少は止められないのです(①)。

それでも現状はまだマシかも

それでも現状を見ると,客観的なリスクの高さとリターンの乏しさに比べて,まだまだ志願者が多いように感じています。
「腐っても鯛」というように,実際の実入りが少ないとしても,長年に渡り築き上げた社会のエリートとしての弁護士のネームバリューが,志願者を惹きつけているのだと思います。

例えると,先代の創業者が築き上げた"のれん"の信用によって,二代目がメチャクチャな経営をしていても,何とかお客が付いているようなものです。

ですから,これから何年にもわたって依然としてメチャクチャな司法試験制度を続けて,今はまだ維持している弁護士に対する社会の信頼が失われたときは,客観的なリスクとリターンの状況と,志願者数が比例するようになる,すなわち,さらに一層,志願者の減少が進むと予想しています。

これこそ「多様な人材の登用」?

視点は少し変わりますが,このような受験者にとって過酷とも言える状況を見ると,司法制度改革の目的の1つである「多様な人材の登用」も,変わった形で達成されると思います。

本来の意味は,法学部のエリートだけではなく,他学部出身者や社会人経験者にも,弁護士となる門戸を開こう,ということでしたが,一部の金持ちであったり,または,どんなに貧乏であっても弁護士業をやりたいという,何らかの理由から固い信念を持つに至った人が,志願者の多数を占めるようになるでしょう。
(まともなリスク感覚を持った,常識のある社会の「普通の人」は,弁護士を目指さなくなるでしょう)

砂漠や深海など,過酷な自然環境の中では,サソリや深海魚のような,そこでも生きられるような特殊な生態の生物が栄えるようなものでしょうか?