少し古い記事ですが,弁護士増員派の人はどのような主張をしているのかと興味を持ち,読んでみました。
法曹人口抑制論の虚妄
−今こそ合格者3000人を実現すべし−
フレッシュフィールズブルックハウスデリンガー法律事務所 岡田和樹
月刊 ザ・ローヤーズ2010年12月号(第7巻第12号)
http://www.ilslaw.co.jp/M.Lawyers/M.Lawyers1012.html
その主張が利にかなっていれば,自分の考えも一部あらためようか・・・と思って読んだのですが・・・
結論から言いますと,ひどかったです。
かつて,竹下元首相が右翼からほめ殺しを受けた事件がありましたが,これは一種のほめ殺しなのでしょうか?
筆者は実は増員「反対派」で,荒唐無稽な増員「賛成派」の主張をコミカルに言うことで,増員「賛成派」に対するネガティブな印象を与えるのが目的,というような。
参考
ウィキペディア皇民党事件
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9A%87%E6%B0%91%E5%85%9A%E4%BA%8B%E4%BB%B6
弁護士の「学力低下」について
実際問題として,こういう「学力低下」は,サービスを受ける国民の立場からみると,どの程度問題なのだろうか。別に,民法があまり分かっていなくても,困らない事件はいくらでもある。
(弁護士の「学力低下」は)大問題なんですよ・・・。知らないのが民法ならまだいいですが,まともな日本語で書面が書けない者が,下位合格者の中にはいるんですよ。
この順序で書くように,何回指導しても,正しく書けるようにならないのです。
↓
(理由)>したがって>(結論)
また,「学力低下」している弁護士が語られるとき,なぜか「法律知識は不十分でも,一般常識はしっかりしている者」が想定されているようですが,経験からは,地頭が悪く,受験期間に法律知識を十分に体得できなかった者は,一般常識でも劣っていることが多いです。
筆者は幸せにも,このような困った弁護士に遭遇して,困惑させられたことがないのでしょう。
就職難について
(大学や高校を出た者が就職難だからといって)「大学を減らせ」とか「高校入学者を制限しろ」とかいう話は聞いたことがない。
これは詭弁でしょう。
法科大学院は,法律家になる者だけが入学します。そして,その卒業生だけが司法試験を経て弁護士になります(少数の予備試験合格者を除く)。
ですので,法科大学院を減らし,その入学者と卒業者を減らせば,新規参入者が減りますので就職難の解消に直結します。
一方,大学,高校についは,これらを経ない者も,社会で働くのであれば,就職戦線に参加します。新規参入者になります。
つまり,大学,高校を減らしたとしても,「その影響でこれらに入学できなかった者」を想定したとして,こういう人も結局は就職戦線に参加するので,(大卒者,高卒者のプレミアがある程度確保されたとしても),全体としての新規参入者数は減らず,就職難の状況は変わりません。景気の変動の影響を受けるだけです。
ですので,あまり意味がないので大学,高校減少を言う人がいないだけです。
弁護士が法律事務所や企業に就職できないのは,希望する給与が高すぎるのも大きな原因である。「弁護士資格があるからといって,同年齢の社員の倍も給与は払えない」という企業が多い。「同年齢の社員程度でいい」となれば,多くの雇用機会があることは明らかである。
何を言っているのでしょうか?
法科大学院に何百万という学費を払っているのですから,少なくとも同年齢の社員以上の収入を求めるのが当然でしょう。
相応の収入を得られる見込みがないなら,高いコストをかけて弁護士を目指す志願者は激減するでしょう(実際に激減しています)。
学費ウンヌンが弁護士の個人的な家計の話としても,一般社員と同じ=プロフェッショナルとしての技量への対価がない,というのは,おかしいのではないでしょうか。
企業としても,同年齢の社員とあまり変わらない給与しか払いたくない,というのであれば,弁護士資格や法科大学院の教育結果に価値を感じていないということです。
筆者がこのような主張をされるのであれば,まず筆者の事務所で,弁護士の報酬を,同年齢の一般社員と同程度にしてみて,感想を聞いてみてはどうでしょうか。
貸与制(給費制)について
確かに,高額のロースクールの学費を払って司法試験に合格した後,1年間も無給(しかも,アルバイト禁止!)で修習を受けなければならないというのは酷な話である。
と修習生の貸与制における経済的負担の重さに理解を示しつつ,
しかし,だからといって,「給費制を維持すべきだ」ということにはならない。基本に立ち戻って,「司法修習は必要か」という問題を検討するべきである。
と,論点をずらし,以降はひたすら修習不要論をぶつのみで逃げてしまっています。
このように言われるのであれば,
「修習はすぐには廃止されないですよね。修習が廃止されずに残ってしまっている期間について,給費制を維持すべきとお考えですか,貸与制にすべきですか。」と重ねて質問したいです。
業務範囲について
弁護士が増えれば,弁護士は,司法書士や行政書士,さらには,弁理士,税理士の職域とされている部分にも進出するし,企業の法務部の社員の多くも弁護士で占められるようになるだろう
何を言っちゃってるんでしょうか?(失礼!)
司法書士などの業務範囲も,無人の荒野ではありません。
既存の士業の方たちがあふれ,すでにレッドオーシャンと化しているところも多いです。
弁護士が「進出」しようとするのは自由ですが,コスト面,顧客に対する知名度の点で,現時点では,既存の士業の方たちに分があるのではないでしょうか。
少なくとも,全体のパイの大きさが劇的に大きくなるようなことがない限り,楽勝ということはないでしょう。
企業の法務部の社員については,一般社員よりも多少多くの給与を頂くのであれば,「この仕事は弁護士資格が無くてもできる」と企業が判断したら,弁護士を雇わないでしょう。
雇ってほしいのであれば,何とか,企業に,弁護士資格の価値を認めてもらう必要があります。
弁護士が社会を埋め尽くす?
毎年3000人が弁護士になれば,30年すれば,十万人を超える弁護士が社会を埋め尽くす。100万人と言われるアメリカの弁護士と比べれば,「埋め尽くす」というほどではないにしても,「そこここに弁護士がいる」ということにはなるだろう。
そういう状況になれば,淘汰されて廃業する弁護士がいて当然になるでしょうね。
弁護士事務所がラーメン屋と同じ感覚になります。
色々なところに店があって,繁盛店がある一方で,お客が来なくて赤字が続けば潰れていくようになります。
現在でも弁護士の仕事が少なくなっているくらいなので,「十万人」の弁護士が食っていけるような量の仕事が,社会にあるとは想定しにくいです。
というか,この文章の数字では,弁護士が減らずに増え続けていく計算になっていますが,筆者は食えない弁護士が廃業することを想定していないのでしょうか?不思議です。
関連ブログ
弁護士 猪野亨のブログ
ザ・ロイヤーズ2010年12月号
http://inotoru.dtiblog.com/blog-date-20110103.html
花水木法律事務所
がっかり。
http://hanamizukilaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/12/post-1a17.html