タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

「『挑戦的社会人コース』導入のお知らせ」(青山学院大学法務研究科)

少し前の発表ですが,青学ローが新しいコースを導入したそうです。

はじめに見たときには,苦境に立たされた青学ローが何かに挑戦しているのかと思いましたが(そういう側面もあるかもしれませんが),よく読むと,社会人の法曹志願者が,法曹になるために挑戦するということのようです。

青山学院大学法務研究科 News & Information : 【重要】「挑戦的社会人コース」導入のお知らせ
青山学院大学法科大学院では、2017年度より、3年標準(法学未修者)コースの中に、1年次だけは夜間および土曜日の受講で履修できる「挑戦的社会人コース」を導入します。
http://www.lawschool-aoyama.jp/blog/news/2016/05/post-88.html

単純な夜間コースというものではなく,未修3年コースのうち,1年目のみ,夜間,土日に受講できる,というもののようです。

「挑戦的社会人コース」導入のお知らせ(pdf)

青山学院大学法科大学院では、2017 年度の入学者から、「挑戦的社会人コース」を設けます。
これは、3 年標準コースの 1 年次だけは夜間及び土曜日の受講で履修できるコースです1 年間の学修の経験を踏まえて、本格的に法曹を目指すことを決心された方には、司法試験合格を目指して 2 年次から昼間の受講で集中的に学修していただきます

このようなコースを設けるのは、社会人が仕事を辞めて法科大学院に入学するリスクを下げると同時に、司法試験合格を現実的な目標として追求していただくためです。その背景には、3 年標準コース(未修課程)の入学者選抜で適性を見極めることが難しいこと、また現在の司法試験を前提とすると、夜間の学修だけで十分な受験準備をするのは難しいという実情があります
http://www.lawschool-aoyama.jp/blog/news/160520tyousentekishakaijin.pdf

1 年間の学修の経験を踏まえて、本格的に法曹を目指すことを決心された方

とありますが,裏を返すと,1年間ロースクールに通った上で,法曹を目指すのをやめる学生も想定されているようです。
入学金と1年間の学費,また多くの時間を費やしてようやく法曹の適性を見極める,というのは,費用対効果が悪すぎないでしょうか。
学生から見れば,リスクが高いということになります。

現在の司法試験を前提とすると、夜間の学修だけで十分な受験準備をするのは難しいという実情があります

少し面白いのが,「夜間コースだけでは司法試験に合格できない」という認識を示しているところです。

夜間コースを(それまでの職,収入を維持できるということで)まるで「打ち出の小槌」であるかのように発言するロースクール関係者が散見される中,(経済的負担については夜間コースを設置すれば対処できる,と安直に言う)割合,現実的な認識だと思います。

しかし,結局,2年次からは退職して職を失ってしまうのですから,社会の一般的な感覚からは,やはりリスクは高いと言えます。

それよりも,もっとリスクを低減し,よりチャレンジングなコースがあります。

それは,「挑戦的予備試験コース」です。

それまでの職を維持できますし,社会人として忙しい中,通学や,司法試験とはまったく関係ない一般教養科目受講の時間を節約し,その分の時間を勉強にあてることができます。
万一,法曹の適性が乏しいとして法曹になるのを断念するとしても,以前の職に戻れますし,経済的なロスも,予備校の受講料程度の最小限に留められるでしょう。
予備試験に合格すれば,優秀であることの証明を得たことになり就職にも有利になります。
(と考えてしまう私は,心が貧困でしょうか)

とはいえ,単純にコースの選択肢が増えるということであれば,学生にとってそれほどネガティブなものでもないかもしれません。
それが不合理であれば,選択する学生が現れない,というだけのことでしょう。

しかし,法科大学院という枠組み自体が無理がありすぎるので,その中で工夫するのも限界があり,真にリスク低減を図るのであれば,予備試験を目指す方がはるかに合理的であると言えます。