タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

「文部科学省における法科大学院の強化と法曹養成の安定化に向けた抜本改革の推進」について(平成26年11月18日)

ネットで公開されていました。

文部科学省法科大学院
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/houka/houka.htm

文部科学省における法科大学院の強化と法曹養成の安定化に向けた抜本改革の推進」について(平成26年11月18日)
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2014/11/21/1353577_1.pdf

入学定員の削減

【主な改善方策案】
公的支援見直しのスキームを最大限活用し、地域配置等に一定の配慮をしつつ、入学定員を着実に削減

ロースクールへの入学定員を削減して、受験者母数を減らすことで、司法試験合格率を上げよう、という狙いのようです。
しかし、(仮に合格者1800人が続くとして)上位1800人に入るような若者は入学してくれて、それ以外の下位の者がキレイに「削減」されてくれれば、ある程度、こうした狙い通りになるのでしょうけれど、そううまくいくはずがないでしょう。

将来的に上位1800人に入る者も、下位になる者も、それぞれ減るのが現実でしょう。

話を単純にするために、仮に、入学定員が半分になり、「上位1800人候補者」も半分、「下位候補者」も半分になったと仮定して、ここから1800人を合格させると、「下位候補者」からも900人の合格者を出さなければならないことになります。
これまでならば、不合格としていた者を、合格させるわけです。

そうなれば、当然ながら、合格者のレベルが下がります。

通常の判断能力を有する一般人であれば、こうなることが容易に想像できますが、一体どうなるのでしょうか?

現在でも、考査委員は、採点実感で受験者の質について厳しいコメントを出していますが、文科省の思惑通りに「下位候補者」を易々と合格させるのでしょうか?
もしかしたら、ロー推進派と考査委員のバトルが勃発する未来もあるのかもしれません。

まあ、トラブルの具体的内容までははっきりとは予測できませんが、うまくいくはずのない目論見であることは確実なので、揉め事が発生することは必至かと思われます。


共通到達度確認試験の導入

◎ 共通到達度確認試験の導入による一層厳格な進級判定の推進

あまり指摘されているのを見たことがありませんが、この「共通到達度確認試験」は、一定の成績下位者を司法試験受験以前に排除することで、司法試験の合格率を上げる機能もあると思います。

言い方を変えると、現状の司法試験による選抜機能の一部が、ローの期間内に取り込まれているとも言えます。

せっかくロースクールに入学して何年か勉強しながら、法曹への道を断念せざるを得ない者が出てくるのは、ローの教育力が不足しているためだと思うのですが、司法試験の合格率には反映されず、いわば「隠ぺい」されることになります。

ロースクール側から見れば、「司法試験の合格率を上げるために、成績の良くない学生は、司法試験を受験する前に、共通到達度確認試験で落としてしまえ」というインセンティブが、ロースクールに生じる可能性が考えられます。

ですので、「共通到達度確認試験」の具体的な合格率などにもよりますが、問題をはらんだ制度だと懸念しています。


「優秀者早期修了コース」

3.誰もが法科大学院で学べる環境づくり

◎ 優秀な学生に対する積極的な対応
質の確保を前提に、学部3年+法科大学院既修2年コース(5年一貫の優秀者早期修了コース)の確立及び充実

これは、そもそも日本語が変です。

「誰もが法科大学院で学べる環境づくり」という見出しからすると、法科大学院で学びにくい類型の法曹志願者への対策が示されているものと思われます。

しかし、「優秀な学生」は、ロースクール進学と予備試験受験を自由に選択できる状態であって、現状でも、ロースクールで学ぶことに困難はありません。
自由な選択の結果、予備試験を受験することが多いだけです。
「本心ではロースクールに行きたいけれど、支障があるので泣く泣く予備試験を受験している」ということではないと思います。
つまり「優秀な学生」にとって、現状で支障はなく、そうであればそもそも「支障への対策」というものもありえません。

もし、「ロースクールは時間的負担が大きい」ことが問題であれば、それは「優秀な学生」に限らずすべての学生にとって問題です。
そうであれば、ロースクール制度そのものの期間短縮を考えるべきでしょう。

仮に、「優秀な学生」限定の時間的負担の軽減策を出すなら、「誰もが法科大学院で学べる環境づくり」などと、あたかも法曹志願者のための施策であるかような見出しにせず、「法科大学院が優秀な学生を取り込むための施策」という別項目にして、法科大学院を救済するための施策であることを明らかにすべきでしょう。

実質面で言えば、この「早期修了コース」によりショートカットされた部分については、「プロセスによる教育」が不要であったことを、正面から認めたことになります。

予備試験も、「超早期修了コース」「早期修了コース 真打」などの名称にして、早期修了コースの一種という建前にすれば、ロー推進派も認めてくれるのでしょうか?

ここで多少、話はそれますが、そもそもロースクールが、予備試験に対抗する方法として費用、時間の負担軽減しかしようとしないこと自体が、おかしなことと感じています。

例えば、飲食店で言えば、牛丼の価格が安いからといって、あらゆる飲食店が価格の低下を目指すことはないでしょう。

一部の飲食店は、サービスを質を高めて価格も高いものとする、いわゆる高級店を目指して差別化を図って、そうしたニーズを持った顧客を取り込もうとするものです。

ロースクールで言えば、費用、時間の負担を大きくしてでも、高いレベルの教育サービスを提供することで、差別化を図れます。

しかし、こうしたロースクールが一向に出てこないのは、肝心の教育サービスの質が、「牛丼」レベルであり、低コストだけが売りの予備試験ブランドに、市場で対抗できないと、ロースクール自身が認めているのだと思います。

オンライン授業

◎ 経済的事情のある者、地方在住者や社会人への配慮
最新のICT等を活用し、討論や質疑も可能なオンライン授業等の検討

よくわからなかったので、「オンライン授業 ict」で検索してみました。

名古屋商科大学大学院/gacco でMBA講義の受講登録者が8000人超える
http://ict-enews.net/2014/11/19nucba/

オンデマンド授業とは | 早稲田大学 大学総合研究センター
http://web.waseda.jp/ches/?page_id=88

自宅等のパソコンでも、授業が見られるようにするということなのでしょうか。
わざわざロースクールに行かなくても済んだり、録画であれば時間のあるときに見られたり、地方在住者や社会人にとってはありがたいものになるでしょう。

しかし、それほどいいものであれば、「地方在住者や社会人」以外の人も、オンライン授業にしたくならないでしょうか。
授業料は、通学より安くなるのでしょうか。
なんだか、予備試験の導入を彷彿とさせます。

それとも、「地方在住者や社会人」は、住所や勤務先からの証明などで、要件を決めやすいので、これらの人限定のものにして、誰でも利用できるということにはならないのでしょうか。

ロースクール関係者が、既得権益を確保するために、妙な制限をしようとすると、複雑なことになりそうです。
(これも、予備試験を連想させます)

まとめ

不具合の発生に、弥縫的な対策を繰り返し、まるで増築をくり返した旅館のように、複雑怪奇な制度になってしまっていると感じます。
ベーシックインカム論を連想させられるのですが、複雑な制度を取っ払って、一発試験のみのシンプルな制度にした方が、各所のコストが削減できるし、法曹志願者にもそのリターン(費用と時間のかかるロースクールに行かなくて済む)がありますし、いいことずくめのように思います。

ロースクールは任意の機関とすれば、ローに行きたい法曹志願者がいたとしても、不満はないでしょう。

○ 志願者のニーズに応じたきめ細やかな対応により法科大学院志願者の増加へ

とありますが、「ロースクールに行かなくても独学などで法曹になりたい」という、強い「志願者のニーズ」には、応えることはないのでしょうね。