タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

マッチ売りのロースクール(成蹊大学法科大学院の学生募集停止)

年の瀬も押し迫った大晦日間際の夜、小さなロースクールが一校、寒空の下で司法制度改革の理念を売っていた。
入学者が集まらなければ文科省に叱られて補助金が削減されるので、入学者が集まるまでは家には帰れない。
しかし、街ゆく人々は、年の瀬の慌ただしさと法曹になる道の費用対効果の悪さから、ロースクールには目もくれず、目の前を通り過ぎていくばかりだった。

夜も更け、ロースクールは少しでも気分を盛り上げようと、法曹養成制度改革連絡協議会*1の傍聴にでかけた。
企業,自治体,海外展開と拡大し続ける法曹需要,質の高い法科大学院教育,司法試験の高い累積合格率に支えられた安定した法科大学院経営などの幻影が一つ一つと現れ、会議が終わると同時に幻影も消えるという不思議な体験をした。
就職市場を見ると,有為な人材が他の業界に流れ、ロースクールは「若い人材が他へ流れることは,業界が衰退して消えようとしている象徴なのだ」と言われていることを思いだした。
次の会議を傍聴すると、その有為な潜在的法曹志願者の幻影が現れた。
ロースクール制度の経済的優位性が消えると、潜在的法曹志願者も他の業界へ消えてしまうことを恐れたロースクールは,慌てて持っていた預貯金全てを放出し,無理な奨学金制度を創設した。
しかし,他の業界における優秀な若者の前途は明るい光に包まれており、若者たちはロースクールに別れを告げて他の業界へ去っていった。

新しい年の朝、成蹊大学法科大学院は,学生募集停止を告知するPDFを公表し*2幸せそうに微笑みながら死んでいた。
人々は、このロースクールが幻影の中で潜在的法曹志願者に会い、彼らの前途にとってロースクール制度は無用の長物だと悟ったことなどは誰一人も知る由はなかった。

元ネタ

マッチ売りの少女 - Wikipedia

あらすじ
年の瀬も押し迫った大晦日の夜、小さな少女が一人、寒空の下でマッチを売っていた。マッチが売れなければ父親に叱られるので、すべてを売り切るまでは家には帰れない。しかし、街ゆく人々は、年の瀬の慌ただしさから少女には目もくれず、目の前を通り過ぎていくばかりだった。

夜も更け、少女は少しでも自分を暖めようとマッチに火を付けた。
マッチの炎と共に、暖かいストーブや七面鳥などのごちそう、飾られたクリスマスツリーなどの幻影が一つ一つと現れ、炎が消えると同時に幻影も消えるという不思議な体験をした。

天を向くと流れ星が流れ、少女は可愛がってくれた祖母が「流れ星は誰かの命が消えようとしている象徴なのだ」と言ったことを思いだした。
次のマッチをすると、その祖母の幻影が現れた。
マッチの炎が消えると、祖母も消えてしまうことを恐れた少女は慌てて持っていたマッチ全てに火を付けた。
祖母の姿は明るい光に包まれ、少女を優しく抱きしめながら天国へと昇っていった。

新しい年の朝、少女はマッチの燃えかすを抱えて幸せそうに微笑みながら死んでいた。人々は、この少女がマッチの火で祖母に会い、天国へのぼったことなどは誰一人も知る由はなかった。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%83%E3%83%81%E5%A3%B2%E3%82%8A%E3%81%AE%E5%B0%91%E5%A5%B3

成蹊大学大学院法務研究科(法科大学院)の学生募集停止について
http://new.seikei.ac.jp/university/related/20151224.pdf