タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

もはや精神論で乗り切るしかないロースクール

法学セミナー2015年3月号の「法科大学院生レポート」です。

諦めない心

 法科大学院生活最後の授業期間が終了した。
前期の内に卒業単位は揃えていたものの,いざ最後の授業期間が終わってみると,感慨深いものがあった。

 入学当初,完全未修だった私は授業についていくのが大変だった。
学部から比べたら信じられないくらいの課題が出されるし,精一杯対策をして臨んだ小テストも下から二番目になるなど,散々なこともあった。
正直何度も普通に就職しておけばよかったと思った。

事実,この三年間,何度も「法科大学院なんてやめてやる」と自室の中で不気味に呟いていた。
親にそのことについて相談してみたこともある。
しかし,結局はやめることはなかった。ここで諦めたら,これから先ずっと妥協して生きていく気がなんとなくしたからだ。そのため,何とか今まで食らいついていくことができた。そのおかげか,上三分の一以内には入れる成績で卒業ができそうである。

 これから法科大学院に入学する学生(特に未修生)に伝えたいことがある。それは諦めないで欲しいということだ。

法科大学院の入学者が減少し,かつ仮に司法試験に合格したとしても,就職先が決まるかわからない状況で,既修者と比べ法的知識が圧倒的に劣る学生が3年間もの未修課程に入学するということは,大変勇気がいることである。
しかも,昨今,どの法科大学院でも卒業要件を厳格にし始めているため,無事3年間で卒業できるかも確約されていない。

そのような環境下で法科大学院に入学し,いざ勉強を始めると,よほど優秀な学生でない限り,何度も法科大学院をやめようかと感じてしまうだろう。

本当に法曹になることに興味をなくし,別の道に進む気になったのならば,法科大学院をやめても良いと思う。

しかし,単に勉強が厳しいからとか,成績が伸び悩んでいるから等の理由でやめようと考えているのならば,必死に食らいついて頑張るべきだと私は思う。私のような凡人でもなんとかなったのだから。

 このことは,これから司法試験を受ける私にも言えるのかもしれない。そのため,私も仮に1回目で落ちたとしても,何とか合格なるまで,喰らいついていきたいと思う。

ロースクール生の視点から,ロースクールの勉強についていく大変さ,また,卒業できるか,卒業できたとしても就職できるか,という不安が語られています。

筆者は,これらの困難を,「諦めない心」で乗り切った,ということのようです。

これを読んでまず思ったのが,「若いな」ということです。

ロースクール進学の妥当性

ビジネスでは成果を出すことが第一です。
そして,アウトプットとしての成果が同じであれば,かかるコストが少ないやり方の方が優れています。
もう少し具体的に書くと,ある仕事をするのに,Aパターン,Bパターンと複数のやり方を想定し,どちらが低コストで,早く楽に成果が出せるかを,常に頭の中で計算し,ベターなやり方の方を選択します。

この「法科大学院生レポート」を見ると,ロースクールでの生活はかなり大変のようです。
それを,筆者は精神論で乗り切ったということで成功談のように書かれていますが,ビジネス的には,それはコスト無視でいかにも猪突猛進すぎる,あまりうまくないやり方のように感じます。

ロースクールを経たことによる成果として何を想定しているのかは個々人によっても異なるでしょうが(経済的利益,社会的地位等),ロースクールのプロセスがそれほど過酷なものであれば,同等の成果が得られるBパターンのやり方を想定し,どちらがベターなやり方かを考えてみるべきではないでしょうか。

今,適性試験の出願者が激減しているのも,ロースクールへの入学より,他のルートの方が,自分の人生にとってベターと見なした若い人が多いからなのでしょう。

懸念材料だらけの法曹養成プロセス

また,ロースクールを経た場合の懸念材料が多く挙げられています。

  1. ロースクールの授業についていくのは大変。特に未修者は大変。
  2. 普通に就職しておけばよかったと悩むことがある。ロースクールをやめようかと真剣に悩むことがある。
  3. 卒業できるかわからない。
  4. 就職できるかわからない。

さらに,ここには明記されていませんが,以下のような懸念材料もあるでしょう。

  1. ロースクールに払うお金がかかる。
  2. 社会人になるまでに時間がかかる。
  3. 司法試験に合格できるかわからない。
  4. 就職できたとしても,良い経済的条件が見込めない。

なお,以下の様な,一部推進派が主張するようなことは述べられていないことにも着目されます。

  1. 供給が増えれば需要はついてくる。弁護士の潜在的需要がある。
  2. 三振したとしても,ロースクール修了者は企業からひっぱりだこである。
  3. 裁判事務に固執せず,新人弁護士が新たな分野を開拓すればよい。
  4. 年収は300万でよい。


世の中に,法曹以外の職業がないのならともかく,若者にとって,職業として選びうる選択肢は多数あるのが通常です。
優秀な学生であればあるほど,その選択肢は幅広く,また代替となる選択肢の条件も良いのが通常でしょう。

客観的に見て,不安材料だらけのロースクールによる法曹養成プロセスに進むのは,およそ冷静な選択とは思えない,ということを,精神論で乗り切ろうとするこの「法科大学院生レポート」を見て,逆に感じてしまいました。

参考

同じ法学セミナーの「法科大学院レポート」ですが,ロースクール生活の困難さに直面して,違った感想を述べたものもありました。
弊ブログの過去のエントリーです。
参考まで。

弊ブログ
本当は恐い「プロセスによる法曹養成」(「法科大学院生レポート」法学セミナー2014/3)
http://d.hatena.ne.jp/tadasukeneko/20140713/1405225878