タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

弁護士職務基本規程を知らない即独弁護士-(下)「常識」備えず現場へ,日本経済新聞2013/7/1

「常識」備えず,というよりは,日経は,この「即独」弁護士が,弁護士職務基本規程を知らない点を指摘するべきではないでしょうか。

(下)「常識」備えず現場へ 若手弁護士、研修制広がる

性犯罪事件の被害者側代理人を務めていた東京の50歳代のベテラン弁護士は、事務所に届いたファクスに目を疑った。
自分が先日送った書面の余白に「貴職の考えには賛同できません」と殴り書きの文字。
被告側の若手弁護士が送りつけてきたものだった。

被告側が被害者の親に直接示談を申し入れてきたため、「配慮が足りない。弁護士を通すのが筋だ」と抗議したことへの返答がこのファクスだった。
相手は1年目に独立開業した「即独」。
ベテラン弁護士は「常識を教わる機会がなかったのだろう」と嘆く。

http://www.nikkei.com/article/DGKDZO56818590R00C13A7CR8000/


まあ,確立した「常識」を明文にしたものが職務規程ということであれば,「常識」備えず,としても表現としては間違いではないのかもしれませんが。

弁護士職務基本規程

(相手方本人との直接交渉)
第五十二条
弁護士は、相手方に法令上の資格を有する代理人が選任されたときは、正当な理由なく、その代理人の承諾を得ないで直接相手方と交渉してはならない
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/jfba_info/rules/data/rinzisoukai_syokumu.pdf

ロースクールでは「法曹倫理」の科目があり,この規程を,この「即独」弁護士もおそらくは学んだのでしょうが,忘れてしまったのでしょう。

職務規程知らず,ということであれば,新人弁護士のOJT不足を招いている司法制度改革のみならず,ロースクールの教育力も,直接的に問題となってきて,記事の方向性も変わってきます。

(下)「常識」備えず現場へ 若手弁護士、研修制広がる

背景の一つとして指摘されるのが、司法試験合格者の実務訓練の場である司法修習の短縮だ。
以前は2年間だった修習期間が06年から1年間に。
司法研修所で実務の基礎を学ぶ「前期日程」は廃止され、裁判所や検察庁、弁護士事務所での「実務修習」もそれぞれ4カ月だったのが2カ月ずつになった。

 その分、実務教育の一部を法科大学院が担うと想定されているものの、都内の法科大学院講師は「司法試験に合格しないと役に立たない内容にはなかなか力を入れにくい」と話す

http://www.nikkei.com/article/DGKDZO56818590R00C13A7CR8000/

ロースクールも,「試験に関係ないことは力をいれにくい」とのことですが,「法曹倫理」の科目はおそらくはどのロースクールにもあり,2単位として学生を数十時間にわたって拘束しているはずですから,弁護士職務基本規程,第五十二条(相手方本人との直接交渉)については教えているはずです。

この記事の冒頭の例が,たまたま適切でなかっただけで,ストレートに「常識」を備えていないと言ってもよい例が多くあるのかもしれませんが,日経の記者も,もっときちんと取材をしてほしいと思います。

弁護士を粗製乱造して,市場での淘汰を予定している,ということであれば,職務規程違反ということで,この「即独」弁護士を懲戒にかけて,市場から退場するような方向へ向かわせるのが良いでしょう。

もし粗製乱造ということではなく,ロースクールが,「質・量ともに豊かな法曹」を目指しているというのであれば,その目標は達成されていない,約束違反の事実があるので抜本的な改善を考えてほしい,としか言いようがありません。