タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

法曹養成制度検討会議第3回議事録,「旧制度の病理現象」田中委員(平成24年10月30日開催)

○田中委員

現在の法曹養成制度というのは,本日配布され,また説明もされました資料3,8,9などの記載内容からもうかがわれますとおり,旧司法試験の受験競争の弊害と,その改善の限界といった旧制度の病理現象が抜き差しならない状況に陥ったというところから導入されたものであります。
http://www.moj.go.jp/content/000104258.pdf
http://www.moj.go.jp/housei/shihouseido/housei10_00007.html

「旧制度の病理現象」が何かと思って,資料を見てみました。

【資料1】法曹養成制度の理念と現状 [PDF]
http://www.moj.go.jp/content/000103608.pdf

資料3 新旧の法曹養成制度の枠組みに関する意見

資料3 新旧の法曹養成制度の枠組みに関する意見

新旧の法曹養成制度の枠組みに関する意見

旧制度の抜本的改革をした際の指摘
(司法制度改革当時の議論)

① 旧司法試験の受験競争の弊害を指摘するもの
○ 旧司法試験は開かれた制度としての長所を持つものの,受験競争が厳しいため,受験者が予備校に大幅に依存し,受験技術優先の傾向が顕著となり,資質の確保に重大な影響を及ぼしている。
 ○ 受験期間も長期に及んでいる。
② 旧司法試験の改善による限界の指摘
○ 試験内容や試験方法の改善が行われたが,それのみによって問題点を克服することには限界がある。
③ プロセスによる養成制度の必要性を指摘するもの
○ 司法試験という「点」のみによる選抜ではなく,法曹養成に特化
  した教育を行うプロフェッショナル・スクールである法科大学院
  設けて,司法試験に先立つ過程において充実した教育を行うことに
  より,全体を質的に向上させていくことが必要かつ有効である。

http://www.moj.go.jp/content/000103608.pdf

いわんとしているところも,まったく分からないでもありませんが,だからロースクールが必須とは,全然思えません。
試験内容を,新試験のものにして,一発試験にすればいいだけだと思います。

受験競争が厳しいのは,受験者数に比べて合格者数が少ないことから来るもので,旧試験の制度から来る弊害ではありません。

新試験であっても,仮に受験者数が大きく増えれば,競争が厳しくなり,合格レベルが高くなり,これは予備校依存につながっていくと思います。
実力者が合格待ちをするという状況になり,受験期間も長期化するでしょう。

資料8 新司法試験合格者・旧司法試験合格者の受験期間

資料8 新司法試験合格者・旧司法試験合格者の受験期間

新司法試験合格者の新司法試験受験期間・旧司法試験合格者の旧司法試験受験期間(1)
新司法試験合格者の新司法試験受験期間・旧司法試験合格者の旧司法試験受験期間(2)
新司法試験合格者の新司法試験平均受験期間・旧司法試験合格者の旧司法試験平均受験期間
●旧司法試験合格者の旧司法試験受験期間(平成11年〜平成22年)
●新旧司法試験合格者の平均受験期間
http://www.moj.go.jp/content/000103608.pdf

各表のタイトルです。

こちらは,まったく意味が分かりません。

「新司法試験合格者の新司法試験平均受験期間・旧司法試験合格者の旧司法試験平均受験期間」
を見ると,平成18年の新試験の受験期間の平均が,1年になっています。
つまり,全員について受験期間が1年とということです。
ということは,この「受験期間」には,新試験の受験歴のみがカウントされているようです。

これに対して,旧試験の方は,平均が5年から6年で推移していますので,古株の受験生も含まれているのでしょう。

これでは,旧試験の方が圧倒的に「受験期間」が長く見えて当然です。
これを同じ表に載せるのは,アンフェアすぎます。意図的にミスリーディングしているとしか思えません。

また,旧試験から新試験に流れた人も,たくさんいるはずです。
より実質的に「受験期間」を調査するなら,新試験合格者について,彼らが旧試験を受験していた期間も「受験期間」に含めるべきでしょう。

これを見て,「新試験が良くなった」と思うのは,相当,論理力がヤバイと思います。
適性試験を受けたら,下位15%に入ってしまうのではないでしょうか。

資料9 司法試験合格者の平均年齢

資料9 司法試験合格者の平均年齢

司法試験合格者の平均年齢
http://www.moj.go.jp/content/000103608.pdf

こちらについては,旧試験と新試験で,あまり変わっていません。

むしろ,平成8年〜平成12年については,旧試験の平均年齢は,26歳台です。
一方,新試験の平均年齢は,28歳台〜29歳台で推移しています。
つまり,合格者の平均年齢は,旧試験の一時期よりも悪化(高齢化)しています・・・

結論「人は自分が見たいと思う現実しか見えない」

結局,資料からは何が「旧制度の病理現象」なのか,分かりませんでした。
「人は自分が見たいと思う現実しか見えない」と言ったのはカエサルですが,田中委員には,これらの資料から何か普通の人には見えないものが見えてしまったのかもしれません。

また,仮に「旧制度の病理現象」なるものが本当にあるとしても,ロースクールがそれを効果的に解決する手段とは思えません。

これらの資料からは,「合格までに時間がかかり過ぎる」のが問題だと読みとれますが,そうであれば単に一発試験で合格者数を2000人にすればいいだけです。
ロースクールがあると,ロー在学中の2年〜3年,受験ができませんし,大学在学中の受験もできないので,早期合格の点からすればロースクールはマイナスの効果すらあります。

ロースクール推進派が,事実の歪曲もいとわず横車を押すのは今に始まったことではないので,彼らが誠実な議論をすることはもはや期待しませんが,志願者の激減などの状況悪化と合わせて見ると,その必死さが逆に彼らの苦しい胸のうちの表れのように見えてしまいます。

まあ,これは単に私が「見たいと思う現実」が見えてしまっているだけなのかもしれませんがw