タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

司法試験、回数緩和を検討 受験制限5回に,政府有識者会議,日経新聞2013/5/29

受験回数制限が緩和される方向のようです。

司法試験や法科大学院のあり方を検討している政府の「法曹養成制度検討会議」(座長・佐々木毅東京大学長)は、5年間で3回までとしている現行司法試験の受験回数制限を緩和する検討に入った。
法務省が30日の会合に「5回まで」とする緩和案を提示、6月末をメドにまとめる最終提言に盛り込む方向で議論を進める。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG2805U_Z20C13A5CR0000/

当然というか,むしろ遅すぎたくらいでしょう。


現行の受験制限は,「5年という期間制限」と,「3回という回数制限」が組み合わさったものであり,その根拠は概ね以下になります。

5年という期間制限は,(時間の経過により)「ロースクールの教育効果が薄れるから」

3回という回数制限は,「合格率が7割〜8割ということを前提とし,3回不合格となる人は,さすがに法曹の素養がないであろうとみなされるから」

このうち,「3回という回数制限」は,「合格率が7割〜8割」という前提が崩れ,また合格率の回復の見込みもないことが何年も前から明らかになっていたわけですから,受験者の権利を合理的理由もなく不当に制限するものとして,早急に撤廃されるべきものでした。

今頃になって,現実的な話として出てくるのは,あまりに遅すぎると思います。

ちなみに,法曹養成制度検討会議の中間的取りまとめでは,「5年という期間制限」と「3回という回数制限」の話がまとめてごちゃっとされており,よく見ると,「3回という回数制限」の方の根拠について何ら説明がされていません(まあ,説明のしようがないのでしょう)。

中間的取りまとめ

中間的取りまとめp16
・ 受験回数制限制度は,旧司法試験の下での問題状況を解消するとともに,プロセスとしての法曹養成制度を導入する以上,法科大学院における教育効果が薄れないうちに司法試験を受験させる必要があるとの考え方から導入したものである。

この点について,法科大学院の教育状況が目標としていたとおりにはなっていないことや法科大学院修了後5年の間に合格しない者が多数いることなどから,受験回数制限自体を撤廃すべきであるとの立場もあるが,受験回数制限を撤廃して旧司法試験の下で生じていた問題状況を再び招来することになるのは適当ではなく,また,法科大学院修了を受験資格とする以上は法科大学院の教育効果が薄れないうちに受験させる必要もあると考えられる。

さらに,法曹を目指し,司法試験を受験する者の多くを占める20歳から30歳代は,人生で最も様々なものを吸収できる,あるいは吸収すべき世代であり,本人に早期の転進を促し,法学専門教育を受けた者を法曹以外の職業での活用を図るための一つの機会ともなる。
したがって,受験回数制限を設けること自体は合理的である。

受験回数については,現行制度は,3回程度の受験回数制限を課すことが適当と考えられ(ブログ主注,根拠があげられていない),その上で,受験生が特別の事情で受験できない場合があり得ることも考慮し,5年間に3回受験できることとされている。

下位ロースクールに対する「法的措置」

最終提言に向けた議論ではほかに、司法試験合格実績の不振が続いた法科大学院の修了生に対し、受験資格を与えない仕組みの導入についても具体的な検討に入る。

受験回数制限の緩和で,一定の譲歩をしたとでも思ったのか,同時に強硬な対応をする,という話しも出てきているようです。

しかし,これは不合理な話しであります。

理由の1つは,司法試験は「団体戦」ではないからです。
司法試験は資格試験であり,受験生個々人が,法曹資格を得るに値するレベルに達しているかどうかを判定するものです。
過去の,同じロースクールの先輩の司法試験合格実績の不振が,後輩に悪影響を及ぼすことは,合理化できないでしょう。

もう1つの理由は,そもそも卒業生の司法試験合格実績が,そのロースクールの教育の質を反映するものかが疑わしいからです。

受験資格を与えないことの理屈としては,卒業生の司法試験合格実績の不振は,そのロースクールの教育の質が低く,そのような教育を受けたとしても受験資格を取得するに値しない,というものかと思われますが,卒業生の司法試験合格実績は,出身ロースクールの教育の質だけに影響されるのではありません。

過去の旧司法試験受験中の勉強の有無,生まれもった地頭の良さ,経済的に裕福かどうか(予備校講座を十分に受けられるかどうか)など,個々人に固有の個別事情がたくさんあります。

また,ロースクールは入学試験により学生を選別しているので,一般的に言えば,上位校の方が,下位校より,学生の質が高いです。
まったく同じ教育を施せば,上位校の方が,高い司法試験合格実績を示すでしょう。

このように,そもそも競争条件が平等でないにもかかわらず,結果(司法試験合格実績)のみで,そのロースクールの教育の質を推認することはできないかと思います。

定評校についても,その人員規模に応じて,適当な人数の人員削減をするべきかと思います。

また,仮にこのような政策が採られた場合,下位ロースクールは,学費無償の特待生を入学させるなどして,司法試験合格実績を作ろうとすることが予想されます。
下位ロースクールであればあるほど,「生え抜き」の学生の合格者が少ないので,「特待生合格者」が数人でも出れば,見た目の合格率の向上に寄与します。

このような「司法制度改革の理念」に反した迷走が誘発されるおそれさえある政策と言えるでしょう。