タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

「法科大学院教育では実務に役立つ起案能力を涵養する教育がほとんど行われていない」

法科大学院に派遣された検察官の教授の言葉です(後に詳述)。

法科大学院補助金に差 文科省、実績反映し42校で削減 2015/1/17
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO82054060X10C15A1CR8000/

日本経済新聞で、このような記事が出ていました。

違和感を覚えたのはこちら。

例えば、基礎額が90%の早稲田大は、海外のロースクールへの派遣プログラムなどが評価されて45%が加算され、最も高い135%になった。

 一橋大(基礎額90%)は法学未修者向けに課す進級試験制度などで40%加算、東大(基礎額90%)は法曹実務を英語で学ぶ授業などで35%加算、同志社大(基礎額70%)は海外大学との単位互換プログラムなどで35%加算となった。

いろいろ工夫しているのは分かりますが、これらはロースクールのメインのサービスではなく、付随的なオプションです。
ロースクールの本来の役割は、「理論と実務の架橋」と呼ばれるにふさわしい充実した授業を行うことです。

例えば、早稲田の45%の加算など、オプションにすぎない「海外のロースクールへの派遣プログラム」などを根拠に、そんなに巨額の補助金を与えてしまっていいのでしょうか。

一方で、ロースクールに本来期待される役割、「理論と実務の架橋」は実現できているのでしょうか。

この点、参考になる資料がこちら。
法学セミナー2014/09の「特別企画」です。

法学セミナー2014/09 p32

結論から書く司法試験答案−実務教育としてのリーダー・フレンドリーな答案の書き方

検察官、立命館大学法科大学院教授、甲南大学法科大学院教授 田中 嘉寿子

筆者は、昨年4月、検察庁から法科大学院に派遣され、刑事系科目を講義し始め、他の派遣教官らにも尋ねてみた結果、法科大学院教育では、実務に役立つ起案能力を涵養する教育がほとんど行われていないことを知って驚いた。

近年の新任検事の中に、法的な基礎能力はあり、教えれば起案力も向上するものの、任官時にはまともに決裁資料や論告等を起案できない者がいる原因がここにあるのかと感じたのである。

 たしかに、従前の大学法学部の講義は、法解釈学であり、法律文書の起案を教える科目はなく、旧司法試験時代の2年間の司法研修所で各種起案の課題を与えられて習熟できた。

しかし、法科大学院が設置され、修習期間が短縮されてからは、法科大学院で起案を学習することになっているはずである。

ところが、実際の授業では定期試験で起案させて採点・添削する程度で体系的に起案方法を学習する機会はほとんどない(わずかに公文書作成の講座がある程度である)。

法科大学院教育では、実務に役立つ起案能力を涵養する教育がほとんど行われていない」そうです。

本来的にロースクールが行うとされている教育を行っていないということは、債務不履行か何かになるのではないでしょうか。

「海外のロースクールへの派遣プログラム」などという浮ついたことを言う前に、ロースクールが本来行うべき教育が履行されているか、きちんとチェックし、履行していなければ、確実に履行が確保されるような手段を講じるのが先でしょう。

ロースクール衰退の原因として、苦し紛れに予備試験がやり玉に挙げられることもありますが、設立後10年も経ち、その教育を体験した卒業生も多数輩出されている中でこれほど不人気が続くのは、ロースクールの教育の質が低いという本質的な問題があるからに他なりません。

にも関わらず、ロースクール推進派が、予備試験や既存弁護士の反対など、ありもしない都市伝説のようなものに衰退の原因を求めるのは、ロースクールが立て直す見込みすらないと国民にロー進学のリスクを感じさせ、ロー衰退に一層の拍車をかけるだけだと思うのですがいかがでしょうか。


追記

ロースクールが起案を教えない理由の1つは、教授の多くが学者教員であり、そもそも教員に起案能力が欠けているものですから、起案を教える意識が薄いケースもあるでしょう。

その点で、以下のブログは興味深い内容でしたので、参考まで。

英語講師の法科大学院脱落

米国ロースクールと日本法科大学院の違い

1. 教授がほぼ法学部教授陣であり、実務経験者というよりも学者

http://ameblo.jp/romy84/entry-11979454052.html