タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

予備試験は法科大学院への入学者を奪っているのか

新聞の各社説で,まるで論証パターンを暗記したかのように「法科大学院の維持のために,予備試験の制限が必要だ」という主張がされていましたので,あらためて検討してみました。


ネットで探してみると,以下のような資料がありました。

法科大学院特別委員会(第61回) 配付資料
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/012/siryo/1347725.htm

http://www.mext.g資料4−3 適性試験受験者と予備試験受験者数の推移 (PDF:701KB) o.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/012/siryo/__icsFiles/afieldfile/2014/06/03/1347725_10.pdf

適性試験実受験者 予備試験
H23 7249 6477
H24 5967 7183
H25 4945 9224


確かにこれをみると,適性試験(実受験者)が毎年1000人程度減っているのに対して,予備試験は毎年1000人程度増えていますので,適性試験を受けるはずであった受験者が,予備試験へ流れているようにも思えます。

仮に,H23以前の適性試験実受験者の推移が以下のようであれば,その推測は正しいものと思われます。

適性試験実受験者 予備試験
H16 7249 0
H17 7249 0
H18 7249 0
H19 7249 0
H20 7249 0
H21 7249 0
H22 7249 0
H23 7249 6477
H24 5967 7183
H25 4945 9224

しかし,同じ法科大学院特別委員会(第61回)の配付資料には,以下の資料もありました。

資料2−1 志願者数・入学者数等の推移(平成16年度〜平成26年度) (PDF:552KB)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/012/siryo/__icsFiles/afieldfile/2014/05/15/1347725_1.pdf

志願者数
H16 72800
H17 41756
H18 40341
H19 45207
H20 39555
H21 29714
H22 24014
H23 22927
H24 18446
H25 13924
H26 11450


これを見ると,上の表で対象外であったH23以前,H16からH23においても,一貫して適性試験志願者数は減り続けています。

(「適性試験実受験者」と「志願者数」と,数値の基準が変わっていますので,数字は同じではないですが,全体の傾向,トレンドは同じでしょう。)

その要因は,弁護士の経済的価値の低下,ロースクールの重すぎる経済的,時間的負担等,いろいろ考えられますが,それはここでは本題ではないため,とりあえず「要因X」(エックス)としましょう。

この「要因X」がH23以降に取り除かれていない限り,H23以降も「要因X」による適性試験志願者数は減り続けている,と推測するのが妥当です。

また,仮に予備試験が法科大学院入学者を奪っているとしても,その人数は1000人程度です。
「要因X」により法曹の道から逃散した3万人〜5万人を呼び戻すことを考えたほうが,費用対効果的には優れているでしょう。

にもかかわらず,「要因X」の存在を考慮せずに,予備試験の存在を,法科大学院志願者の減少の原因と決めつけるのは,「要因X」の存在を見落としているのなら無能,「要因X」の存在を知っていながら見ないようにしているのなら恣意的,と非難されても仕方ないでしょう。

法曹志願者からの視点

視点を変えて,法曹志願者から見ると,「要因X」によりとる行動は以下になります。

パターン 行動
A 法曹の道から逃げる
B 予備試験へ逃げる
C やむなくローへ行く

現状では,予備試験により「B」の選択肢ができたため,CからBへとローを回避する者とともに,AからBへと法曹の道へ戻ってきた者もいると思われます。

これを,予備試験を制限することで,単純にBからCへとローへ人が戻ってくると考えるのはあまりにも楽観的であり,BからAへとそもそも法曹の道を忌避する者も少なくないと考えられます。

韓国の法曹養成制度

一方,予備試験ルートのない韓国では,さぞかし法科大学院に人が集まって機能しているのかと思えば,苦戦しているようです。

仮に,日本が予備試験ルートの制限に成功したとしても,同じような結末になるのではないでしょうか。

韓国、司法試験の費用ますます高く、法曹界の仕事はお金持ちが引き受ける

韓国の大学で法科大学院の学費は他の大学院と比べてずっと高く、「貴族大学院」と呼ばれる。法科大学院を卒業する平均費用は1億5790万ウォンで、その後の司法試験の費用も6333万ウォンかかる。法科大学院の学費が高すぎるので70%の家庭が負担できず、一般家庭出身の学生が勉強を通して法曹界に入る道が塞がれた。
http://www.xinhuaxia.jp/social/45224