拙ブログの以下の昨年のエントリに対して,「岡田和樹」名にてコメントを頂きました。
誠にありがとうございます。
2012/09/30(Sun)
「法曹人口抑制論の虚妄(ザ・ローヤーズ2010年12月号岡田和樹弁護士)」の虚妄本文
http://d.hatena.ne.jp/tadasukeneko/20120930/1348981923コメント
http://d.hatena.ne.jp/tadasukeneko/20120930/1348981923#c
はじめに触れておきますが,ネットで投稿されたコメントですので,この投稿者が「法曹人口抑制論の虚妄(ザ・ローヤーズ2010年12月号)」の筆者である岡田弁護士である証明はありません。
ただ,内容等からして,悪戯でここまで手間をかける人もいなかろうと思いますので,投稿者は岡田弁護士であると判断し,以下ではこれを前提と致します。
まず,コメントの全文です。以下になります。
岡田和樹 2013/07/09 00:06
この文章を含む本を出版しようと思っているので、どんな反応があるのかと見てみました。批評ありがとうございます。
いろいろ書きたいことはありますが、時間がないので、3点だけ。一点は、「学力」です。「困った人」は、500人時代もいました。どんな試験をやっても、一定数はいるのです。あなたが会った「困った人」は何人いますか?全部を「根絶やし」にしたければ、合格者は、50人くらいになるかもしれません。あなたはそれでも合格する自信がありますか?
もう一つ、「給費制」ですが、私が言っている趣旨からして、「続けるなら給費性」ということになるのが分かりませんか?人を1年間拘束して無給というのはとんでもない話でしょう。
最後に一点。「食えない弁護士の廃業」は前提としています。当然でしょう。「一度合格したら、食いっぱぐれがない」なんて職業が、この世にあるのはおかしくないですか?
最後の最後に、この種の批評は、実名でやるべきではないでしょうかね。仮にも、弁護士なら。
司法試験合格者の「学力」,「困った人」について
一点は、「学力」です。
「困った人」は、500人時代もいました。
どんな試験をやっても、一定数はいるのです。
このこと自体は,否定しません。そうであろうと思います。
あなたが会った「困った人」は何人いますか?
全部を「根絶やし」にしたければ、合格者は、50人くらいになるかもしれません。
「困った人」(学力の低い人の意でいいのか?)を「全部を「根絶やし」」にするべきとは思っていません。
メリットとコストのバランスで,考えるべきでしょう。
「困った人」の「全部を「根絶やし」」にすることを狙って,「合格者は、50人くらい」にして,これを数年,数十年と継続したら,人員不足で裁判所も検察も,もちろん弁護士も,その役目を果たせなくなってしまうでしょう。
そこまでのコストを覚悟しても見合うほど,「困った人」の「全部を「根絶やし」」にするメリットはないでしょう。
それでは,「困った人」が合格者の中に少数紛れ込むのはやむを得ないとして,だからといって,合格者が2000人でいいとか,3000人でいいということにはならないでしょう。
500人ですら,学力の低い人が紛れこむというのであれば,それより順位の低い者を合格させると,下位になればなるほど「学力の低い人が紛れこむ」リスクは高まるのが通常と考えられますので,なおさら増員には慎重になるべきともいえます。
合格者を500人から2000人に増やして,急に,旧試験時代であれば考えにくいような「困った人」が目につくようになれば,増員したために弁護士の中に「困った人」が増えるようになった,と推測するのは,不自然ではないかと思います。
なお,これは余談ですが,先般の「法曹養成制度検討会議・中間的取りまとめ」のパブコメが非公開に追い込まれた原因の1つには,以下の「困った新人弁護士」の具体例をパブコメに書かれてしまったことがあると想像しています。
結局のところ,法科大学院や,給費制の問題は,一般の国民から見れば直接には関係のない事柄ですが,このような「困った新人弁護士」については,国民にとっての直接的なリスクになりますし,国家財政ウンヌンという話より,仕事のできない弁護士の話は,一般の方も理解しやすいからです。
これを公表して,世の中にばれたらまずい,と,役人か誰かが思った,と思うのです。
【資料3】「法曹養成制度検討会議・中間的取りまとめ」に対して寄せられた意見の概要 [PDF]
p11
※ 法曹の質の低下を示すものとして,自ら雇い入れた弁護士が,実体法に関する基本的知識が欠けており,
相談者からの質問にまともに答えることができず,
いわれたことしかできないといった問題点を挙げたものなどがある。
http://www.moj.go.jp/content/000111516.pdf
参考
拙ブログ
死亡した方の親兄弟は、配偶者がいる場合には相続人とはなりません(?)
http://d.hatena.ne.jp/tadasukeneko/20130503/1367549307
あなたはそれでも合格する自信がありますか?
論者の能力や資質と,論の内容の是非は,直結しないと思います。
ネットでよく言われる「プロ野球選手でなければ,プロ野球選手のプレーをしてはいけないのか」と言われるやつです。
給費制について
もう一つ、「給費制」ですが、私が言っている趣旨からして、「続けるなら給費性」ということになるのが分かりませんか?
記事の原本が手元にもうないのですが,前回のエントリーで引用した2つの部分は連続していたと記憶しています(間に,別の文章があり,それを省略したということはない)。
原本通りにつなげると,以下になります。
↓
確かに,高額のロースクールの学費を払って司法試験に合格した後,1年間も無給(しかも,アルバイト禁止!)で修習を受けなければならないというのは酷な話である。
しかし,だからといって,「給費制を維持すべきだ」ということにはならない。
基本に立ち戻って,「司法修習は必要か」という問題を検討するべきである。
「「続けるなら給費性」ということになるのが分かりませんか?」というご質問でしたら,「分かりません(そうは読めません)」とお答えせざるを得ません。
念のためですが,給費制についての部分で,この文章の前後にも,特に論理の流れが変わる部分はなかったと記憶しています。
今回,本を出版されるということで,この文章から著者の真意が読み取りやすいか否か,ということがお知りになりたいのであれば,家族や職場の方に,この文章を読んでもらって,意見を聞いた方が早いのではないでしょうか。
弁護士の淘汰について
最後に一点。「食えない弁護士の廃業」は前提としています。当然でしょう。
「一度合格したら、食いっぱぐれがない」なんて職業が、この世にあるのはおかしくないですか?
念のためですが,弁護士を,「一度合格したら、食いっぱぐれがない」職業にするべき,とまで,考えていません。
一言であえてまとめると,現在の合格者数(弁護士数)は多すぎであり,適正な人数になるように,合格者を,現在よりは減らすべきと思います。
以下の資料の4ページ目に,弁護士数の推移が載っています。
法曹養成制度検討会議第10回(平成25年3月14日開催)
http://www.moj.go.jp/housei/shihouseido/housei10_00016.html【資料1】法曹人口に関する基礎的資料 [PDF]
直近の3年を見ると,以下のようになっています。
記事の書かれたH22は,28828人と30000人より少ないのですが,計算の便宜と分かりやすさのために,おおまかに,現在の弁護士数は30000人としましょう。
↓
H22 | H23 | H24 |
28828人 | 30518人 | 32134人 |
以下が,合格者3000人で,誰も淘汰されないとすると,概算ですが以下のようになります。
合格者 | 3000 |
年数 | 30 |
累計 | 90000 |
新規参入する新人弁護士が,90000人です。
引退する弁護士 | 500 |
年数 | 30 |
累計 | 15000 |
引退される弁護士が,500人時代のときの弁護士なので年500人,累計15000人です。
現在の弁護士数 | 30000 |
累計合格者数 | 90000 |
累計引退者数 | 15000 |
30年後の弁護士数 | 105000 |
現在の弁護士数30000 から,新規参入する新人弁護士90000 を加え,引退される弁護士15000 を引くと,30年後の弁護士数 は105000人となります。
元記事の中にある,30年後の「十万人を超える弁護士」というのは,このような,淘汰されない前提で計算したときの数字ではないか,と推測したのです。
すなわち,元記事の筆者は,「弁護士が廃業することを想定していない」ということです。
元記事
毎年3000人が弁護士になれば,30年すれば,十万人を超える弁護士が社会を埋め尽くす。100万人と言われるアメリカの弁護士と比べれば,「埋め尽くす」というほどではないにしても,「そこここに弁護士がいる」ということにはなるだろう。
ここには私の推測も入っていますので,仮に,違う数字を使って,または違う計算方法によるなどして,「食えない弁護士の廃業」は前提とした上で,30年後には「十万人を超える弁護士」がいると無理のない形で言いうる,というのであれば,単純な事実関係の誤解なので,前言は撤回させて頂きます。
あくまで念のためですが,「十万人を超える弁護士」という表現なので,概算しても十万人を悠々超えることを指していると思います。
計算したら,100001人になったとか,100100人になったから,十万人を超えたではないか,というでは,不自然だと思います。
匿名ではなく実名でやるべきか
最後の最後に、この種の批評は、実名でやるべきではないでしょうかね。仮にも、弁護士なら。
これについては,そうは思いません。
実名と比べて,匿名の発言には,メリットとデメリットがあると思います。
ネット上の匿名の発言には,一部無責任な発言もあり,一般的には信用されにくいというデメリットがあります。
ブログを始めるときに,色々考えた上でこの形にしておりますので,現時点ではこの形を変更するつもりはありません。