ネットで話題になっていました。
自民党の西田昌司と片山さつきが、国民主権と基本的人権を否定してしまいました
http://togetter.com/li/419069
自民党の資料にあたると,憲法改正推進本部 起草委員会と,片山さつき議員に,双方ともに違った誤解があるような気がします。
起草委員会の場合
Q13日本国憲法改正草案」では、国民の権利義務について、どのような方針で規定したのですか?
答
権利は、共同体の歴史、伝統、文化の中で徐々に生成されてきたものです。したがって、人権規定も、我が国の歴史、文化、伝統を踏まえたものであることも必要だと考えます。現行憲法の規定の中には、西欧の天賦人権説に基づいて規定されていると思われるものが散見されることから、こうした規定は改める必要があると考えました。
例えば、憲法 11 条の「基本的人権は、……現在及び将来の国民に与へられる」という規定は、「基本的人権は侵すことのできない永久の権利である」と改めました。
http://www.jimin.jp/policy/pamphlet/pdf/kenpou_qa.pdf
天賦人権説に基づいて規定されていると思われるものが『散見される』???
社会権など,後国家的権利など一部の人権には疑義もありますが,現行憲法の規定は、基本的には『すべて』天賦人権説に基づいているでしょう。
これを読むと,現行憲法の規定の『一部』が,天賦人権説に基づいている,と読めます。
そして,ここで具体例として挙げられている11条を見てみます。青字が変更部分です。
現行憲法
第十一条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
http://www.jimin.jp/policy/pamphlet/pdf/kenpou_qa.pdf
草案
第十一条 国民は、全ての基本的人権を享有する。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利である。
http://www.jimin.jp/policy/pamphlet/pdf/kenpou_qa.pdf
現行憲法が,
「基本的人権は、・・・(天から)国民に与へられる。」
と読めるのに対して,草案は,
「基本的人権は、・・・である。」
と,端的に基本的人権の性質を説明した文章になっています。
しかし,「この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利」との文言は変えていないので,人権の永久不可侵性を弱めているわけではありません。
つまり,実質的には変わりがありません。
また,説明文の中に,わざわざ「西欧の天賦人権説」という修飾語が付いています。
天賦人権説は,人は生まれながらにして人権を有するという説なので,人でさえあれば,西欧も東洋も関係ない考え方のはずです。
これらを総合すると,起草委員会は,天賦人権説の内容を理解しておらず,現行憲法を表現レベルで,
「人権は天から与へられる・・・って,欧米かっ!」と言いたかっただけではないのでしょうか。
片山議員の場合
一方,片山議員は,また別の思想のようです。
@katayama_s: @taiyonokokoro50国民が権利は天から付与される、義務は果たさなくていいと思ってしまうような天賦人権論をとるのは止めよう、というのが私たちの基本的考え方です。国があなたに何をしてくれるか、ではなくて国を維持するには自分に何ができるか、を皆が考えるような前文にしました!
2012-12-07 12:37:08 via Keitai Web to @taiyonokokoro50
こちらは,ある意味分かりやすい誤解です。
生活保護不正受給問題で物議をかもしたことも考慮すると,彼女は単純に,国民の義務も果たさないのに,受給権などの権利ばかり主張する人ばかりだと,財政がパンクしてしまう,という程度のことを言っているのではないでしょうか。
それ自体は,一般論としてはそうだろうと思います。
しかし,それを理由に,人権を制限しようとか,天賦人権論をとるのは止めようというのは,誤りというか,論理が飛躍しています。
財政の問題については,現行憲法でも納税の義務(憲法30条)があるのですから,国家は,何かと引き換えにしなくとも一方的に国民から徴収できます。
そうした金銭的な納付義務を怠る国民が多いとしても,それは行政や立法府が,政策を工夫して義務履行させる話であって,ここから人権制限に話が行くのは飛躍しすぎです。
そして,これはまさに国会議員の仕事です。
他方,国民がうまれながらにして有する人権を否定することがゆるされないのは,言うまでもないことです。
これら,人権と義務をバーターで考えるのが間違いであり,人権の保障と,国民の義務履行の確保をそれぞれ別に考えれば済むことです。