タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

「17弁護士会が声明「司法試験合格者のさらなる減員を」「1500人でも供給過剰」」(弁護士ドットコム)

年末に,弁護士会が声明を出していたそうです。

17弁護士会が声明「司法試験合格者のさらなる減員を」「1500人でも供給過剰」 - 弁護士ドットコム
https://www.bengo4.com/internet/n_5532/

日本弁護士連合会は「司法試験合格者数を早期に年間1500人とする」という方針を掲げているが、今回の声明では、1500人でも供給過剰だとして、来年度以降の司法試験合格者はさらに大幅に減員することを政府に求めている。

提出後の会見で、千葉県弁護士会の山村清治会長は、司法修習を終えて法曹として登録する12月の「一括登録」の時点で、就業先が決まっていない者が400人を超える状況が数年にわたり続いていることに触れて、「過剰供給の弊害が顕在化している」と述べた。

弁護士は過剰供給となっているのか。
裁判数,弁護士数の推移のデータを探していたら,日弁連の弁護士白書のデータが見つかりました。

日本弁護士連合会│Japan Federation of Bar Associations:基礎的な統計情報(弁護士白書2016年版等から抜粋)
http://www.nichibenren.or.jp/jfba_info/statistics/reform/fundamental_statistics.html

多くのデータがありますが,まず基本的な弁護士数の推移を見ると,以下のデータがあります。

弁護士数の推移/男女別年齢構成/男女別弁護士数の推移 (PDFファイル;1.4MB)
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/jfba_info/statistics/data/white_paper/2016/1-1-1_tokei_2016.pdf

法科大学院が開校した2004年に,それまでも増加し続けていた弁護士数は20224人とはじめて2万人台に乗ります。
そして,それ以降は激増のペースを増し,2016年には37680人となり,2004年の20224人と比べても86%も増加しています。

これに対して,「需要」にあたる弁護士数は以下のデータがありました。

民事訴訟事件数の推移 (PDFファイル;1.5MB)
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/jfba_info/statistics/data/white_paper/2016/3-1_1_tokei_2016.pdf

民事第一審通常訴訟事件の新受件数の推移 (PDFファイル;1.4MB)
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/jfba_info/statistics/data/white_paper/2016/3-1_2_tokei_2016.pdf

いくつかの切り口がありますが,一時期の過払いバブルの時期を除けば,事件数は,増えるどころか微減していると言えます。


弁護士数の話に戻って,弁護士人口の将来予測(シミュレーション) のデータがありました。
新規法曹を1500人に維持し続けた場合の数字です。

弁護士人口の将来予測(シミュレーション) (PDFファイル;1.3MB)
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/jfba_info/statistics/data/white_paper/2016/1-3-7_tokei_2016.pdf

弁護士人口 弁護士1人あたりの国民数
2016 37651 3491
2017 38658 3253
2018 38545 3167
2023 44397 2751
2028 49252 2402
2033 54016 2110
2038 58639 1863
2043 61781 1687
2048 63715 1556
2053 60486 1554
2061 57265 1496

2016年には,弁護士人口は37651人「弁護士1人あたりの国民数」は3352人です。
弁護士人口は,2048年に63715人とピークに達しますが,この頃から現行司法試験時代の弁護士も引退(想定)し始めるので,減少に向かいます。

もっとも,人口も減少し続けているので,「弁護士1人あたりの国民数」はさらに減少を続け,最終的には1500人を切って1496人となっています。

2018年に弁護士になった者が,仮に40年働くと想定すると,2058年まで働き続けることになります。
それまでに,「弁護士1人あたりの国民数」は半減以下となりますので,単純に考えると,収入が半減する,または案件の受任のための広告費が倍増する,などといったことが予想されます。
(もちろん,実際には一律に弁護士が窮乏化するわけではなく,その経営能力によって,いわゆる「勝ち組」と「負け組」にわかれることでしょう)

法科大学院における志願者・入学者の状況 (PDFファイル;1.3MB)
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/jfba_info/statistics/data/white_paper/2016/1-3-1_tokei_2016.pdf

法科大学院の志願者などのデータです。

周知のように,志願者は激減を続けています。
このグラフを一目見ても,法科大学院制度は失敗だとわかるでしょう。

司法試験の合格状況
http://www.moj.go.jp/content/000102262.pdf

今回検索していてたまたま見つけた法務省の資料です。

この5ページを見ると,旧司法試験は平成16年に最大で1483人の合格者を出しています。
今後,合格者が1500人を切るようであれば,法曹志願者を激減させて法曹の質を低下させている法科大学院はなくていいのではないか,旧司法試験であればコストが低く優秀な人材を集められるのではないか,という話にも当然なってくるでしょう。

まとめ

弁護士の需要は増えていないのに対して,仮に合格者1500人を維持するのであれば,弁護士数は今後数十年にわたり激増を続けますので,弁護士の供給過多となり,その経済的価値は低下することが予想できます。

ところで,司法制度改革の失敗は,太平洋戦争における日本にたとえられることがあります。
客観的には失敗が明らかであるにも関わらず,軍部の誤った判断により戦争を続行し,国民に多大な被害を生じさせたことなどが似ているのでしょう。

この太平洋戦争ですが,戦争開始当時,日本にも本気でアメリカに勝てると考えている者は,ほとんどいなかったそうです。
日米には圧倒的な国力差があり,そもそもアメリカから石油を輸入していたりしたそうです。
(そのために,東南アジアを侵略して石油を確保したいという思惑が日本にはあったり,アメリカも日本の暴発を懸念して,開戦前は,日本への石油の輸出をあまり制限しすぎないようにしたなど,いろいろな話もあるようですが)

日本としては,局地的な戦闘で派手な勝利をして,有利な講和に持ち込みたいという,可能性としてはあまり高くはない希望的な観測があったそうです。

法科大学院による弁護士激増政策について考えてみると,弁護士という供給を増やそうという政策ですから,需要がある,さらに今後増え続けるということが必須の条件となります。

「圧倒的な国力差があるから勝てない戦争」と同じように,「需要が増えないから失敗する弁護士激増政策」も,誰にでもわかる当然の結末に思えます。

大本営発表や特攻など様々なことをしましたが,国力というベースを決定的に欠いたために敗戦した太平洋戦争と同じように,弁護士の需要というベースを基本的に欠いていれば,合格率の低いロースクールを潰したりなど弥縫策を施しても,弁護士激増政策は失敗することが明らかなように思えます。