タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

「若くて優秀な法曹ってウソでしょう−予備試験を再考する」を再考する(久保利英明弁護士The Lawyers2012年11月号)

全体の印象としては,ピントがずれている感じがしました。
筆者が,ロースクール推進派と事前に知っていなければ,何を言っているのかよく分からなかったと思います。

予備試験経由の初の司法試験合格者が出たのを機に,「いっちょ反論記事を書いてやるか!」というノリで書いたけれども,有効な反論ができなかった,といったところでしょうか。

20代前半の若者はお金持ち?

最終合格者の過半数を占める30名が合格した20歳から24歳までの学生についてみると,経済的事情から法科大学院に進学できない者とは言えない。

20代前半の若者であれば,一般的にはお金がないと言えると思いますが,
「経済的事情から法科大学院に進学できない者とは言えない。」
とは,何を根拠にしていっているのでしょうか?

若いから経済的に進学できないとは言えない???とは,どういうことなのでしょうか。
初めは,「奨学金を取って進学しろ。つまり学費は将来稼いだ金で払え」と言っているのかと思いました。

しかし,その直後に,

経済的環境に恵まれ大学一年生から予備校などで受験指導を受けてきた若年層の「高速道路」あるいは「抜け道」として機能しているとの疑いが濃厚である。

と言っています。

ということは,「予備校に通えている」ということが,「若者にお金がある」ことの根拠なのでしょうか。

そうだとしたら,そのお金の出所を考えましょうよ。親じゃないのでしょうか。
最近の高い大学進学率を見ると,もやは大学は普通に行くところなので,ここまでは親がかりでもいいかもしれません。
けれど,大学に加えてさらに,予備校のお金まで親に出させるのは,通常とは思えません。年齢的には,いい大人ですし。
親に理解があるのか,後で返す(借金)のか分かりませんが,親が金を出しているのを「若者にお金がある」とは言わないと思います。

また,解釈以前にそもそも事実の問題で,「若年の予備試験合格者は,金をつぎ込んで予備校にガンガン行っている」ということがあるのでしょうか?
筆者は,「若年の予備試験合格者」に聞き取り調査をしたのでしょうか?

普通に考えると,(今後はともかく)現在の低い予備試験合格率では,金があればむしろロースクールへ行くので,予備試験を受ける人は本当にお金がない人が多いと思います。

参考までに,ネット上の情報を見ると以下のものがありました。
一例なので全員がこうとは思いませんが,こういう人も多いでしょう。

朝日新聞デジタル
 「在学中に予備試験に合格するのが目標。来年も挑戦したい」。今年は不合格だった新潟大学法学部2年の男子学生(20)はそう話す。勉強は1年生から始めた。親の定年が迫り、高い学費がかかる法科大学院は避けたいと考えたからだ。
http://digital.asahi.com/articles/TKY201211080869.html?ref=comkiji_txt_end_s_kjid_TKY201211080869

個人攻撃というゴシップ

2.若くて優秀幻想
3.「若い」ことが素晴らしいのは「吸収力」と「体力」と「蛮勇」のあることである。
4.「若いから優秀ではない」のである。

これは,この記事の小見出しの一部です。

この記事でひどくおかしいのは,「若年の予備試験経由の合格者」という「人」を攻撃している点です。
「予備試験合格者に若い人が多い。これは問題だ」というのであれば,「制度」を改正するべきでしょう。
そして,将来の改正予備試験において,合格者の年齢分布が望ましい状態になることを目指すべきでしょう。
現行法にのっとり,ロースクールと予備試験のメリットとリスクを考えて予備試験を選択し,見事狭き門を通過した合格者を攻撃するのは,根本的におかしいと思います。

筆者の論調からすると,「法科大学院が本道なのに,予備試験という「抜け道」に行くのはケシカラン。」ということらしいですが,筆者独自の倫理や道徳観を押しつけられても困ります。
現行法に予備試験というルートがあり,適正に受験して優れた成績のために合格したのですから,予備試験合格者からしたら,「お前のその態度が気に入らん」と難癖をつけられても困るでしょう。

酒井典子は,高岡蒼甫は,はるかぜちゃんは,ジャイアンツは,俺の基準からすれば気に食わん,というレベルであれば,ゴシップネタではあっても,真面目な記事になるレベルではありません。

良くてイーブン

次におかしい点は,仮に筆者の主張がすべて成功したとしても,あまりロースクールの擁護になっていない点です。

つまり,「若年の予備試験合格者」の「若さ」という一見メリットと思える資質を弾劾し,価値を減殺しても,良くて「若年ではないロースクール経由の司法試験合格者」と,対等になるにすぎません。
批判記事ということであれば,「それに比べてロースクールでは○○というような素晴らしい教育をしているので,ロースクール経由の司法試験合格者は素晴らしい」ということまで言わないと,正直,何が言いたいのか分かりません。

この記事中に,唯一

若い学生諸君が本気で優れた法曹になろうとするのであれば,急がば回れで,優れた法科大学院で真面目に理論と実務の架橋を学ぶにしくはない。

と,ロースクールのメリットの記載がありますが,例の定型文言であり抽象的で内容がよく分かりません。

論理矛盾?

「蛮勇」に至っては法曹としてむしろマイナスとすることすらあろう。法曹としての勇気や担力はただの蛮勇では済まないのである。第一,若くても勇気も胆力もない者はいくらでもいる。早く弁護士の資格を取って四大,五大事務所に入りたいなどと浮かれているようでは,蛮勇のかけらさえもあるまい。

結局,若者には「蛮勇」がないということでしょうか?
「蛮勇」というマイナスがないのなら,暴走しないということですから良いことですね。

「四大,五大事務所に入りたいなどと浮かれている」若い合格者について,筆者が気に食わないということだけは,良く分かりましたが・・・

若い若いって15歳くらいのこと?

法律家というのは法律や裁判のリスクをわきまえた大人の仕事であり,こどもが真剣を振り回すように法律論を振りかざすのは正義の実現でも,法の支配の貫徹でもない。

(予備試験経由の)若年合格者のことを「こども」とまでおっしゃっていますが,ここまで年齢の低いことをこきおろすと,逆に違和感があります。
15歳くらいの子供であれば,仮に司法試験に受かったとしても,類型的に「ちょっとまずいんじゃないか」と思えるかもしれません。
しかし,ここで対象とされている人は,若いといっても20歳〜24歳なのですから,選挙権もあれば,結婚していても不思議はないような年齢ですし,そこまで貶めるのは違和感があります。

最大のツッコミどころ

この記事中の最大のツッコミどころは,

本旨をとりちがえて予備試験を経由して,司法試験に受かってしまった若い学生諸君が,もしこの論稿を読んでいたとすれば,是非,研修所への入所を1年延ばしても,アジア,アフリカ,中東諸国を一人で旅することをお勧めする

ここにあります。

筆者が薦めるのは,ロースクール進学ではなくて一人旅なんですね!!!!!

一人旅>>>>>>>>>>(超えられない壁)>>>>>>>>>>ロースクール進学

ということでしょうか。

(予備試験経由の)若年合格者は,ロースクールで学んでいないので欠けているものがある,というのが,推進派たる筆者の主張だと思いますが,そうであればここで薦めるべきは,ロースクールではないのでしょうか。
ロースクールは,受験資格取得のためだけのものではなくて,その教育内容に価値があるのですよね。
そうであれば,受験資格取得後だって,司法試験合格後だって,いいじゃないですか。
ロースクールに行ったことがない人は,行けば「欠けているもの」を補填することができますよ。

おそらく「司法試験に受かった人に,ロースクールで既習の2年を費やして,さらに100万以上の学費を払えというのは,さすがに非常識だろう」と,筆者は考えたのではないかと思います。
しかし,合格率25%という状況で,受かるかどうかも分からない人に,これらの非常識な負担を強制しているのがロースクールであり,その推進者が筆者なんですけどね。

それとも,一人旅を推奨したのは,ロースクール進学では得難い経験ができるからである,ということなのでしょうか。
そうだとしたら,ロースクールへ行っただけで実社会での経験が不足する若い弁護士は,能力に不安がありますね。

こんな,大学を出てすぐにロースクールへ行って,すぐに合格したような若い弁護士は,経験が不足しており能力に不安があるから大人の仕事を任せられませんし,間違っても筆者の事務所で雇うようなことはないですね。

日比谷パーク法律事務所
久保利 英明 (代表)

小川 尚史 (アソシエイト)
2002/平成14年3月 私立麻布高等学校卒業
2006/平成18年3月 東京大学法学部卒業
2008/平成20年3月 東京大学法科大学院修了
2008/平成20年9月 司法試験合格
2009/平成21年12月 弁護士登録(第二東京弁護士会)
http://www.hibiyapark.net/profiles/ogawa.html

小川 直樹 (アソシエイト)
2003/平成15年3月 私立開成高等学校卒業
2007/平成19年3月 東京大学法学部卒業
2009/平成21年3月 東京大学法科大学院修了
2009/平成21年9月 司法試験合格
2010/平成22年12月 弁護士登録(第二東京弁護士会
http://www.hibiyapark.net/profiles/ogawa_n.html

井上 拓 (アソシエイト)
2003/平成15年3月 私立灘高等学校卒業
2007/平成19年3月 東京大学工学部卒業
2009/平成21年3月 東京大学大学院情報学環コンテンツ創造科学産学連携教育プログラム修了(副専攻)
2010/平成22年3月 東京大学法科大学院修了(未修コース)
2010/平成22年9月 司法試験合格
2011/平成23年12月 弁護士登録(第二東京弁護士会
http://www.hibiyapark.net/profiles/inoue.html

弁護士一覧
http://www.hibiyapark.net/profiles.html

って言うか,若い弁護士が大好きじゃないですか・・・
筆者が,あえて社会人経験のある弁護士を採用しておられれば,少しはこの記事の説得力もあるのですが・・・