タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

無制限のロースクール設立を推奨していた佐藤幸治氏

佐藤幸治先生が,ロースクールの乱立について「ワシは悪くない」とおっしゃっていたそうです。

そこで,佐藤幸治先生が共著で書かれた「司法制度改革」を検証のため再読してみました。

司法制度改革

司法制度改革

p220
編集部
具体的には,そのような法科大学院にふさわしい教育が行われることを確保するために,一定の基準が定められるということになるのでしょうか。

井上
(略)
しかし,法科大学院は,そのような教育機関としての外形的な基準を充たしていればよいというだけのものではありません。
新しい法曹養成制度の中核として,そこを修了することが新司法試験受験の前提となるわけですので,その目的に適った内容・質の教育が行われることや,学生の成績管理や修了認定が厳格に行われること,意見書で求められているような入学者選抜が行われることなど,その制度趣旨にふさわしい質が確保されていなければなりません。
ところが,設置基準で,それらの実質にまでわたって詳しく規定することは難しいですし,また,それらの点の多くは,むしろ実際に立ち上がり,動き出してから,チェックする必要があります。
それは,性質上,教育機関としての法科大学院の教育や運営についての第三者評価の問題に属するものといえます。

ここは井上先生の発言部分ですが,ロースクールの質は,設置のときにチェックするのは難しいので,設立してから事後的に第三者評価でチェックするべきだ,とのことです。

p222
編集部
設置基準のほうは,例えば建物の広さや教員の数などを決めることになるのですね。

佐藤
これは先ほど井上さんが言及されたことですが,設置基準は不当な参入規制にならないようできるだけ必要最小限の外形的なものにとどめ,具体的なカリキュラムや教育方法の内容,成績評価・修了認定のあり方等々,つまり法科大学院の質の保証面については,第三者評価(適格認定)のほうに委ねようというのが,基本的なスタンスです。

先の井上発言を受けての佐藤先生の発言です。
設置基準は必要最小限,すなわち設立時のハードルは下げて,質のチェックは第三者評価でやるとのことです。

p223
編集部
法科大学院の数を幾つにするかというようなことは,お考えになっているのですか。

佐藤
いえ,そういうことはありません。設置基準を満たせば自由に参入していただけるシステムを考えています。法科大学院の数を幾つにすべきかといったことは決して考えていないことは,誤解無きよう,はっきりと申し上げておきます。

井上
法科大学院の趣旨にふさわしい内容と質の教育が行われることを確保するために最低限の基準は決めますが,それさえ満たせば自由に設立できるということです

その上で,個々の法科大学院の創意と工夫によって,いろんな特色を出してもらいたい。うちはここに重点を置いて教育するんだ,他と違うこういう方法を取るんだ,といった形で,互いに競い合うことによって,全体としてレベルアップをしていってもらいたい,というのが基本的な発想ですから,法科大学院の趣旨をより良く実現しようとするものである限り,むしろ,自由に設立していただくことが望ましいと言えるでしょう

ロースクールの数をいくつにするか,という編集者の問いに対して,低いハードルである設置基準さえクリアすれば,無制限なので自由に参入してください,と強調しておられます。

井上先生も同意見で,自由な設立を推奨しています。

70校以上もロースクールが乱立したのは,大学に対する,このようなロースクール設立の推奨があったからこそなのでしょう。

ある種の権力を行使して現在のロースクール制度を作り,重大な結果を発生させているわけですから,腹を切ってお詫びをすべきでしょうせめて過去の過ちをごまかさずに受け止めて,真摯に反省すべきでしょう。

佐藤先生の著書「司法制度改革」を検討した弊ブログのエントリー

「法曹人口がどれくらいであるのが適切かは,本来,社会の需要やマーケットとの関係で決まる」,井上正仁,2002年 - タダスケの日記
http://d.hatena.ne.jp/tadasukeneko/20130608/1370652323

ロースクールが無用の機関と化した経緯,「司法制度改革,佐藤幸治,竹下守夫,井上正仁」 - タダスケの日記
http://d.hatena.ne.jp/tadasukeneko/20130609/1370744493