タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

法曹養成制度検討会議第4回議事録,井上委員2012/11/29

議事録が公開されていました。

法曹養成制度検討会議 第4回会議 議事録
http://www.moj.go.jp/content/000104976.pdf

井上委員が頑張っている印象がありました。

地方の定員の少ないロースクールを潰して,都会の大規模校は残す,と頑張っておられます。

○井上委員,P23

統廃合と定員削減の問題ですけれども,統廃合につきましては,文部科学省の資料にありますように,特に苦戦しているというか,成績が伸びないところの学生数というのは,全部合わせても実数ではそれほど大きな数ではなく,統廃合したからといって全体的な学生数を大きく減らすというものではありませんけれども,法科大学院全体に対する信頼を損ねている面があることは確かなので,統廃合というものを進めて,全体としての信頼を回復,あるいは確保するよう図らざるを得ないという点では皆様と意見は一致しています。

何気なく,ひどいことを言っていませんか?

学生の多様性確保のために,適正配置などいろいろやっているわけでして,単に「成績」が良いことをもってその学校が,または学生が「善し」とされるのであれば,端的に一発試験にして成績の良い順に合格させればいいでしょう。

○井上委員,P24

大規模校の多くは,さっきの資料に見るとおり,善戦している。かなり良質の教育を提供しているのに,全体としての学生定員を減らす,特に大規模校の定員を減らせば中小規模あるいは地方の法科大学院にその分,学生が流れるだろうという想定で,そのような提案をなさっておられると思うのですが,そのために良質の教育をし,実績もあげているにもかかわらず減らしなさいと言えるだけの正当な理由が果たしてあるのか,私は甚だ疑問だと思います。

そもそも論ですが,ロースクールごとの司法試験合格率は,学生の質に大きく左右されていると思います。
東大の学生と,地方ローの学生を,そっくりそのまま入れ替えたとしたら,教員や教育方法が同じでも,司法試験合格率は反転すると思いますよ。
「司法試験合格率が良い」から,「そのロースクールの教育の質が高い」とは言えないかと。
話しの前提が違ってくるので,よく考えて欲しいと思います。

ちなみに,適性試験では,論理的に適切な推論ができるかを問う問題が出ます。

「Xロースクールの学生の司法試験合格率が良い」ので「Xロースクールの教育の質が高い」と端的に結論付けられるのか,他に考えられる要因はないのか,ということです。

参考

法曹養成制度検討会議第5回(平成24年12月18日開催)

【資料1】事務局提出資料,P11

法科大学院全国統一適性試験」の問題例

問題例①(2011 年 5 月 29 日実施 第 1 回)
1〜5のうち,論理的に適切な推論をしているものを1つ選びなさい。

1.Xの運動靴には赤土がついていた。学校の裏山には赤土の露出した場所がある。Xは
両親から早く帰って勉強しなさいと言われていたのに,裏山で遊んでいたに違いない。

2.Y大学の就職課に相談に来た学生で順調に就職先が決まった者を対象としたアンケー
ト調査では,全員が3年生の夏から準備を始めていた。秋学期も終わりの時期から準備
するような学生は完全に出遅れており,順調には決まらないだろう。

3.君は高校生のときに留学したそうだね。高校生のときに留学したことのある大学生は,
そうではない大学生の4倍も高い率で成績優良者として表彰されることが本学の調査で
判明した。君も成績優良者になる可能性の高い部類に入るわけだ。

4.シミとソバカスはどちらも皮膚組織内に沈着した色素斑であるが,左右対称でないも
のはソバカスである。あなたの色素斑は左右対称なので,シミだろう。

5.明治時代の算数の教科書には国債や株式を題材にした問題が数多く掲載され,国民の
金融知力を高める一助となっていた。昭和中期以降は自然科学系の題材ばかりになった
ので,以降,国民の金融知力は低下したに違いない。

正解:3

http://www.moj.go.jp/content/000105143.pdf


「良質の教育をし,実績もあげているにもかかわらず(定員を)減らしなさいと言えるだけの正当な理由が果たしてあるのか」

この理屈で言うと,良質の自己教育を施すことができ,実績も上げている集団に,さらなる要件を荷重したり,合格者を制限したりする正当な理由もありませんね。
すなわち,予備試験志望者集団のことです。

この理屈でもって,予備試験の合格者を,その司法試験合格率がロースクール卒業生のそれに近づくまで増やしていくと,蟻の一穴で堤が決壊するように,法科大学院制度は崩壊するでしょうね。

つまり,優秀な人材はどんどん予備試験に流れ,優秀でない人材がロースクールに行く結果,ロースクール全体の学生の質が下がり,ロースクール卒業生の司法試験合格率が現状よりもさらに低下するので,ますます予備試験合格者を増やさなくてはならなくなる,ということになります。

そして,予備試験が受かりやすいということになれば,優秀な人材はさらに予備試験に流れます。
こうして,ロースクールの学生の質と,予備試験志望者の質の差は,加速度的に広がります。

・・・というようになったら,面白いですね。

そうなったらなったで,井上委員あたりが急に「予備試験組とロー生とでは,人材の質が違う,成績比例以上にローに配慮を示してくれ」とか言い出したら,別の意味で(その我田引水ぶりが)また面白いかもしれませんが。

危機感のない学生

○田島委員,P25

それから,学生さんたちにいろいろ御意見も聞いたんです。
事務局でセットしていただいたところに行って,6人の学生さんたちに聞いたんです。
「この学校は6人のうちの1人しか合格しないんですよ。あなたたちの中で,5人は落ちる,法曹界に入れないんだと思うんだけど,それについてどうですか」と聞いたら,みんなきょとんとしていました。

自分たちの学んでいる学校は合格率が低いわけですから,自分が法曹界に入れないかもしれないという危機感が学生にもないのです。
これには非常に驚きました。

話しは飛びますが,面白い箇所がありました。
この「6人の学生さん」に限られる話なのか,ある程度一般化できる話なのか,分かりませんが。

想像すると,ロースクールは,腐っても国家資格を与える者を育成する機関として存在していますので,学生の中には,「ロースクールの先生の言う通りに授業に出て課題をこなせば合格できる」と信じている者も,一定数いるのではないかと思います。

司法試験合格率など,情報は開示されているわけですから,こうした学生はリスク管理が甘い,と指摘することも可能ですが,目の玉が飛び出るほどの経済的負担と,また多くの時間的負担を課しておきながら,「国の言うことを丸ごと信じてはいけない」というのも,おかしな話ではないかと思います。
少なくとも,いびつな制度設計をした側の人間が,謝罪の言葉の一つもなしに,学生の自己責任論を言うとしたら,道義的に問題なのではないかと思います。

また,学生はともかく,事実上スポンサーになっているケースが多いと思われる親御さんたちは,関係者ではあるが当事者ではないこと,またネットでの情報収集能力に劣るなどの理由で,若い学生たち以上に,「弁護士」というものの社会的地位,また弁護士を養成するロースクールを信じている可能性が高いです。

後に,学生やその親御さんが(一定の落ち度があるにしても)「だまされた」とならないように,入学前に,三振リスクなどの情報開示を十分にして頂きたいと思います。