タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

中間的取りまとめ(案),法曹養成制度検討会議第11回(平成25年3月27日開催)

公表されています。

中間的取りまとめ(案)
http://www.moj.go.jp/content/000109442.pdf

法曹養成制度検討会議第11回(平成25年3月27日開催)
http://www.moj.go.jp/housei/shihouseido/housei10_00024.html

はじめ見たときは,あまりにロースクール推進派の主張そのものなので,イスから滑り落ちそうになりました。
これで本当に,問題を「検討」したと言えるのかと思いました。
こんなことなら,わざわざ人件費をかけて「検討会議」など開く必要はなく,推進派の誰かが,自分のオフィスでこうした「取りまとめ」を作れば足りるのではないかと思います。

(もっとも,よく見ると,ごく一部ですが和田委員の意見も取り入れられているところがゼロではありませんでしたが)

第2 今後の法曹人口の在り方
(検討結果)
・ 司法制度改革後の日本社会を取り巻く環境は変化を続けており,より多様化,複雑化する中,
法曹に対する需要は今後も増加していくことが予想され,
このような社会の要請に応えるべく,質・量ともに豊かな法曹を養成するとの理念の下,
全体としての法曹人口を引き続き増加させる必要があることに変わりはない。

抽象的すぎて,何を言っているのか意味が分かりません。

司法制度改革後の日本社会を取り巻く環境は変化を続けており,

社会が変化しているのは,2000年代,1990年代,またそれ以前から,ずっとそうだったでしょう。
逆に,社会の変化が乏しかったのは,鎖国していた江戸時代まで遡るのではないでしょうか。
そんな自明のことを,わざわざ指摘する意味がありません。

(社会環境が)より多様化,複雑化する

これも自明のことでしょう。
今後の社会特有の特徴とすれば,少子高齢化が進み,消費活動が低下する,ということはあるかもしれませんが。

法曹に対する需要は今後も増加していくことが予想され

日本語特有の受け身の表現ですが,この「予想」した主体は誰なのでしょうか?
さらっと書いていますが,本当に「法曹に対する需要は今後も増加していく」のでしょうか?

全体としての法曹人口を引き続き増加させる必要があることに変わりはない。

ここも何気なく,法曹増員の必要性を強調していますが,それは本当でしょうか。
法曹増員の必要性はない,ということはないのでしょうか。

確かに,合格者1000人論者も,500人まで減らすというのでなければ「緩やかな増員論」なので,増員の必要性を否定しているわけではありませんが,ここでの指摘の仕方はそれに留まらないような気がします。

・ その上で,将来,司法試験の年間合格者数を3,000人程度とすべきことについて再び現実性が出てくることがあり得ることは否定しないものの
いずれにせよ,今後の法曹人口の在り方については,法曹有資格者の活動領域の拡大状況,法曹に対する需要,司法アクセスの進展状況,法曹養成制度の整備状況等を勘案しながら,その都度検討を行う必要があるものと考えられる。

余計なことは書かないでよろしい,というか,明らかに推進派寄りの記述ですよね。
それにしても,現時点で合格者が2000人であぶれているのに,さらに1000人アップの3000人の「現実性が出てくることがあり得る」のでしょうか,非常に疑問です。
過払いバブルクラスのビッグウェーブが50年くらい続かない限り,そうしたことはないと思いますが。

かつて肌感覚で適当に合格者3000人と言ったことが撤回に追い込まれたのに,まだ根拠もなく適当な数字を言うことはやめられないのですね。

第3 法曹養成制度の在り方
1 法曹養成制度の理念と現状
(1) プロセスとしての法曹養成

「プロセス」としての法曹養成の考え方を放棄し,司法試験の受験資格制限を撤廃すれば,法科大学院教育の成果が活かされず,・・・
「プロセス」としての法曹養成の理念を堅持した上で,制度をより実効的に機能させるため,・・・

法曹養成に特化した教育を行うプロフェッショナル・スクールである法科大学院を設け,法学教育,司法試験,司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての法曹養成を目指して導入されたものである。
このような「プロセス」としての法曹養成の考え方を前提に,司法試験の受験資格は,原則として法科大学院修了者について認められている。
これに対し,「プロセス」としての法曹養成の考え方について,法科大学院を中核とする制度の枠組み自体を批判する立場からは,・・・
そこで,「プロセス」としての法曹養成の在り方について検討する必要がある。

このような「プロセス」としての法曹養成の考え方を放棄すれば,法曹養成課程の中核である法科大学院教育の成果と意義が十分に活かされないだけでなく,・・・
「プロセス」としての法曹養成の理念を堅持した上で,制度をより実効的に機能させるため,・・・

ちょっと面白かったのは,わずか1ページ強の箇条書きのまとめの文章の中で,8回も『「プロセス」として』という言葉が使われていることです。

これまで存在した,就職後のOJTという最も実務に近い法曹養成「プロセス」を破壊しておきながら,よく言うな,という感想を持ちます。

まあ,実態の裏付けない,理念としての「プロセス」を強調しなければ,およそロースクールの正当性を主張できない,というのも分かりますが。

司法試験の結果においても,法科大学院修了直後の受験者の合格率が最も高く,修了後年数が経過するにつれて合格率が低下する傾向が定着し,法科大学院の教育と司法試験との連携が相当程度図られているといえ,これらの点により,法科大学院教育は,相応の成果を上げているといえる。

素朴な疑問ですが,「法科大学院修了直後の受験者」の方が,「修了後年数が経過」した者より成績が良いことが指摘されていますが,ロー修了者は,卒業後,自学自習によって実力を高めることができないのでしょうか?

修了後,1年またはそれ以上のかなり期間にわたり,相当の勉強をしていると思われるのにも関わらず,修了直後の者に,簡単に負けてしまうのでしょうか?

それは,どうにも不自然です。

以前の会議の資料において,和田委員に指摘されていたようなメカニズムがあるのではないでしょうか。

法曹養成制度検討会議第9回(平成25年2月22日開催)
【資料9】和田委員提出意見及び資料
法科大学院修了後の学力向上と司法試験の合格率の低下についての意見
http://www.moj.go.jp/content/000107826.pdf

この意見が正しいとすれば,修了者たちの合格率は,法科大学院教育の成果を証明しないことになります。

仮にこの意見が正しいものではないとしても,そうであれば,ロースクールは,修了後に自学自習では実力を高められない人材を輩出していることになりますが,それはそれでいかがなものかと個人的には思います。

ローで学んだことがわずか数年でスルスルと抜け落ちてしまっていて,長期間,長時間の自学自習にも関わらず,実力が時間が経つにつれて下がっていくことになってしまいます。

そんな「自学自習では実力を高められない人材」が即独して,ほとんどすべてを自己の裁量で事件処理をするようになったら,弁護過誤事故を起こす可能性が高いと思うのですが。

(2) 法曹志願者の減少,法曹の多様性の確保
○ 法曹志願者の減少は,司法試験の合格状況における法科大学院間のばらつきが大きく,全体としての司法試験合格率は高くなっておらず
また,司法修習終了後の就職状況が厳しい一方で,
法科大学院において一定の時間的・経済的負担を要することから,
法曹を志願して法科大学院に入学することにリスクがあるととらえられていることが原因である。

法曹志願者の減少の原因について,司法試験合格率の低迷だけでなく,就職難,ロースクールの時間的・経済的負担を挙げている点は,推進派の意見だけでなく反対派の意見も取り入れられいる点だと思いました。

これまでは議事録を読む限り,和田委員が「弁護士インフレ論」を唱えても,ロー推進派からは反論すらなく,無視されている状況に思えましたので。

しかし,この問題の解決策となると,(司法試験の合格率の上昇以外の点については)結論としては一切「何もしない」というように消極に傾きます。

具体的には,司法試験制度の在り方について検証するとともに,司法試験の合格状況に鑑み,
法曹としての質の維持に留意しつつ,司法試験の合格率の上昇に資するような観点から,
個々の論点における具体的な方策を講ずる必要がある
(なお,司法修習終了者の就職状況については,前記第1及び第2で検討したとおりであり,
法曹養成課程における経済的支援については,後記(3)で検討する。)。

「前記第1及び第2で検討した」とは,企業に,地方自治体に潜在的な需要がある(第1 法曹有資格者の活動領域の在り方),そして増員路線は堅持しよう(第2 今後の法曹人口の在り方)という話,「後記(3)」とは,奨学金がある,貸与制により有利な借金ができる((3) 法曹養成課程における経済的支援)という話です。

つまり,現状の施策で十分であり,新たに何かをする必要はない,する気はない,ということのようです。

しかし,現状の制度で十分であれば,この「法曹養成制度検討会議」では,一体,何の問題を「検討」していたのでしょうか。
一見,問題に見えるが,実質的に検討してみたら,それは「問題」ではなかったことが分かった,ということなのでしょうか。

法曹志願者の8割の減少が,数字のマジックであり実体を見れば実は問題はない,とは,到底思えないのですが。

「階段を登っていたと思ったらいつのまにか降りていた」という謎の話はありますが,「問題を検討していたと思ったら,いつのまにか問題はないものとして処理されていた」というのも,相当なミステリーです。