タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

1.5回試験のある惑星

宇宙飛行士だったテイラーは、社会の隅々まで「法の光」で照らすという司法制度改革の理念に賛同し、社会人としてロースクールに入学した。

カルト宗教に過敏な昨今の情勢から、「カルト宗教にでもはまったのではないか」と心配する友人たちや、「今のお仕事をやめないで」と泣いて訴える娘を振り切ってロースクールに入学し、苦労しながらも、司法試験に最終合格することができた。

宇宙飛行士に復職した彼は、イカルス号に乗り、6か月間の宇宙飛行を終え地球への帰還を目指していた。

ハスライン博士の時間理論によると、地球時間で法科大学院制度の集中改革が終了した頃の地球に帰る予定だった。

しかし、地球に着陸するはずのイカルス号は、何故か別の惑星に不時着してしまう。

その星の住人に職業を問われたテイラーは「弁護士だ」と自己紹介する。

いったんは住民と打ち解けたものの、気になる法曹志願者の回復具合を尋ねても、話が合わない。彼らは、法曹志願者の激減など知らず、弁護士は、若者に人気の職業だという。

法曹志願者激減の元凶たるロースクール制度の失敗の歴史と、それでもロースクールは素晴らしいという自身のロースクール体験をテイラーは語るが、熱弁するあまり、住人たちの態度がよそよそしくなっていたことに気づかなかった。

不意に、背後から後頭部に一撃をくらったテイラーは、牢屋に捕らわれてしまう。

国選弁護人であるブラントン博士と、テイラーは、檻越しに話をすることができた。 彼女によると、現在の法曹養成制度にロースクールというものはなく、テイラーが捕らえられたのは、架空の法曹養成制度をでっちあげる非弁の犯罪者の嫌疑を受けたからだという。
テイラーは、誤って過去の旧司法試験時代の地球に戻ってしまったのかと思ったが、奇妙なのは、 この時代の法曹養成制度では、本試験の後、合格率99%を超える1.5回試験と2回試験という2回の試験があることだった。
そのようなほぼ全員が合格する試験が2回もあるのは不合理ではないか、と指摘するテイラーに、ブラントン博士は首をかしげる。言われてみると確かにそうだが、古来から続いてきた伝統であり、疑問に思うこともなかったというのだ。

このままでは、宇宙を法の光で照らすという自己の使命を果たせないと考えたテイラーは、一瞬の隙を突いて混乱を引き起こし、やっとの思いで監獄から脱走した。

追手を巻いて、浜辺を行くテイラー。

ふと足元を見ると、合格した受験生がもう不要として廃棄したのか、はたまた司法試験から撤退した元受験生が捨てたものか、1.5回試験の過去問が、半分、砂に埋もれた状態で姿をのぞかせていた。

何の気なしに過去問を手に取りパラパラとページをめくったテイラーは、愕然とする。
それは、司法試験の過去問だった。

王道だった予備試験は、正式に法曹養成制度の本道となり実質的に唯一の関門として「本試験」と呼ばれ、ロースクール制度は廃止される一方、かつての司法試験は、合格率99%を超え、2回試験になぞらえて「1.5回試験」と称されるようになっていたのだった。

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