タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

ネット法律相談サービスへの流れ

「無料・非公開で相談ができるマッチングサイト「ココナラ法律相談」。8月下旬のローンチを目指してティザーサイトを公開。サービスに登録する弁護士の募集を開始した。」とのことです。

「500円のスキル売買」から「相談のゲートウェイ」に——ココナラが8月下旬にも法律相談サービス開始 | TechCrunch Japan
http://jp.techcrunch.com/2016/07/25/coconala/

記事の全文については、上記リンク先を見て頂きたいと思います。

実は法科大学院の設立などを背景に、2000年以降弁護士の数は大幅に増加し、その結果弁護士所得は減少傾向にある。
そのため若手弁護士を中心にウェブでの集客は進んでいるという。
そこにいち早く目を付けたのは弁護士ドットコムが運営するQ&Aサイト型の「弁護士ドットコム」。
また最近では弁護士トークの運営するチャットアプリ型の「弁護士トーク」なども登場している。

記事の中で、ロースクール設立による弁護士の増員、所得の減少と、ウェブで集客する若手弁護士の傾向が触れられています。
(司法制度改革の当初の予測に反し)弁護士の激増に対して事件数は増えておらず、経営難に陥った弁護士が、ウェブ集客を模索している、とも読めます。

このサービスは、ユーザーが遺産相続なり男女のトラブルなりの相談を投稿すると、最大5人の弁護士が回答をくれるというもの。
相談は無料で、他のユーザーに相談内容が見えることはない。
そして相談の結果、訴訟などを行う場合、ユーザーは最適な回答をくれた弁護士に連絡をして、直接依頼ができる。

記事内での順番が前後しますが、少し前に、弁護士が依頼を受けるまでの手順が書かれています。
相談者は、最大5人の弁護士の回答を見て、「最適な回答」をくれた弁護士に依頼する、というもののようです。

これを見てまず思ったのが、「依頼を受けたいがために、相談者にとって耳障りの良い回答をする弁護士が現れるのではないか」ということです。
経営難で食い詰めた弁護士が、合計5人の弁護士の中から自分を選んでもらうために何を考えるか、それを考えれば、当然このような懸念が生じます。

もちろん、弁護士職務基本規程でも結果の請負などは禁止されており、規律がないわけではないでしょう。
しかし、弁護士激増の中で食い詰めている弁護士が5人の中で受任競争をするということですので、このような懸念は増すのではないかと思います。
相談と回答が非公開であり、他者の目に触れないというのも、他者の目による是正を行わせにくい状況といえます。

参考、他者の目による是正が行われた例

死亡した方の親兄弟は、配偶者がいる場合には相続人とはなりません(?) - タダスケの日記
http://d.hatena.ne.jp/tadasukeneko/20130503/1367549307

1人で即独した若手弁護士が、このようなサービスに登録して、誰のチェックも受けないまま多数の回答をしているのを想像すると、一抹の不安がよぎるのは私だけでしょうか。
(もちろん、1人の即独であっても相談できる先輩弁護士がいて相談しているなど、回答のクオリティを確保する努力をしてくれていれば問題ありませんが)


もっとも、だからといってこのようなサービスが良くないというつもりはまったくなく、相談者から見たら手軽に「相見積もり」のようなものが取れるサービスですから、利便性が高く魅力でしょう(費用の提示まではないように感じましたので、正確には見積もりではないですが)

ネットが発達していくのは時代の趨勢ですし、弁護士業も、これからますますネットを利用するような方向に進んでいくと予想しています。

最近、話題になっていた記事でも、以下のようなものがありました。

GitHubを使って法務コミュニケーションのスピードを2倍にした話 by 大谷 昌継 | Wantedly Engineer Blog
https://www.wantedly.com/companies/wantedly/post_articles/30679

IT企業が、自ら提案して顧問弁護士との法律相談をGitHubを使ってするようにしたらメリットがあった、ということのようです。

内容を大まかに説明しますと、GitHubには、プログラムを公開していて、これについて改良点に気付いた人が「Issue」(英語で「問題」です)を上げる、という形でその提案をして、これをネットで複数人がチャットのような形で議論する、という仕組みがあります。
そして、議論に結論が出たら、実際にプログラムを改良します。
(私自身が使いこなしているわけではありませんので、間違えていたらすみません)

この「Issue」を上げる、議論をする、というあたりの機能を、「顧問弁護士に疑問点を相談する」「議論する」ということに応用した、ということのようです。

これは、依頼者側がIT企業であって、GitHubの使い方に詳しい、慣れているからできたのであって、弁護士が非IT企業の顧問先にまったく同じ提案をしても、うまくいくかは難しいと思います。

そうした場合でも、いわゆるビジネスチャットを使えば、メールよりも便利に情報交換できると思います。
以下のChatWorkなどは、国産なので日本語対応は問題ないですし、個人的にも注目していますが、実際の導入事例も複数よるようです。

導入事例 | チャットワーク(ChatWork)
http://www.chatwork.com/ja/case/professional.html

こう書くと、ロースクール推進派の中には、「ロースクール制度による弁護士増員のおかげで、このような新しい法務サービスに弁護士が進出するようになった」と厚顔無恥に我田引水な議論を展開する輩も出てくるかもしれません。

確かに、弁護士の増員がこのような新しい試みを促進したことは否定しませんが、増員だけであれば、旧司法試験のような負担の少ない一発試験のまま、黙って合格者を1500人、2000人と増やせば足りたことです。

ロースクールの高い負担と、それに比べて乏しい成果、また法曹志願者の激減とこれから必然的に予想される弁護士の質の低下といった、ロースクールが及ぼした悪影響を考えると、これをもってロースクールの強制を正当化することは到底できないだろうと思います。

おまけ、深津をほめるおじさんが司法制度改革を語るとどうなるか

(「深津をほめるおじさん」については下記ブログを参照のこと)

スラムダンクの深津をほめるおじさんについて - 真顔日記
http://diary.uedakeita.net/entry/2016/07/28/001904

ここで一旦、スラムダンクを離れ、「深津をほめるおじさん」を他の場所に連れ出してみよう。
例えば、このおじさんが司法制度改革を語る場合はどうなるか。

おそらく表層的な個々の要素には言及しないだろう。

学費の経済的負担が大きいから奨学金を拡充しよう、時間的負担が大きいから飛び級制度を充実させよう、適性試験がローの受験をしにくくしているから任意化を検討しよう、と盛り上がる法学者たちを制して一言、

「弁護士の経済的価値だ。弁護士の経済的価値の低下により職業としての魅力も下がったせいだ」

「いや、そんなこと言ったら増員できないし、そうなればロースクール制度も存続できないんだけど…」と戸惑う法学者をよそに、深津をほめるおじさんは滔々と持論を述べ立てることだろう。

「今回の司法制度改革において何よりも批判されるべきは、法曹需要をまったく見誤った司法制度改革審議会だろう。
近年の法曹志願者の激減に関して責任を負うべきは、教育力の不足により廃校を余儀なくされた下位ロースクールではなく、的外れの議論ばかりして時間を浪費し、実効的な対策を打てない各有識者会議と言える。
そして目立たないが、ロースクール制度の体たらくを見て、法曹を避けるという良い判断をした若者たちの賢慮も、ロースクール制度の凋落に貢献しただろう。
ちなみに予備試験に関しては及第点。同じく一発試験である旧司法試験の全盛期のキレを知っている私からすれば、現在の予備試験はとても満足のいく出来とは言えないが、微増の兆しが見えていることを前向きな材料と捉えたい」

このへんでまわりから法学者が消えている。


弊ブログ、関連エントリー

予備試験と同居しても、ロースクールは法曹養成がうまいと思えるか?(国学院法科大学院、募集停止) - タダスケの日記
http://d.hatena.ne.jp/tadasukeneko/20150617/1434543050