タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

法務担当者にレベルが低いと評価されるロースクール卒業生

以下のブログを見させて頂きました。

これでいいのか、ロースクール?|団塊ジュニアサラリーマンと仮免中小企業診断士
http://ameblo.jp/pergy/entry-12136430359.html

自社の法務担当者の中途採用をされている方とのことですが,

はっきりいって、ロースクール卒業生はレベルが低い(人が多い)と感じます。。

完全に主観ですが、
現状では、明らかに企業法務としてはロースクールは不要と言わざるを得ない

とおっしゃられています。

書かれているほとんどの内容について,大いに賛同できました。

引用するとするとほとんどすべてになってしまうので,内容に興味ある方は,リンク先のブログを見ていただけたらと思います。

ロースクール卒業生は,なぜレベルが低いのか

元ブログの方の意見とは別に,あらためて考えてみますと,
原因の1つとして,法曹志願者が激減し,母数が減った結果,ここから選抜されたロースクール生(卒業生)のレベルが下がっていることが考えられます。

これはロースクールの教育内容とは直接の関係はない要因です。
例えば,旧司法試験の受験者5万人の時代から,一発試験のまま,受験料を1千万円にしたとして,受験者が2500人に激減したとします。
合格者も,受験者の減少に比例させて減少させれば質はまだ維持できますが,例えば制度変更の前後で変わらず1500人のままとしたとすると,競争が緩くなるわけですから,合格者の質は下がります。
適性試験出願者の段階で激減しているわけですから,ロースクール受験者とその合格者(つまりロースクール学生)の関係でも競争緩和が起きていますから,ロースクール学生の時点でも,質の低下が生じていると思われます。
つまり,ロースクールの教育があろうとなかろうと,法曹志願者の激減は,ロースクール生・卒業生のレベル低下につながるのです。

原因の別の1つとして,ロースクールの教育が,実務家の能力を育むような内容でない,ということが考えられます。

「理論と実務の架橋」と謳ってはいますが,ベースは学者が考えたカリキュラムであって,ビジネスマンとしての戦力を高めるものとは到底思えません。
(弁護士にならずに,企業の法務部の社員となるロースクール卒業生を想定して,ビジネスマンと表現します)

身近な例で言えば,ビジネスで記憶に頼ることは,あまりないのではないでしょうか(職種にもよるとは思いますが)。
むしろ,記憶頼りにせずに,聞いたことはメモをとることを,新人に指導したりします。

一方でロースクール(の期末試験),また司法試験を見ると,旧司法試験の論証吐き出しの弊害からの脱却が図られているとはいっても,やはり記憶することのウエイトは高いものがあります。
例えば,司法試験の憲法の採点実感などを見ると,以下のように受験生が怒られています。

平成26年司法試験の採点実感等に関する意見 - 法務省
p6
(5) 答案全体の印象について
・ 審査基準については,設問1,設問2ともにバラエティに富んだ記載がなされている印象であった。
もっとも,残念ながら,判例に言及したり,判例を引用したりする答案は少なく,判例・学説を漠然と理解しているため不正確にしか基準を表現できていない答案も散見され,それがバラエティに富んでいるとの印象の原因と思われる。
http://www.moj.go.jp/content/001130132.pdf

受験生としては,判例の示す審査基準を「正確」に「表現」するために,これを記憶することになります。
これを数十の判例について行い,またこれが8科目あるわけです(憲法行政法民法,商法,民訴法,刑法,刑訴法,選択科目)。

もちろん,これ自体が絶対的に悪いというわけではなく,試験という性質上,自由作文を書かせても採点不能ですから,書かせるべきことがあって,これに対する受験生はそれを記憶しなければならなくなることはやむを得ません。

しかし,ビジネスではそれほど大量に記憶を強いられることは,あまりないように思います。

他にも,ロースクールとビジネスで違う点は,数えきれないほど感じます。

例えば,ロースクールの学生は1日10時間など勉強しますが,ビジネスでこれを勤務時間にすると残業になってしまいますし,労務的な基準(過労死ラインなど)もありますし,むしろ抑制する方向で考えなければなりません。

このように有限の労働力の中で生産性を上げるために,優先度の高いタスクからやる必要がありますし,それは逆に言うと,限られたリソースを配分する観点からは,優先度の低いタスクはやってはいけないとさえ言えます。

しかし,ロースクールで「これは試験に出なさそうで効率が悪いから勉強しません」と言ったら,評価されるどころか怒られるような気がします。

このように,ロースクールの中とビジネスの世界とでは,価値観がまるで正反対のことが多いのですから,そうしたロースクールの中での経験が,ビジネスで生きるわけがないと感じています。

ロースクールとは,しょせんは学校であり,畳の上の水練,司法試験のための準備をする場所であって,そこでなにがしかのビジネススキルが身につくということは,あまり望めないのではないかと思います。