タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

白い服の男

(※本エントリーは星新一著「白い服の男」を元にしたパロディーです。元作品の若干のネタバレを含みますのでご注意願います)

白い制服を着用する主人公の男は特殊警察機構89605分署の署長で、今日も職務に励んでいた。
盗聴室では,担当の係が各所に仕掛けられた盗聴マイクを通して盗聴をしていた。
くだらない会話,面白い会話,ときには犯罪の謀議を聞くこともあるが,そんなものは特殊警察の仕事ではない。一般の警察に任せておけばいいのだ。
彼らが取り締まる対象はただひとつ、「ロ」だけなのだ。

主人公はパトロールに出かけた。
町の広場では,金属製の柱に数名の男女が鎖でしばりつけられている。
通りがかりの人々が,そなえつけのムチでひっぱたいていた。
柱には「司法制度の敵」と記された標識がつけられていた。

主人公が署に戻ると,市民からの密告があったとの報告があった。
主人公は,部下に対してただちに密告対象の少年への急襲を命じ,その結果,「ロ」の写真が見つかった。
教室のような室内で,初老の教員が少ない学生を前にして何かの講義をしているようだった。
「にくむべきロの写真だ……」
少年は即座に逮捕・連行された。

少年は拷問にかけられ,写真の出所を自白した。
部下が,写真の出所を目指して逮捕に急行した。
少年は,数日中に極刑に処せられるだろう。

午後になり,主人公は閉鎖図書館へ視察に出かけた。
そこでは,歴史の全面的な書き換えが行われていた。
書籍の中から「ロースクール」という文字を抹消するためだ。

人類の歴史において,ロースクールなる制度は過去に存在しなかった。
そう統一しなければならない。
歴史的事実を改ざんすることは感心することではないが,それと正常な司法制度とどちらをとるかといえば,わかりきったことだ。正常な司法制度に決まっている。

法曹志願者はなぜ激減したのか。いうまでもなく,遵法意識が社会に浸透し,法的紛争が少なくなった結果,弁護士の需要が減ったためだ。
弁護士の収入はなぜ減ったのか。弁護士が特権意識を捨てて,法的サービスを国民に安く提供するようになったからだ。
一部の弁護士は生活が苦しくなったが,人々のお役に立つ仕事をしていれば、飢え死にすることはなかった。
万一,飢え死にする弁護士がいたとしても,人々から感謝されたことで、喜んで成仏することができた。

ロースクールについてのことを一切のぞき,このように正しく書きあらためた書籍は,一般の図書館へ送られ,また市民の閲覧に供せられるのだ。

図書館を出て,主人公は署に戻る。
帰り道で,とりとめもない考えがその頭に浮かんだ。

しかし,わからぬことだらけだ。過去の連中が理解できない。
むかしのやつらは,ロースクールの数を減らしたり,予備試験を制限したりすれば,ロースクール制度が維持できると考えていたらしい。
一方で,法的需要もないのに膨大な合格者を輩出し続けた。
それでも,「司法制度改革の理念」と唱え続ければ,ロースクール制度を維持できると思っていたらしい。

なぜロースクール制度を廃止し,ロースクールの概念を一掃することを考えなかったのだろう。
ロースクールを維持しながら,まともな法曹養成をしようとする。バカではないのか。

そうじゃないか。だからこそ,21世紀のはじめにめちゃくちゃな司法破壊を始めやがったのだ。
法曹になることを諦めた潜在的法曹志願者,事実上法曹への道を閉ざされた社会人,過酷な経済的・時間的負担を課されたロースクール生,不当に合格を制限された予備試験受験者,貸与制という名の借金を負わされた修習生,就職難に苦しめられた新人弁護士,既存の弁護士,法的サービスを受ける立場の国民,様々な人たちに甚大な迷惑をかけた。
その悲惨さ,そのむなしさ,そのばかばかしさ。お話にもならない。

それに耐えぬいた人類が,力を合わせて,やっとここまで司法制度を復興させた。
その初期に,この方針が決まったのだ。
ロースクールという概念を決して次代に残すまいと。

主人公は自分の制服を見る。真っ白。純白な公正さの象徴だ。
そしてロースクールという有害な制度を押さえる医者でもあるのだ。

主人公の携帯へ部下からの連絡が入った。また密告があったという。
主人公は命じる。
「よし,5名ほど署員をそこにむけろ。逃げる者があれば,すぐ射殺せよ。わたしもすぐそっちへむかう」

ご注意

この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称・法曹養成制度等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

元ネタ

白い服の男 - Wikipedia

あらすじ
世界大戦後の世界。白い制服を着用する主人公の男は特殊警察機構89605分署の署長で、今日も職務に励んでいた。特殊警察機構とは超法規的存在で、無差別盗聴や密告を駆使し、市民を監視していた。しかし、凶悪犯罪の証拠を掴んでも無視し、一般警察が担当する仕事には一切口出ししなかった。彼らが取り締まる対象はただひとつ、「セ」だけだった。特殊警察に捕らえられた者は拷問により取り調べられた後、広場で「人類の敵」として公開処刑される。この時代でも当然許されざる行いだが、「セ」に関しては別だった。
管轄下の閉鎖図書館では、過去の文献・情報の書き換えや、焼却[2]を行い、さらに古戦場や城跡の遺物を処分し、存在理由を捏造するなど、徹底して「セ」、つまり「戦争」(作中ではその言葉を恐ろしがって誰もが「セ」としか言わない)に関する証拠の抹消を図っていた。
通報を受け、新たな事案に向かう主人公は、己の白い制服を見やり、誇らしげに地球を救う医師になぞらえるのだった。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BD%E3%81%84%E6%9C%8D%E3%81%AE%E7%94%B7

高橋宏志 - Wikipedia

法科大学院の創設と弁護士増員による競争激化を懸念する声に対して、「食べていけるかどうかを法律家が考えるというのが間違っている」、「人々のお役に立つ仕事をしていれば、法律家も飢え死にすることはない」「飢え死にさえしなければ、人間、まずはそれでよいのではないか。その上に、人々から感謝されることがあるのであれば、人間、喜んで成仏できるというものであろう」[2]と法律家としての心構えを述べており、しばしば成仏理論などと批判的に言及されている。なお、その本人は東大退官後、四大法律事務所の一つである森・濱田松本法律事務所に天下りし、「お前ら成仏、俺モリハマ」という言葉で揶揄されるようになった。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%98%E6%A9%8B%E5%AE%8F%E5%BF%97