タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

深刻化する新人弁護士の就職難

悪化する就職環境

新人弁護士、かすむ未来 事務所入っても少ない仕事

2015/5/29 1:53日本経済新聞 電子版

 給料は月額20万円台。個人で案件を取ってくることは禁じられ、歩合給はゼロ――
念願の司法試験に合格し、首都圏で弁護士になった男性は、こんな勤務条件で小さな事務所に就職した

(中略)

「就職難の時代に事務所に入れただけ良かった」と思いながら仕事を始めたが、程なく事務所に違和感を覚えるようになった。
 
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO87426830Z20C15A5CC1000/

記事は「こんな勤務条件で小さな事務所に就職した」と第三者の視点で表現されていますが、当事者である新人弁護士の視点で見れば、「こうした条件で就職することに合意した、または就職を決めた」となるでしょう。

つまり、拉致されて強制労働されているのでもないので、こうした条件での就労に、自己の判断で同意したということです。

こうしたことから推察すると、他の事務所の求職条件は、この事務所の勤務条件よりさらに劣っているか、または、他の事務所の求人がそもそもなかった、ということになります。

(もっとも勤務条件は、取扱分野など報酬面以外の考慮もありますし、この弁護士にとっての主観的、総合的な判断ということになるでしょう)


また、記事の後半では、この新人弁護士は退所して独立しています。

経験も人脈もないまま事務所を離れ、弁護士としての仕事はゼロ。

このときも当人としては、他の事務所への転職も考えたとは思います。
しかし、良い転職先がなかったということなのでしょう。

推定年収

給料は月額20万円台。

参考までに、この条件での年収を、25万と28万の場合で計算してみました。

月給 賞与なし 賞与あり(年2か月)
25万 300万 350万
28万 336万 392万

おおよそ300万〜400万となりました。

さらに、弁護士会費が自己負担か事務所負担か、また社会保険の負担がどうか、などで実質的には数十万の増減があるでしょう。

司法試験の不合格リスク、受験専念の間の数年の不就労期間とその逸失利益、ローの学費負担、修習中の生活費といったリスク・負担を考えると、この経済的条件ではペイするのは難しいのではないでしょうか。

これらの負担による「足かせ」があるわけですから、一般の就職と同等の経済的リターンしか見込めないのであれば、少なくとも経済的には弁護士になることのメリットはないことになります。

弁護士(多大な負担付きの年収300万)<<<<越えられない壁<<<<一般の就職(負担なしの300万)

そしてこうした法曹を選ぶことの不経済性が周知となり世間一般にフィードバックされれば、優秀な若者の法曹離れはますます進むことになります。

楽観的すぎる政府提言案

法曹人口の在り方について(検討結果取りまとめ案)

司法試験合格者数(平成23年までは新司法試験合格者数)でいえば,おおむね毎年1,800人ないし2,100人程度の規模の数を輩出しているところ,この規模については,現状において,新たに法曹となる資格を得た者のうち多くのものが,社会における法的需要に対応した活動の場を得ているという点で,一定の相当性を認めることができる。他
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/hoso_kaikaku/dai20/siryou5.pdf

ところで、有識者会議や、某ジュリナビでは、新人弁護士も「結局は就職できているではないか」という主張がさかんにされています。

確かに、勤務条件が旧司法試験時代と同等であれば、こうした主張は妥当であるでしょう。

しかし、当然のことながら、供給過多の厳しい就職状況の中で、新人弁護士は希望する勤務条件を下げて就職しているわけです。

そして、弁護士の経済的リターンが一般の就職と同等になったときは、より一層法曹離れが進むであろうことは、上で書いた通りです。

おまけ、韓国の法曹養成制度

日本のロースクール制度の悪い点を見ながら創設されたということですが、あまりうまくいっていないようです。

ロースクール導入を反省する」 法学教授会が「司法試験の存続を」と声明
MAY 30, 2015 07:09
東亜日報

法学部の教授約500人が所属する大韓法学教授会が29日、大韓弁護士協会とソウル地方弁護士会に続き、法曹関連団体としては3番目に「司法試験の存続」を求める声明を出した。
大韓法学教授会は同日、「国民を無視し、ロースクールを押しつけた主導勢力の一つが法学教授だったことを反省する」とし、「2013年に司法試験の存廃を再議論することを約束した国会は、この問題を早く公論化しなければならない」と求めた。彼らは、「国民の75%が司法試験の廃止反対」という東亜(トンア)日報の世論調査の結果と弁護士団体の相次ぐ声明に対して、「深く羞恥心を感じ、熱い支持を送る」と述べた。

教授会は、「米国式ロースクールは本来学部制だったが、修士卒業証書が弁護士市場で顧客誘致に役立つという営業戦略によって大学院制に移ったもので、これを法で強制してはいない」とし、「韓国は(法で大学院制を強制し)庶民の法曹進出の機会を妨げる奇形的ロースクールだ」と主張した。また、「川岸で網を投げたことのない『書生』(ロースクール教授)が漁師になろうとする『人々』(ロースクール生)に本の内容だけ伝えればいいという思考に陥っている」という現職ロースクール教授の言葉を引用し、ロースクールの実務教育に対する内部の懐疑論も伝えた。

大韓法学教授会は、ロースクール非認可大学の約500人の法学部教授が参加して2013年に設立された団体だ。現在、ロースクールがない全国約70の大学の法学部に毎年7000人程が入学している。ロースクール認可大学25校は、2009年から法学部の新入生の募集を停止している。
http://japanese.donga.com/srv/service.php3?biid=2015053097368

この中で、法曹養成制度を「大学院制」としたことが反省されていますが、日本は「学部+大学院制」と、既存制度に上乗せになっていますので、その学生への負担はさらに著しいものがあります。

参考サイト

法科大学院生、ロースクール生、弁護士の就職・採用ならジュリナビ
67期司法修習終了者の就職状況 〜4月時点〜
https://www.jurinavi.com/market/shuushuusei/shinro/?id=108