タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

走れメロス(愛知学院大法科大学院の募集停止)

メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の法学者を除かなければならぬと決意した。
メロスには司法制度改革がわからぬ。メロスは、ある大学の法学部学生である。
バイトと合コンにあけくれ遊んで暮して来た。
けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。
きょう未明メロスは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此この愛知学院ロースクールにやって来た。
メロスには父も、母も無い。女房も無い。
十六の、内気な妹と二人暮しだ。

メロスには竹馬の友があった。セリヌンティウスである。
今は此の愛知学院ロースクールで、ロースクール生をしている。
その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。
久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。

歩いているうちにメロスは、ロースクールの様子を怪しく思った。
ひっそりしている。
もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、学校全体が、やけに学生が少なくて寂しい。
のんきなメロスも、だんだん不安になって来た。

廊下で逢った若いロースクール生をつかまえて、何かあったのか、10年まえに此の学校に来たときは、ロースクール開校直後で夜でも大勢の学生が勉強しており、学校は賑やかであった筈はずだが、と質問した。
若いロースクール生は、首を振って答えなかった。
メロスは両手でロースクール生のからだをゆすぶって質問を重ねた。
ロースクール生は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。

「法学者は、法曹養成制度を破壊します。」
「なぜ破壊するのだ。」
「心の貧困を抱いている、というのですが、誰もそんな、心の貧困を持っては居りませぬ。」
「たくさんの法曹養成制度を破壊したのか。」
「はい、はじめは旧司法試験を。
それから、修習生の給費制を。
それから、就職難により若手弁護士のOJTの機会を。
それから、地方ロースクールも見殺しにしました。
通学の困難な社会人も見捨てられています。
それから、自らが作った受験資格制限の3回制限合格者3000人を目指すという閣議決定商法以下の択一試験を廃止・撤回し,混迷を極めています。
それから、最近では予備試験を制限することで頭がいっぱいのようです。」
「おどろいた。法学者は乱心か。」
「いいえ、乱心ではございませぬ。法曹志願者が修習とOJTを通じて1人前の弁護士になれるなんて、信ずる事が出来ぬ、というのです。
このごろは、現役ロースクール生の心をも、お疑いになり、ロースクール生の予備試験受験禁止を検討して居ります。」

 聞いて、メロスは激怒した。「あきれた法学者だ。生かして置けぬ。」

元ネタ

走れメロス青空文庫

愛知学院大が法科大学院の募集停止 志願者減で定員割れ続き 平成28年度から
http://www.sankei.com/west/news/141218/wst1412180075-n1.html

メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐じゃちぼうぎゃくの王を除かなければならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。きょう未明メロスは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此このシラクスの市にやって来た。メロスには父も、母も無い。女房も無い。十六の、内気な妹と二人暮しだ。この妹は、村の或る律気な一牧人を、近々、花婿はなむことして迎える事になっていた。結婚式も間近かなのである。メロスは、それゆえ、花嫁の衣裳やら祝宴の御馳走やらを買いに、はるばる市にやって来たのだ。先ず、その品々を買い集め、それから都の大路をぶらぶら歩いた。メロスには竹馬の友があった。セリヌンティウスである。今は此のシラクスの市で、石工をしている。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。歩いているうちにメロスは、まちの様子を怪しく思った。ひっそりしている。もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい。のんきなメロスも、だんだん不安になって来た。路で逢った若い衆をつかまえて、何かあったのか、二年まえに此の市に来たときは、夜でも皆が歌をうたって、まちは賑やかであった筈はずだが、と質問した。若い衆は、首を振って答えなかった。しばらく歩いて老爺ろうやに逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。老爺は答えなかった。メロスは両手で老爺のからだをゆすぶって質問を重ねた。老爺は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。
「王様は、人を殺します。」
「なぜ殺すのだ。」
「悪心を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪心を持っては居りませぬ。」
「たくさんの人を殺したのか。」
「はい、はじめは王様の妹婿さまを。それから、御自身のお世嗣よつぎを。それから、妹さまを。それから、妹さまの御子さまを。それから、皇后さまを。それから、賢臣のアレキス様を。」
「おどろいた。国王は乱心か。」
「いいえ、乱心ではございませぬ。人を、信ずる事が出来ぬ、というのです。このごろは、臣下の心をも、お疑いになり、少しく派手な暮しをしている者には、人質ひとりずつ差し出すことを命じて居ります。御命令を拒めば十字架にかけられて、殺されます。きょうは、六人殺されました。」
 聞いて、メロスは激怒した。「呆あきれた王だ。生かして置けぬ。」
http://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/1567_14913.html