法科大学院が,司法試験合格率が7割〜8割あるかのように騙り,学費の名目で,学生から数百万の金員を偏取したという事実で,国家的詐欺罪に問われる。
争点は,法科大学院制度に合理性が認められ,正当業務行為として違法性が阻却されるかどうかだった。
司法制度改革の崇高な理念,法科大学院の授業は素晴らしいという学生の証言,ロー卒新人弁護士の喜びの声などから,無罪は間違いないと思われた。
1回目の投票では、ただ1人の陪審員(8番)だけが「有罪」を主張した。
圧倒的多数の11人は「無罪」だった。
評決は全員一致でなければならない。
8番は言う。
「多くのロースクール生の人生を惑わせた被告人を,5分で無罪に決めて,もし間違っていたら?
1時間話そう。
ナイターには十分間に合う」
そして、議論が始まる。
「法科大学院に特有の,非常に有効な型の授業」とされたソクラテスメソッド式の授業は、実際には行われておらず,実際の授業はどこにでもある講義形式の授業だったことが分かった。
再投票で10対2になった。
法科大学院の授業を賛美する学生の証言は,法科大学院教員との座談会で得られたものであり,バイアスがかかっている疑いが濃厚だった。
成功例として挙げられていた新人弁護士は,1000万円の借金を抱えていた。
法科大学院の合理性を疑わせる事実が、白熱した議論と検証を通じて少しずつ分かってくる。
8対4、6対6、3対9…、投票を重ねるに従って「有罪」の評決が増えていく。
とうとう、1対11。
無罪を主張する者は3番一人になった。
「法科大学院は正しいに決まっている。
悪いのは,あの予備試験受験者の連中だ。
連中は,司法制度改革のことも知らず,手前勝手に「自分だけはできる」と勘違いしている。
奴らは根っからの心の貧困なクズなんだ。」
議論に興奮したのか、予備試験受験者へのあからさまな中傷を夢中でしゃべった3番(浜辺陽一郎)は、自分の心の中に強くある差別感情と偏見を自ら告白する結果になった。
法科大学院を避けて,予備試験へ流れる法曹志願者を嫌悪するあまり,彼は,法科大学院を極端に神聖視するようになっていたのだ。
ほかの11人の陪審員たちは絶句して,全員が,無言で彼を非難のまなざしで見つめる。
3番は,泣きながら机に突っ伏して,最後に言った。
「guilty(有罪だ)」
かくして、12人全員が有罪を表明するに至った。
散りじりに裁判所を出る陪審員たち。
8番に,9番の老人が声をかけてきた。
「お名前は?」
8番「和田吉弘です」
二人は握手して別れた。
先程までの雨が嘘のように止んでいた。
あとがき
原作を知っている方は,あまりいらっしゃらないと思いますが,筋がネタ化しやすいので,書いてみました。
原作も面白いですので,機会があれば観てはいかがでしょうか。