タダスケの日記

ある弁護士の司法制度改革観察記録

「法科大学院10年 質高め改革の加速を」毎日新聞 2013年09月17日

はじめに言っておきますと,最近少なくなってきていた,すごいバイアスがかかっている記事です。

法科大学院10年 質高め改革の加速を
http://mainichi.jp/opinion/news/20130917k0000m070083000c.html

司法試験合格率の低迷が指摘され、司法修習を終えても法律事務所に就職できない弁護士が急増するなど司法を取り巻く環境が変化した。近年は入学者も減少傾向だ。

冒頭で,最大の問題点が提示されています。
就職難=需要がない,弁護士が多すぎる,ということですから,大増員政策の根本が揺らぐような重大な事実です。

それでも先日の司法試験合格発表によると、2049人の合格者のうち法科大学院修了者が約94%を占めた
近年は制度の行き詰まりや限界さえ指摘されるが、法律家養成の中心になっているのは間違いない。より充実した教育が実施できるよう政府、司法界は知恵を絞るべきだ。

何だか,ものすごいところを切り取ってきました。
受験者の段階で,予備試験経由の者と,ロースクール経由の者との割合が50対50よりかなり偏っているわけですから,合格者の両者の割合が偏っているのも当然のことです。
恣意的に何かを印象付けようとしていることが推測されますが,これを偏向報道と言わずして何をそう言うのでしょうか。

低い合格率が最大の問題点だ。

「最大の問題点」とは思いません。
旧司では,もっと合格率が低かったですが,志望者が集まっていました。

合格率が極端に低ければ学生は集まらず、質の高い教育の維持は難しい。

ここは疑問なのですが,人数が少なければ,双方向の授業ができて,マス教育よりも,質の高い教育ができるのではないでしょうか。

文科省の締め付けで音を上げる前に、まず他校との統合や提携などを積極的に模索し、教育の質の向上を図るべきだ

ここも,良く分からないのですが,「他校との統合や提携」をすると,「教育の質」が向上するのでしょうか?
毎日新聞も,朝日や読売と統合,提携すると,報道の質が向上するかもしれませんね。

教員と学生が双方向で時間をかけて法律や実務の知識を深めていく授業スタイルへの評価は低くない

「低くない」という「評価」を下した主体は,誰なのでしょうか?
社説によくある,人間や団体などを主語にせず,さらに書き手の価値判断を含んだ語をさりげなく混ぜて,特定の価値観を読者に印象付ける書き方です。

このような社説特有のレトリックはアンフェアであり,その評価は決して高くはない(と私は思う)。

ならば法科大学院修了後の出口でふるいにかけるのではなく、入学者選抜試験という入り口で一定の選別をし、出口をプレッシャーのない試験方法にすることも真剣に検討すべきだ。
受験勉強的な要素を排し教育の密度と多様性を高めるのだ

今でも,ロースクールでは,受験勉強のための授業は極力,排除されているんですけどね。
「出口にプレッシャーがないと,在学中に良い教育ができるか」という点については,今の大学が大体そのような状況ですが,レジャーランドと化しています。
ロースクールも,そうなってしまう気がします。

外国との経済取引の拡大で法廷実務以外で通用する法律家の需要は高い
一方で、地方をはじめ国民に十分な司法サービスが行き届く体制が整備されたとは言えない

要するに需要はある,と言いたいらしいですが,冒頭で挙げた「就職難」の状況と矛盾しています。
一見矛盾しているように見えるが,実は矛盾していない(ミスマッチ論など)というのであれば,それを説明しないと,意味が不明です。

政府は「年間3000人」の合格者目標を撤廃した。
だが、法科大学院を軸に現状レベルの合格者を出す方向性は維持すべきだ

最後に結論を述べていますが,ここまでに一切合理的な理由が挙げられていないので,まるで説得力がありません。

仮にこれが司法試験の論文であれば,採点実感で,「暗記したロースクール肯定論を,紋切り型に抽象的に浅く論じているだけで,具体的な事実の摘示,分析に乏しく,説得力に欠ける」と断じられるところです。